39: 違和感
「まあ!リンじゃないの!!」
夜になって、就寝前にヤトが部屋に連れてきてくれたのは、幼なじみ兼護衛のリンだった。
「今日、街で見かけてな。丁度アオを探していた所だった」
「そうなの?ああ、ありがとうヤト!」
「お……、お嬢様……」
すごく心配させてしまったのか、リンの表情が固い。
「明日からの旅にリンも一緒に行ってくれるよ。アオもその方が安心でしょ?
リン、アオは今過去の記憶が曖昧で、よく覚えてないんだ。あまり昔の話をして混乱させないように」
隣に座るアーネスト様がニッコリ言った。
「あら、聞いたら思い出せるかもしれないじゃない。現にリンのことは覚えていたわ。そうだ!ハヤテ、ハヤテはどうしたの?」
固い表情のままのリンがじっと私を見た。
「ハヤテは……、ハヤテは別の仕事がありまして、今は華旺国に戻っています」
「あら、そうなのね。珍しいわね。2人が離れてるのって」
珍しい……。そうよね?記憶は漠然としてはいるけど、バラバラの双子には違和感はある。
「さ、今日はもう寝るよ。ヤトとリンはもう下がっていいから」
アーネスト様がそう言った。さっさとドアに向かうヤトと違って、リンはその場に立ったままで、悲壮な顔をしている。
「リン?どうしたの?具合が悪い?」
「……いえ……、あの……、お嬢様のお休みは、こちら……で?」
「?ええ、そうよ?」
って、言ってから気づいた。
当たり前のようにアーネスト様と一緒に寝るつもりだった。
そ、そうよね!未婚の女性が、男性と布団を共にして寝るなんて、はしたないわよね!!
「あああのね!リン。アーネスト様とはそういうんじゃなくて、えっと、私が不安定で、夜中にうなされてたりする?らしくて、自分じゃ覚えてないんだけど、それをアーネスト様が落ち着かせてくれてる、っていうか、一緒にいると安心するっていうか……。べべ、別に本当に寝るだけよ!?」
赤くなりながら、あわてて弁解めいたことを言ってリンを見れば、益々悲壮な顔をしていく。
「リン?俺がいれば大丈夫だから、君は安心していいよ」
アーネスト様まで、リンを慰めようとしてる。
「……リン」
ちょっと強めにヤトが呼んだ。そしてヤトに引きずられるようにリンは部屋から出で行った。
泣きそうな顔になってたような……。
お姉ちゃんとしては、妹がとんだはしたない子になっててショックだったのかな……。
*****
「眠れないの?」
夜中に寝返りばっかりしていたら、隣のアーネスト様から声をかけられた。
「す、すいません……。アーネスト様も落ち着きませんよね」
「いや、俺も寝られなかった」
暗闇の中、2人の声が静かに響く。
「あの……、旅っていうのは華旺国に行くってことなんですよね?」
「うん」
「何をしに?あそこは住むには治安もいいし、豊かですけど、特筆すべきものはありませんよ?」
もそっと動いて、アーネスト様がこちらに向いた。
「アオとの、結婚を承諾してもらいに」
「えっ!!!」
思わず大きな声を出してしまった。
「え?でも、私……、やだ、覚えてない……。ウソ……」
泣きそうになってきた。
だって、アーネスト様は私に求婚してくれてたってことでしょう?それを、キレイさっぱり全然覚えていないなんて、申し訳なさすぎる……。
あ、でも、指輪?手紙……は?
思わず毛布の中で、左手の薬指を右手で確認した。
そうよね、何も付いてない。
手紙も、もちろん貰ったかどうかなんて覚えていない。
暗闇の中、腕がのびてきてグイっと抱き込まれた。
「アオ、いいんだ。覚えてなくても」
かけられる声は優しい。
額に付く胸板。
ふわりと香る彼の匂い。
抱きしめられている腕。
―――どうして?
その、どれにも違和感を感じる。




