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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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51/127

51: 伯母 (アーネストside)

長らくお待たせしてしまいました。

 本当は、華旺国に向かう途中で食ってやろうかと思っていた。

 そりゃ、そうだろ。

 貴族のお嬢様を連れ回して、あまつさえ同室に寝泊まりして"何もなかった"などと、たとえそれが真実であろうとも、誰も信じない。

 だったら、どっちだって一緒だ。

 俺にとって、()()()以外は全て同列。

 そう思っていたのに―――。


 *****


「お前は何がしたいんだ?」

 見目麗しい第三王子が、底冷えするような黄緑の瞳でこちらを見る。

 世間的な噂では、第三王子は見た目だけで中身は使えない、と言われている。

 でも、もうある程度目端の利く奴は気付いている。レオンハルト王子が噂通りの男ではないことを。

 成人するまでは放任だった陛下が、徐々に公務に加えたり、軍の出動する案件に、金髪の男がものすごい魔法で魔物を一掃した、だのの話がチラホラ出始めている。

 そんな男が唯一執着を見せているのが、「黒」にもかかわらず殿下の幼なじみだというフィオレンツィア・カーライト伯爵令嬢。

 呑気な貴族どもは「黒」と聞いただけで関り合いになりたがらない。そんな陰に隠れて、わざわざ「黒」とかかわることに何かある、と考えるのは必然だろう。

 そこに目をつけた()()()の目敏さに、もはや何も思わなかった。

 そして、案の定俺を使うのだ。

「ねえ、アーネスト?あなたなら出来るわよねぇ?あの黒いお嬢さん、手に入れたいわ」


 *****


「レオンハルト殿下は、もうご存知なんじゃないですか?華旺国に近づくにつれ、あのターナー伯爵令息がチョロチョロしていて、目障りでしょうがなかった」

 里にいるはずのターナーが、姿を表した時にはさすがに驚いた。

 ヤトからは里を出入りするための森はそう簡単に行き来できる所ではない、と聞いていたから。

 やっぱり、レオンハルト殿下の従者なんてものは生半可な者では務まらないのか、とうんざりした。


 レオンハルト殿下が滞在している部屋に連れて来られた。俺の部屋とたいして変わらない間取りや調度品に驚いた。この国では階級というものはあまり重視しないらしい。

「アランが調べてきたことは、エルゼバン領の鉱山が既に枯渇している、ということ。それをあの夫人は陛下だけでなく、エルゼバン公爵にすら隠している、ってことかな」

 隠してる、っつーのにそれをキッチリ暴いてくるあたり。

 器用にこの国の茶器を使って、王子自らが茶を入れている。

「俺が思うに、多分鉱山はまだ枯渇してないだろう?」

 この、王子は。どこまで気づいているのか……。


「そこまでご存知なら、俺の目的もわかってるでしょうに」

「いや、俺が聞きたいのは()()()()()()()()()だ」

 紅茶よりも色が緑寄りのこの国のお茶は苦手だ。王子から無言で差し出されたそれを、ひと口飲んだ。

「あの女狐の駒になっているのは知っている。お前の望みは本当にそこか?」

「……っ!何も知らないくせに、解ったように言わないで下さい」

 さすがに、瞬時に頭に血が上った。

 ギッと睨んで顔を見れば、さっきから一切変わらない。冷静で冷たい底冷えする瞳の奥には、質問しているというのに、興味も苛立ちも怒りも嫉妬も憐憫も同情も、何の感情も入っていない。無機物を見るように見られている。

 多分、フィオレンツァを見る時以外はコレが王子の通常なのだ。

 ゾッとする。

 感情の抜けた美しい顔は、そっちこそ無機物のよくできた人形のように見えた。

 ああ、俺はきっとここで終わりなんだな、と急に気づいた。

 この王子に捕まった時点でもう詰んだ。


*****


 幸か不幸か、産まれた時から容姿にはそこそこ恵まれていた。

 オレンジががったブラウンの髪は、タレ目と相まって、子供の頃は女の子と間違われるくらい可愛らしかったらしい。

 ちょっと微笑んでれば、周りの大人達がニコニコしてくれるのを、幼いながらに分かってやっていた。

 それが、綺麗なものが好きな伯母の目にとまるのは早かった。

 生家のはずの、母の嫁ぎ先の男爵家に住んでいた記憶がほとんど無い。伯母に気に入られてから、王都にある公爵家のタウンハウスが俺の家だった。

 王都で顔の広い伯母は、しょっちゅうどこかのパーティーやお茶会に呼ばれ、自分も開催していた。

 そんな時には必ず伯母と同伴させられ、見せびらかしてまわるのに付き合わされた。

 小さい頃はわけもわからず大人からチヤホヤされるがままだった。

 少年の頃になると、連れまわすことに飽きた伯母とその取り巻き達にほっとかれた俺は、実家には帰らず王都で好きにさせてもらった。

 屋敷を抜け出して、質素な服で変装して商店街を一人でドキドキしながら散策したのを皮切りに、平民街をウロウロしたり、安宿に何泊もしてみたり、放任をいいことに自由にしまくっていた。

 年頃になって行動範囲が広がると、王都を離れ旅に出てみたり、下町のアンダーグラウンドな世界に首を突っ込んでみたり、貴族のくせにその根無し草のような生活が気に入っていた。


 そんなある日、エルゼバン領にある良質な鉱石が出ていた鉱山が枯渇した、と連絡が入った。

 グーラート王国でもその採掘量と品質の良さを誇っていたエルゼバン領の大事な収入源がなくなってしまったのだから、そりゃあ伯母の取り乱し方はすごかった。

 工業製品向けの鉱石よりもジュエリーとしての宝石を多く産出していたため、伯母は貴族のご婦人達の間では一目置かれていて、それを糧に人脈を広げ影響力を増していたが、ソレがなくなったら社交界での伯母の立場がどうなるかはわかったもんじゃなかった。

 原因は長年その鉱山で鉱脈を読んで採掘を指示していた男が亡くなったから。

 その男こそが、実は華旺国から嫁いできた黒の蝶の直系の最後の1人だったのだ。


 それと同時に、いつまでもフラフラしてる俺は実家に呼び戻された。

 兄と姉がいたから俺に後継ぎ問題の面倒事はないとタカをくくっていたのだが、傾きそうな田舎の男爵家に投資してくれる、という奇特な商人の娘との結婚話が持ち上がっていたのだ。

 どこで見染めたのか、娘が俺を気に入って向こうから振ってきた話だったが、両親は渡りに船と俺の承諾もなく先方に婚約を了承してしまっていた。

 そして、その婚約者と初めて会うハズだったやらせのお茶会で、俺は魅了の魔法の使いすぎでぶっ倒れたのだ。

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