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誤字脱字報告、ありがとうございました!
お布団はフカフカで、お部屋は整っていて、頂いたご飯もおいしくて、なんの不備もないのだけれど、落ち着かない。
お布団から見慣れない天井を見上げて、はぁ、とため息をついた。
*****
「今日からしばらくはウチにお泊まりなさい」
診察が終わったアマーリア様に言われた。
「えっ……、そんなに私、悪かったですか?」
入院が必要なほどの重症なのかと、思ったが違った。アマーリア様が言うには、診察に数日かかるということだった。
傷や病気と違う、頭の中の一部がどこかにしまわれてしまってる状態だと言われた。
なぜそうなったのか、アマーリア様は分かっているようだったけど、教えてはくれなかった。
「無理矢理こじ開けると、全てが壊れてしまうかもしれない。だから、少しずつ開け方を探るから時間がかかりそうなの。アオイ様には不便をかけるけど、ここにいてもらった方が治療もしやすいんだけどなー………… 」
と、言われたらいるしかない。
既に父上やお母さまには連絡済み、というからこれは私の意思はあまり関係なかったんじゃないかな。
ただ、心配なのはアーネスト様だ。
ヤトはどうも自分で好き勝手に動いているようだからほっといても、アーネスト様は慣れない土地に習慣に、更に監視まで付いていてさぞ不便を感じているだろう。
入院するのはかまわないが、その前にアーネスト様と話したかった。
「あの、一旦お屋敷に戻って、用意してからまた来てもいいですか?」
「ダメ」
「えっ……」
「このまま泊まってもらいます。必要なものは双子に持ってきてもらいましょう」
ニッコリ微笑むアマーリア様からは、反論出来ないオーラがにじみ出ていた。
*****
なんでだろ?急ぐこと、もしくは家に帰ってはいけないことがあったのだろうか?
と、考えていたら外から何やら音がする。
入院、といいつつもあてがわれた部屋は来客用の部屋で、外は華旺国様式で平屋だけど、洋式の部屋で、中庭に面している。
その中庭側の窓から、コココッと王国式の素早いノックがした。
華旺国だと、もっとゆっくり「コンコン」と鳴らす。でも、こんなノックをする人って……。
「フィオ?」
小声で聞こえてきたのは、レオの声。
えっ!?なんで?
っていうか、私、また寝巻きなんですけどー!
「起きてる?」
ベッドから降りて、羽織を着て、カーテンを開ける。
胸元までの高さにある窓から、金髪の美形がホッとした表情で覗き込んでいた。あ、今日は紺色の作務衣を着ている。
窓を開けると、レオがスルリと部屋に入りこんだ。
「ちょっと!」
この高さを、なんなく静かにジャンプしてビックリしたのと、女の子の部屋に許可もなく夜中に入り込むなんて!と非難したいのとで、声が出た。
「シッ!」
と口を大きな手で塞がれた。
手が冷たい。
お屋敷からここまでちょっと距離がある。夜道を来てくれたことに胸がキュっと鳴った。
目線で「静かにするよ」と訴えたら、手を離してくれた。
「良かった。起きててくれて」
フワリと優しく笑った。ああ、どうしてもこの整った顔に既視感がある。やっぱり思い出したい。
「これを渡したくて」
そう言って目の前に出されたのは、空色の折り紙が三つ折りになっているもの。細くて白いリボンがちょっと歪んだちょうちょ結びになっていて、そこに華旺国でその辺によく咲いている野の花が一輪差してあった。
こ、これって、もしかして……。
「今の俺にはこれが精一杯」
手紙から目線を上げて顔を見れば、それはそれは甘く、眩しいものでも見るかのようにペリドットの瞳を細めて微笑んでいた。
顔に熱が上がる。
なん……で…………。
私の記憶がない所で、この人と何があったの?
「左手、貸して」
言われるがまま差し出すと、薬指に口づけられた。
「!!」
声にならない声が喉の奥につかえる。でも、次の瞬間、そんなこと意識から飛んだ。
口づけから解放された薬指には、黄緑の輝きを放つ宝石が鎮座している金の指輪がはまっている。
「えっ……!?」
今、はめられたわけじゃない。指を滑っていった感覚はないし、そこにはまってるのが普通、くらいに指に違和感がない。
レオはそれをしげしげと見つめて呟いた。
「……ずっと、魔法で隠してたのか」
んんん?
私がやったの?
って、これが指にはまってるってことは……。しかも薬指!!
私、レオからプロポーズされてた!!
解ったとたん、急に熱が上がったかのように頭がクラクラしてくる。
え?
ちょっと待って。
いつ?
いやいや、私が忘れてるんだよね!?
混乱してるのに、レオが更に追い討ちをかけてきた。
「触れたい」
許可を出すより先に、腕の中に閉じ込められた。
レオは背が高いから、小柄な私だと頭がちょうど彼の胸元になる。ギュウとくっついた厚い胸板からは結構な早さの鼓動が聞こえてくる。
私もさっきからすごい心臓が痛いくらいに早いけど、彼も同じなんだと思ったら体から力が抜けた。
なんでだろう。
すごい安心感。
この腕の中の暖かさ、香り、逞しい腕の固さ。
私を包むこの感覚全てが、自分の存在をより濃くする。
多分、知らないうちにずっと気を張っていたのかもしれない。
「……フィオ?…………おい、フィオ?…………」
低く優しく耳に心地いいその声を聞きながら、世界で一番安心出来るこの場所で、私はスルリと夢の中の人になっていった。




