49: イオリ (ヤトside)
「面会できねぇ、ってほど弱ってるようには見えねぇな」
「そりゃ、お前。方便ってやつよ。てか、お前勝手にこんなところまで入って来やがって……」
目の前に、布団から起き上がって茶を飲んでる呑気そうなオッサンがいる。
とはいえ、右腕は肩から布で吊ってる状態だ。
まあ、俺が切りつけたわけだが。
面会謝絶、などと抜かしているが、アーネストと会ってアオイに求婚させないためだと分かるが手段が幼稚すぎる。
「ヨウコ、茶入れてやれ」
隣に控えていた奥方に目もくれず指示を出す。相変わらず、こういう態度を見ると、俺と良く似ているこの歳の近い甥が、唯一の血縁なのだと思い知る。
じっとこちらを見る奥方と目が合う。なるほど。確かにアオイの母だな。
優雅にニッコリと微笑まれて
「主人を切るような方にお出しするお茶は、粗茶でもウチにはありません!」
と言われた。
「ぶっ!なんだ、ずいぶん可愛らしい奥方だな」
クックックと笑いが込み上げる。
アイツもこのくらいの度量があればまた違ったのか?
「やらんぞ。妻も、娘も」
急にマサユキが剣呑な雰囲気になった。
「じゃあ、アレをくれよ」
「アレ?」
「イオリの遺骨」
「んなもん、ねぇよ」
即座に反ってきた。
「あるだろ……。俺の知らない所で処分した……」
マサユキが心底嫌そうな顔をして言った。
「お前、まだそんなこと言ってんのか」
そんなこと?
コイツこそ、何を言っているのか。
「どうしたらいい?どうしたら、お前に理解させることが出来るんだ?」
痛ましい目で見てくるマサユキが理解出来ない。
「俺の……、俺の部屋はどうなってる?」
「処分した」
あそこには貴重な資料や研究用の材料もあったのに、価値のわからない者どもの手に委ねたのがいけなかった。
まあ、俺も全てを置いて出てしまったからな。
「お前は、何のためにアーネストとつるんでいるんだ?」
マサユキが聞いてきた。
「単純に、利害の一致だ」
「ほお。お前は里に戻ってイオリを、アーネストは龍の伝承の力を欲して、ここに来たわけか」
「そうだ」
「で?アーネストはアオイを手に入れなければどうにもならないが、お前は?もし、イオリの遺骨があったとしたら、それをどうするつもりなんだ?」
*****
その場所を見つける旅は長かった。
世界中、とまでは言わないが、かなりな土地を巡り、適した場所を探した。
そうして行き着いたのが、アーネストが代理で管理していたエルゼバン領。そこに、すばらしく力を感じる場所を見つけた。
想像では山奥の秘境とか、昔から守られていた神域かと思っていたら、なんと町の民家の倉庫だった。
幸い売り出し中だったその家をすぐさま買って、儀式の準備に取り掛かった。
さすがに何の影響もなかったわけではないらしく、ここに住んだ者達はいろいろと不幸に見舞われたようで、そんな場所を買った俺に近所の奴らは近づいて来なかった。更には、黒を隠しもしなかったから、余計に避けられていた。
必要な材料は旅の途中で手に入れていたし、複雑で難解な術も、何年もの研究ですでに頭に入っている。
全ての準備を整えて、後は最愛の彼女を迎えに行けばいいだけ、となった時アーネストに会った。
アイツは華旺国と黒の蝶について調べていた。貴族のくせに、下町の酒場や、賭博場へ入り浸り、破落戸どもや根なし草の傭兵から情報を集めていた。
見目も悪くないから、娼館の女からもやたらと好かれていたのを、まさか魅了を使っているとは最初気づかなかった。
「アンタ、華旺国の人?」
酒場でアーネストに初めて声をかけられた時、さすがに驚いた。
キレイめなお貴族のぼっちゃんが、いきなりほぼ誰も知らない国名を言ったからだ。
タレ目がニヤリと笑った。
「俺に協力してくれないかなぁ?」
じっと見てくるブラウンの瞳を見てると、頭がボーっとしてくる。
最初は魅了をかけられ、華旺国について沢山質問された。
アーネストの目的が、黒の蝶だということはすぐに気付いた。と、同時にコイツは俺にとっても利用できる奴だと思い、魅了が切れた後もつるんでいたら、さすがにアーネストの方も聞いてきた。
「ヤトは、あんな曰く付き物件を買って、更に華旺国に行って何をするつもり?」
「……。イオリを迎えに行く」
「イオリ?」
「俺の、姉だ」




