48: 文
遅くなりました~m(_ _)m
レオが、話があるからとアーネスト様を連れて行ってしまった。
そのまま久々の庭を散策しようかと思ったら、シンが声をかけてきた。
「ちょっと、いいかな?」
こないだ文のことを思い出して、シンと会いづらかったのに……。
嫌とも言えず、2人で一緒に歩き出す。
「アーネストを案内してたの?」
「う、うん。ずっと部屋にいても、アレだしね……」
チラリと後ろを振り返れば、ずっとアーネストに張り付いている護衛……ではなく監視役が距離を取って立っていた。
シンと目を合わせて目礼したら去って行った。
「お兄さま達と何を話あってるの?」
「そりゃあ、一国のお姫様が婚約者候補を連れてきたら……、話し合うでしょ」
う、そうですね。
「彼が、好きなの?」
ドストレートに来た。
実はそれが揺らいできている……。とシンに相談してもいいものかどうか……。
フワリ、と花の香りがした。
シンがそっと差し出したモノがなんだかすぐに分かってしまった。
綺麗な薄桃色のたたまれた和紙に白い水引がかけてある。そこに、この国にしか咲かない国花でもある白い楚々とした花が添えられている。
「約束した、俺からの求婚の文だよ。受け取ってくれる?」
この花は、あの国境の迷いの森にしか咲かない、しかもなかなか見つけられない幻の花だ。希少性が高く、求婚の文に添える花としては最高峰と言われている。
シンが、あの森から探してくれたのかと思ったら、心臓がキュンとした。
そっと受けとると、和紙もものすごく手触りがいい。
ど、どうしよう……。
受ける受けないはともかく、小さい頃からあこがれがあった、求婚の文をこんな完璧な形で貰えたことが嬉しかった。
「中身はあとで1人で読んで?」
シンを見れば、その綺麗な顔が赤くなってる。いつも飄々としてて、いたずらのように私に触れる時も赤くなったりなんて、ほぼ見たことない。
そんな彼が目線を合わせず横を向いて、耳まで赤くしてるのを見て、思わず「かわいい」と思ってしまった。
「好奇心で聞くけど、アーネストからの求婚は?文……は華旺国流だけど、花か指輪だったの?」
照れ隠しに違う話にしたかったのかもしれないけど、私は止まってしまった。
だって、覚えてない……。
ていうか、指輪だったら持ってるはずで、もしかして、何ももらってない……のかもしれない。
口約束だけで、華旺国まで来たの?
最近感じる違和感っていうか、何かがズレてるような、奇妙な感覚に囚われていたら、シンがこちらに向けて指を指していることに気づくのが遅れた。
知ってる。
これは、シンの魔法発動の動作。
えっ、と思ったとたん私の意識は途切れた。
*****
「愛してる」
「愛してるんだ……」
「いられないんじゃない。いられるようにするんだ」
「フィオ……。フィオレンツィア…………」
プカリと無意識の海から浮上した。
今、夢の中にいた人は……だれ?
シンじゃない。
アーネスト様でもない。
私を「フィオ」と呼ぶ人は……。
*****
「あら、起きた?」
明るい聞き覚えのある声のする方に向いたら、銀髪をサラリと肩で切り揃えた柔和な笑顔があった。
「アマーリア様!えっ、あれ?ここって、診療所?」
「そうよお。シンが連れて来たの。気分は?気持ち悪いとかない?」
別に……これといってどこか具合が悪いわけではない。
「大丈夫です……」
って、あれ?なんで?
「私、シンに魔法かけられたような気がするんですけど……」
「あー、そうそう。ごめんね。ちょっと焦りすぎよね。言っとく!」
銀髪を揺らしてカラカラ笑う。
シンの産みの親であり、豪商タチバナ家主君サネチカ様の側室アマーリア様は、シンより淡い銀髪に澄んだブルーの瞳でとっても儚げな見た目なのに、本人はサバサバした姉御肌で、元奴隷だったとは思えない気丈な方だ。
「ここは、お屋敷には劣るけど、それなりに護衛もいるし、マナトの防御魔法もかけてあるから安心してね」
「…………?はい……」
なんで、防御?
「さて、じゃあちゃんと診察させてもらおうかな」
「……はい?」
アマーリア様は回復魔法と診療魔法(と、勝手にアマーリア様が名付けた)に特化していて、本家とは別の小さい一軒家をもらい、診療所として開放している。
「別に、どこも悪くありません」
「そうね。体はね。でも、心は?」
黙るしかなかった。だって、そういう意味では記憶があやふやなのは正常ではない。
父上かお母さま、もしくはシンが、アマーリア様にお願いしたんだろう。
「アオイ様は、思い出したくない?」
「え?」
「覚えていない記憶の中に、何か辛いことや忘れてしまいたかったものがあるかもしれない。それを、忘れたままでいたほうがいいかしら?」
何か辛いこと……。
忘れてしまいたかったこと……。
なにせ覚えていないから、ソレを自分がどうしたいかなんてわからない。
でも……。
ふと、頭に過ったのはペリドットの瞳。
彼の……、レオのこと。
全く何も具体的には思い出せないのに、彼に感じる安心感や既視感。
それは……、思い出したい、と思ってしまった。




