41: 兄達 (レオンハルトside)
あの日、俺は失敗した。
今更気付いた。
自分の気持ちばかりが先行して、彼女の気持ちや周りが見えていなかった。
でも、それくらい焦っていた。
本人はまるで気付いていない。
夜会で「黒」だと厭われることもあるけれど、実はチラチラ見ている奴がいること。
艶やかな黒髪は、他の令嬢にはない神秘的な雰囲気を醸し出しているし、黒曜石の瞳は吸い込まれそうに深い。
そのくせ、アイツ、会話する時はしっかり目を合わすもんだから、真正面で話した奴は大抵ポーっとなるんだ。
俺がどれだけヤキモキしてるか。
お前、わかってないだろう―――?
*****
「俺はお前に「頼むぞ」と言ったな」
「その通りです」
「でェ?結果はこのざまか」
「……申し訳、」
「謝ってもらいてぇわけじゃねぇ」
「はい」
「……。……まあ、こっちもこれだけ雁首揃えて迎え撃ってやる気だったのに、お前に任せっぱなしになっちまったことは、手落ちだったと思ってる」
思ってんのかよ。
「あそこでまさかヤトが出てくるとは……。さすがの俺も思わなかったからな……」
急に脱力したな。
「あの、ヤトとかいうやつは、何者ですか?」
床の上にいるくせに、ギロリと眼飛ばすのを止めて欲しい。
……と思ったとたん、目の前で小気味いいスパンという音と共にマサユキの頭が落ちた。
「アナタ?レオ君に八つ当たりするのもいいかげんになさい?」
フィオに良く似た女性が、ゴツイオヤジの頭をを容赦なくひっぱたいていた。
「おまっ……、俺、怪我人!!」
「そんな傷、たいしたことありません」
ヤトから受けた、という刀傷は右腕を深く切っている、と聞いた。
現にマサユキは、右腕を首から下げた白い布で吊るしている状態で、俺が目覚めるまでは彼も傷による高熱で寝込んでいたらしい。
それを、「たいしたことない」
フィオに似てるのではなく、フィオが母君に似ているんだな、と思わずまじまじ凝視してしまった。
「ごめんなさいね。レオンハルト殿下?外国の貴族のご挨拶がわからないので、こちら風で失礼致しますわ。アオイの母のヨウコと申します」
マサユキの布団横に座って、ゆっくりと頭を下げられた。
「あなたもアオイを守ってくれた、と聞きました。まずは母としてお礼を言わせて下さい。ありがとうございます」
畳、という草を編んだ不思議な感触の床に、きっちり膝を揃えて背筋を伸ばして座る姿は、凛とした美しさがある。
「いえ、こちらこそ、守りきれずにフィオ……、アオイを連れて行かれてしまって……、なんとお詫びをしたら、いいか……」
あの時の自分が情けなく、言葉が出ない。
「レオンハルト殿下」
母君に少し改まって名を呼ばれた。
「アオイのこと、お聞きになっておりますね?それでも、まだ添い遂げたいとお思いですか?」
真っ直ぐ見つめられて言われた。
言葉の裏に隠された、母君が懸念していることは来る前に相当考えた。
「ハヤテから、聞きました。しかし、元々そのような伝承を知らなくても、アオイ……、フィオレンツィアを愛しています」
「まあ!」
ヨウコが笑い、マサユキは苦虫を噛んだような顔をした。
*****
フィオ奪還のための会議を開く、というので屋敷の大広間に通された。
広い部屋に畳がきっちり敷かれ、紙で出来ている引戸が並び、窓は升目の格子にはまっている。建築様式があまりにも違うので、どのように振る舞ったらいいのか、皆目見当がつかない。
そんな俺とアランを、シンがフォローしてくれた。
「なるほど。畳に直接座るには足が痛いが、このザブトンというクッションをひけばいいのだな」
「目上の人の前では、許されるまで座布団に座ってはいけない。更に、コラ、畳の縁を踏むな」
「何!?この線は何かあるのか?」
「いや、何もしかけなどはないが……」
「じゃあ、なぜ踏めない?」
「おい、何呑気に文化紹介してんだよ」
部屋に、ドヤドヤと沢山の人が入ってきた。男もいれば、女もいる。
屋根の上から見た面子もいた。
最初に声をかけてきた男は、マサユキと似ている。これは確実に血縁……イコール、フィオの兄だと見当をつけた。
広い部屋に、低い長い机を並べて、更にサブトンを置く。
並べた机の中心に座った男がこの話し合いの中心人物らしいが、さっきの男とは違う奴だった。
シンに促されて机の端に座る。俺でもここが一番下座だってことは気付いたが、アランと2人何も言わずに座った。
それにしても、皆黒髪黒目で区別が付きにくい……。
「お前、4年前にも来たよな?アオイのことまだ諦めてないのか?」
唐突にマサユキ似のフィオの兄に上から言われた。
「あの時はこちらのしきたりを知らなかった。次にマサユキ殿に挨拶に来る時はフィオと来る」
言ったとたんに、4~5人の男の意識がこちらに向いた。
なんだ、こいつら。
まさか全員例の婚約者候補3番目4番目5番目とかじゃないだろうな……と警戒したら、フィオの兄がビックリ顔でこちらを見てることに気付いた。
「なんだ、聞いてないのか?」
「あ、言ってませんでした」
すぐさまシンが返事をした。
何をだ。
「レオ、アオイには5人の兄がいる」
「………………、マジか」




