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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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41/127

41: 兄達 (レオンハルトside)

 あの日、俺は失敗した。

 今更気付いた。

 自分の気持ちばかりが先行して、彼女の気持ちや周りが見えていなかった。

 でも、それくらい焦っていた。


 本人はまるで気付いていない。

 夜会で「黒」だと厭われることもあるけれど、実はチラチラ見ている奴がいること。

 艶やかな黒髪は、他の令嬢にはない神秘的な雰囲気を醸し出しているし、黒曜石の瞳は吸い込まれそうに深い。

 そのくせ、アイツ、会話する時はしっかり目を合わすもんだから、真正面で話した奴は大抵ポーっとなるんだ。

 俺がどれだけヤキモキしてるか。

 お前、わかってないだろう―――?


 *****


「俺はお前に「頼むぞ」と言ったな」

「その通りです」

「でェ?結果はこのざまか」

「……申し訳、」

「謝ってもらいてぇわけじゃねぇ」

「はい」

「……。……まあ、こっちもこれだけ雁首揃えて迎え撃ってやる気だったのに、お前に任せっぱなしになっちまったことは、手落ちだったと思ってる」

 思ってんのかよ。

「あそこでまさかヤトが出てくるとは……。さすがの俺も思わなかったからな……」

 急に脱力したな。

「あの、ヤトとかいうやつは、何者ですか?」

 床の上にいるくせに、ギロリと眼飛ばすのを止めて欲しい。

 ……と思ったとたん、目の前で小気味いいスパンという音と共にマサユキの頭が落ちた。


「アナタ?レオ君に八つ当たりするのもいいかげんになさい?」

 フィオに良く似た女性が、ゴツイオヤジの頭をを容赦なくひっぱたいていた。

「おまっ……、俺、怪我人!!」

「そんな傷、たいしたことありません」

 ヤトから受けた、という刀傷は右腕を深く切っている、と聞いた。

 現にマサユキは、右腕を首から下げた白い布で吊るしている状態で、俺が目覚めるまでは彼も傷による高熱で寝込んでいたらしい。

 それを、「たいしたことない」

 フィオに似てるのではなく、フィオが母君に似ているんだな、と思わずまじまじ凝視してしまった。

「ごめんなさいね。レオンハルト殿下?外国の貴族のご挨拶がわからないので、こちら風で失礼致しますわ。アオイの母のヨウコと申します」

 マサユキの布団横に座って、ゆっくりと頭を下げられた。

「あなたもアオイを守ってくれた、と聞きました。まずは母としてお礼を言わせて下さい。ありがとうございます」

 畳、という草を編んだ不思議な感触の床に、きっちり膝を揃えて背筋を伸ばして座る姿は、凛とした美しさがある。

「いえ、こちらこそ、守りきれずにフィオ……、アオイを連れて行かれてしまって……、なんとお詫びをしたら、いいか……」

 あの時の自分が情けなく、言葉が出ない。


「レオンハルト殿下」

 母君に少し改まって名を呼ばれた。

「アオイのこと、お聞きになっておりますね?それでも、まだ添い遂げたいとお思いですか?」

 真っ直ぐ見つめられて言われた。

 言葉の裏に隠された、母君が懸念していることは来る前に相当考えた。

「ハヤテから、聞きました。しかし、元々そのような伝承を知らなくても、アオイ……、フィオレンツィアを愛しています」

「まあ!」

 ヨウコが笑い、マサユキは苦虫を噛んだような顔をした。


 *****


 フィオ奪還のための会議を開く、というので屋敷の大広間に通された。

 広い部屋に畳がきっちり敷かれ、紙で出来ている引戸が並び、窓は升目の格子にはまっている。建築様式があまりにも違うので、どのように振る舞ったらいいのか、皆目見当がつかない。

 そんな俺とアランを、シンがフォローしてくれた。

「なるほど。畳に直接座るには足が痛いが、このザブトンというクッションをひけばいいのだな」

「目上の人の前では、許されるまで座布団に座ってはいけない。更に、コラ、畳の縁を踏むな」

「何!?この線は何かあるのか?」

「いや、何もしかけなどはないが……」

「じゃあ、なぜ踏めない?」


「おい、何呑気に文化紹介してんだよ」

 部屋に、ドヤドヤと沢山の人が入ってきた。男もいれば、女もいる。

 屋根の上から見た面子もいた。

 最初に声をかけてきた男は、マサユキと似ている。これは確実に血縁……イコール、フィオの兄だと見当をつけた。

 広い部屋に、低い長い机を並べて、更にサブトンを置く。

 並べた机の中心に座った男がこの話し合いの中心人物らしいが、さっきの男とは違う奴だった。

 シンに促されて机の端に座る。俺でもここが一番下座だってことは気付いたが、アランと2人何も言わずに座った。

 それにしても、皆黒髪黒目で区別が付きにくい……。


「お前、4年前にも来たよな?アオイのことまだ諦めてないのか?」

 唐突にマサユキ似のフィオの兄に上から言われた。

「あの時はこちらのしきたりを知らなかった。次にマサユキ殿に挨拶に来る時はフィオと来る」

 言ったとたんに、4~5人の男の意識がこちらに向いた。

 なんだ、こいつら。

 まさか全員例の婚約者候補3番目4番目5番目とかじゃないだろうな……と警戒したら、フィオの兄がビックリ顔でこちらを見てることに気付いた。

「なんだ、聞いてないのか?」

「あ、言ってませんでした」

 すぐさまシンが返事をした。

 何をだ。

「レオ、アオイには5人の兄がいる」

「………………、マジか」


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