47: 能力 (シンside)
「アオイの能力がわかりました」
ヨウコ様が集まった面々に告げた。
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アオイが帰ってきても、皆はなるべく普通に出迎えた。
アーネストとやらを捕まえることもなく(でも、監視はさせてもらう)、アオイを問い詰めることもしない、と決めた。
強引にアーネストと引き離したり、アオイに無理に思い出させようとした時に、アオイの心がどうなるかわからなかったからだ。
それでいい、と言ったのはレオだった。
レオが、一番アオイに思い出してもらいたいだろうに……。
アオイがレオのことだけをスッパリと忘れている、と聞いた時は、動揺しているように見えたが、そのあとは冷静に状況を受け入れて、正しく行動しようとしている。
もし、俺がその立場だったら?
俺も、レオだって、アオイとは短い付き合いじゃない。長年の思い出がある。それが突然彼女の中から消えて、冷静でいられる自信がない。
同情した……といえばそれまでだが、レオがアオイに近づくことを止めなかった。
元々、アーネストを交互で監視と尋問する、とレオと決めていた。
初日はなかなかアオイがアーネストと離れず、夜になってようやくヨウコ様が引き離してくれた。そして、アオイとアーネストの能力の関係がわかった。
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「今まで、あの子には特化した魔法がないと、私達も本人も思っていたの。魔力は高めだし、なんでも器用にこなしていたからあまり気にしてなかった。でも、昨晩隣で寝て、分かりました」
アーネストがアオイと部屋に閉じ籠ってしまった。もちろん監視は付いたままだ。アオイに危害を加えることはないと、その隙にマサユキ様の部屋に、ヨウコ様と5人兄弟、俺とレオ、あとは双子だけで集まった。
「あの子、無自覚で魔力回復に特価してる」
一瞬、どういう意味かわからなかった。
他の皆も同じように、困惑している。
顔の表情を崩さなかったのは、事前に聞いていたであろうマサユキ様と、レオだけだった。
「多分、発動条件は「一緒に寝ると」なのね。私もついウッカリ朝まで寝てしまったから、時間にしてどのくらいで、とはハッキリ言えないんだけど、起きた時には完全に満タンだったわ」
ヨウコ様によると、小さい頃に添い寝はしていたけど、小さいアオイはまだその能力はハッキリ発動してなかったので、気づかなかったのではないか?ということだった。
そしてヨウコ様はチラっとレオを見た。
「レオ君は、知ってたのね」
マサユキ様がピリッと殺気を放った。
それに臆することなく、レオは「ふっ」と笑うと、「知ってた」と悪びれもなく言った。
キサラギ兄弟達がこぞってレオを睨む。
「おっと、最近の話ではないですよ。タカユキの領地に出入りしてた頃に、遊び疲れて2人で寝てしまったことがありまして。幼い頃の俺は魔力コントロールが出来なくて、しょっちゅう放出しすぎてはぶっ倒れてた。常に魔力量が不安定だった。それが、フィオと昼寝すると、その後、すごく調子がいいことに気付いた」
でも、誰も、もちろん本人も、そんな話をしない。幼かったレオはこれは秘密のことなのかと、そのままずっと誰にも言わなかったらしい。「今回のことで確信がもてました」などと言っているが、これは確信犯だな。
確かに、幼少の頃の親との添い寝以外に、それなりの身分の令嬢が誰かと一緒に寝る……なんて状況はそう起きない。
「じゃあ、アーネストは?奴はこのことを知ってるからアオイと宿で同室だったのか?」
思わず考えが口から出た。
「リンから聞いた報告とも合う。キク兄が視た所、奴は魔力はそんなにない。魅了をかけ続けて夜になると魔力が切れてしまう。多分、魅了の効果は突然プツリと切れるのではなく、徐々に薄れていくものなのだろう。薄れて、フィオと寝ることで魔力を回復して、また朝にかけ直す。それを繰り返してるんじゃないか?」
アヤメが皆を見渡しながら言った。
「じゃあ、今頃アイツ、アオイに魅了かけ直してるんじゃねぇの?」
フヨウ様がめちゃくちゃ嫌そうな顔している。
「そうかもね。でも、昨晩母上といたなら、魔力足りないんじゃないの?夜まで持たないかも……」
サクラもそれに続く。
「あの子、少しずつ思い出してはいるみたいなの。夜だったからかもしれないけど……。夜、アーネストと一緒にいられないようにすれば、魔力切れを起こして、解放されないかしら?」
「そこまで待つのもまだるっこしいな」
レンが言った後、それまで黙っていたマサユキ様が、ハーッと長いため息をついた。
「結局はアーネストとかいう野郎の狙いだろう?オイ、ハヤテ。マキノを呼べ」
「!」
ハヤテがスッと襖を開けると、そこには土下座しているマキノがいた。
*****
わかってはいたけれど、あまり気分のいいものではないな。
レオと、アーネストの部屋に行こうとしていたら、外廊下から中庭を散策しているアーネストとアオイが見えた。
どうやらアオイが庭を案内しているようで、あれこれ指を指したり、咲いている花を2人で愛でたり、端から見ると仲睦まじいカップルに見える。
アーネストがアオイの髪に触れている。気付いたアオイが恥ずかしそうに頬を染めているのを見て、心臓がギュウと締め付けられるようだった。
昨日は到着してすぐだったし、面識のない関係を利用して圧迫気味に接してみたが、のらりくらりと躱された。
今日はレオがアーネストと話をする。王子だと知っているならば、また違った対応で来るかもしれないな。
「この国の服は……」
隣で2人を見ていたレオがポツリと呟いた。
「最初見た時は、動きづらそうに見えたが……いいな」
「!?」
「腰のあたりとか……」
言いかけた頭を無意識で叩いていた。
「お前っ……。裸足に動揺してたり、どういう目でみてるんだ!」
「あんなのはまやかしだ。気にするな」
突然、真剣な目で見てきた。
「俺もシンも、フィオと築いてきた思い出があるだろう?」
そう言ってレオはニヤリと笑い、唐突に庭に降りて2人に近づいて行った。
…………。
全く。
俺より年下だというのに。
王子だからか?
精神的にタフだろう。
どうも俺は仕事では押さえられる感情を、アオイ相手だと押さえられない。
自分の狭量さに、乾いた笑いが込み上げる。
まるで文化の違う、異国の地まで愛する女を追いかけてきた1人の男に、本気で挑みたいとこの時ハッキリ自覚した。




