46: 膝枕
「おはよう」
朝日に眩しいキラキラのフワフワが、なぜか私の部屋の縁側に座ってる。
「えっと……。おはようございます…………」
私、今、起きたばっかり……。
起きて、隣で寝てたはずのお母さまはとっくに起きていなくて、とりあえず、と障子とガラス戸を開けたらレオがいた。
ハッとしてあわてて胸元をかきあわせる。久しぶりに浴衣で寝たから着崩れしてたかもしれない。っていうか、洋装だとしても寝起きに殿方と会わないわよー!
「ぶは!悪い、悪い。考えてること丸見えだな。大丈夫か?上着着てこいよ」
―――笑った。
それでなくても、キラキラ眩しい明るい金髪なのに、笑顔になったらますます輝いて見えるんですけど。なにこの人。外国の物語に出てくる王子様みたい。でも、王子の割には口が悪いな。
「っていうか、何かご用ですか!?」
「うーん、まずはその敬語やめろよ」
「はぁ!?」
敬語じゃないけど、これも十分失礼か。
「ちょっと、貸してもらいたいモンがあるんだけど」
とりあえず羽織を着て、縁側に出た。
「ああ、ザブトン持ってきた方がいい」
え、注文多いな。
レオが自分の座ってる縁側の隣を指差す。隣に座れってこと?
レオの隣にザブトンを置いてその上に座った。
とたん、レオが傾いてきてギョッとした。
「えっ、ちょっ……!」
そのままポスンと、頭が私の膝に乗った。
これって……。膝枕じゃん!
ズシリと意外と重い頭が膝の上……。しかも金髪フワフワ……。
レオは目を瞑ったままだ。
「貸して欲しいモノ…………って膝?」
「ん」
短い返事の後、文句を言おうとしたら、スーっと静かな寝息が聞こえてきてしまった。
なにこれぇ。
どうすればいいのーっ!!
あまりにも安らかな寝顔をしているから、起こせない。しかも、こんなすぐ寝付くだなんて、寝不足だったのかな?
横向きだったのに、ゴロンと仰向けになったら顔がよく見えた。
最初見た時も思ったけど、男の人なのにすごい綺麗な顔してる……。
睫毛は長いし、スッとした鼻筋。薄い唇は意外と男っぽさを感じる。
そして何より、金髪がフワフワ……。
ううう、触りたい……。
抗いがたい誘惑に負けて、そっと触れてみた。
これを猫っ毛というのね。
起きないのをいいことに、しばらく感触を楽しんでいたら、ふいに後ろからフヨウ兄さまが現れた。
しかも、人差し指を口に当ててる。
「しばらく寝かせてやれ。コイツ、寝れてないんだ」
小声で言われた。
なんで?と聞きたかったけど、フヨウ兄さまは「2人分の食事、取っといてやるよ」と、朝食へ行ってしまった。
藍染の浴衣を着ているけど、やっぱり着なれてないようで合わせがゆるゆるになってる。
胸板を見ないように、自分の羽織を脱いで上からかけてあげた。
なんか、前にもこの人に膝枕したことある…………気がしてきた。
このフワフワと安心しきった寝顔に、ドキドキしながらも、私もなぜか安心感があった。
*****
結局、レオは小一時間ほど寝た。
もちろん、ずっと私の膝の上で。
多分、私がひっぱたかなければもっと寝てたかも。だって、寝返りをうちながらお腹に顔を埋めて、さらに腰に抱きついてきたのだ。
そして、もちろん私は足が痺れてしばらく動けなかった。
それをまた、くつくつ笑いながら治るまでレオは待っていてくれた。
大広間に行くと2人分の朝食が残されてて、一緒に食べた。
「ねえ、着物は着なれてないのに、どうしてお箸は上手に使えるの?」
今度は向かい合って食べてるので、その所作が良く見えた。
「ん?ああ、小さい頃に遊びに行ってた家が箸使ってて、一緒に食事してたら覚えた」
どう見ても外国人のレオが、遊びに行く家って、華旺国関係者ってこと?
ちょっと思案してたら、ニヤリと笑ったレオが言った。
「俺のこと、知りたい?」
色気タップリな目線が来た。
顔に熱が上がる。
「アオ!!」
突然、廊下側の襖がスパンと開いて、ビックリした拍子に持ってた味噌汁がちょっとこぼれた。
振り返ると、アーネスト様が息を切らせて部屋に入ってきた。
後ろからハヤテが付いてきてる。これは……ずっと張り付かれてるな……。
「朝からずっと探してたんだよ、やっと会えた……」
「?」
えっと、普通に自室にいたけどな。
「フィオ」
ふいにそう呼ばれて、振り返ってしまった。
確かに、王都では「フィオレンツィア」を名乗っていた。お父様からは愛称でフィオって呼ばれていたし。
でも今、私を愛称で呼んだのは……。
「味噌汁、こぼれてるぞ」
そう言ってレオは私からお椀を取り上げ、味噌汁が付いた親指を口元に持ってかれる。
そのまま赤い舌で指先をペロリと舐められた。
「ひゃうっ!」
あまりのことに変な声出た。
「や……、やめて……」
腕を引っ張ってるのに、びくともしない。その隙に今度はパクリと指を咥えられた。見えてないレオの口の中で、親指の腹をザラっと舌が辿っていく。
伏せていた瞳が上がって、指を咥えたままこちらを見た。そして、壮絶な色気を放ってニコリと笑った。
「……っ!」
「やめろ!」
アーネスト様が、私の腕を掴んでレオから引き離した。
一瞬、アーネスト様とハヤテの存在を忘れてた。2人を見ると、2人とも顔が赤い。
だよね!今の、レオの色気にあてられたよね!?
アーネスト様は私の腕を引っ張り、グイっと立たせて、私を連れてそのまま部屋を出た。
や、やっといちゃいちゃできたー!




