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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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39/127

39: 違和感

「まあ!リンじゃないの!!」

 夜になって、就寝前にヤトが部屋に連れてきてくれたのは、幼なじみ兼護衛のリンだった。

「今日、街で見かけてな。丁度アオを探していた所だった」

「そうなの?ああ、ありがとうヤト!」

「お……、お嬢様……」

 すごく心配させてしまったのか、リンの表情が固い。

「明日からの旅にリンも一緒に行ってくれるよ。アオもその方が安心でしょ?

  リン、アオは今過去の記憶が曖昧で、よく覚えてないんだ。あまり昔の話をして混乱させないように」

 隣に座るアーネスト様がニッコリ言った。

「あら、聞いたら思い出せるかもしれないじゃない。現にリンのことは覚えていたわ。そうだ!ハヤテ、ハヤテはどうしたの?」

 固い表情のままのリンがじっと私を見た。

「ハヤテは……、ハヤテは別の仕事がありまして、今は華旺国に戻っています」

「あら、そうなのね。珍しいわね。2人が離れてるのって」

 珍しい……。そうよね?記憶は漠然としてはいるけど、バラバラの双子には違和感はある。


「さ、今日はもう寝るよ。ヤトとリンはもう下がっていいから」

 アーネスト様がそう言った。さっさとドアに向かうヤトと違って、リンはその場に立ったままで、悲壮な顔をしている。

「リン?どうしたの?具合が悪い?」

「……いえ……、あの……、お嬢様のお休みは、こちら……で?」

「?ええ、そうよ?」

 って、言ってから気づいた。

 当たり前のようにアーネスト様と一緒に寝るつもりだった。

 そ、そうよね!未婚の女性が、男性と布団を共にして寝るなんて、はしたないわよね!!

「あああのね!リン。アーネスト様とはそういうんじゃなくて、えっと、私が不安定で、夜中にうなされてたりする?らしくて、自分じゃ覚えてないんだけど、それをアーネスト様が落ち着かせてくれてる、っていうか、一緒にいると安心するっていうか……。べべ、別に本当に寝るだけよ!?」

 赤くなりながら、あわてて弁解めいたことを言ってリンを見れば、益々悲壮な顔をしていく。

「リン?俺がいれば大丈夫だから、君は安心していいよ」

 アーネスト様まで、リンを慰めようとしてる。

「……リン」

 ちょっと強めにヤトが呼んだ。そしてヤトに引きずられるようにリンは部屋から出で行った。

 泣きそうな顔になってたような……。

 お姉ちゃんとしては、妹がとんだはしたない子になっててショックだったのかな……。


 *****


「眠れないの?」

 夜中に寝返りばっかりしていたら、隣のアーネスト様から声をかけられた。

「す、すいません……。アーネスト様も落ち着きませんよね」

「いや、俺も寝られなかった」

 暗闇の中、2人の声が静かに響く。

「あの……、旅っていうのは華旺国に行くってことなんですよね?」

「うん」

「何をしに?あそこは住むには治安もいいし、豊かですけど、特筆すべきものはありませんよ?」

 もそっと動いて、アーネスト様がこちらに向いた。

「アオとの、結婚を承諾してもらいに」

「えっ!!!」

 思わず大きな声を出してしまった。

「え?でも、私……、やだ、覚えてない……。ウソ……」

 泣きそうになってきた。

 だって、アーネスト様は私に求婚してくれてたってことでしょう?それを、キレイさっぱり全然覚えていないなんて、申し訳なさすぎる……。

 あ、でも、指輪?手紙……は?

 思わず毛布の中で、左手の薬指を右手で確認した。

 そうよね、何も付いてない。

 手紙も、もちろん貰ったかどうかなんて覚えていない。

 暗闇の中、腕がのびてきてグイっと抱き込まれた。

「アオ、いいんだ。覚えてなくても」

 かけられる声は優しい。


 額に付く胸板。

 ふわりと香る彼の匂い。

 抱きしめられている腕。


 ―――どうして?


 その、どれにも違和感を感じる。

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