38: 信じられない(リンside)
最初見た時は、他人の空似かと思った。
ちょっと距離が離れていたし。
でも、そのお顔やシルエット、動き、間違えるはずがない。
しかもさすがに遠目からでもハッキリと分かる、ストレートの黒髪。
どうしてこんな所に、っていう疑問より先に衝撃だったのは、見知らぬ男性と手を繋いで楽しそうに笑いあっていたこと―――
そんなハズはない。だから他人かと思った。
アオイ様が、レオンハルト殿下以外の男性と仲良く並んで歩いているなんて、信じられなかった。
*****
酷い目にあった。
まあ、結果としてアオイ様から注目を反らせることが出来たから、結果オーライとしておこう。そうじゃないと、あのしつこくしつこく絡んでくる軍人を殴り飛ばしそうになるのを、必死に耐えて耐えて耐え抜いた私が可哀想すぎる。
何がそんなに気に入ったのか。
「黒」が気にならないのか、逆に聞きたくなったくらい。
フィオレンツィア様を探しているフリをしていたから、結局最後はカーライト邸まで送り届けられてしまった。
「必ず見つけるので、あなたはお屋敷でお待ち下さい」
と、使命感バリバリで去って行ったけど、今頃アオイ様はシン様達と逃走中だろうな、とハヤテを呼び出してみる。
「ん?ええ?じゃあアンタ、アオイ様から離れてるの!?」
『シン様からのご指示だ。団員の誰がつかまるより、俺ならレオも扱いやすいしやりづらいだろ、だと』
「さすがシン様というかなんというか……。わかったわ。私はお屋敷に戻ったから、タカユキ様と待機してる」
『ああ、シン様からタカユキ様に伝言「魔力を溜めておいて下さい」だそうだ』
「それって、飛ぶってこと?」
『多分』
*****
何がどうなってるのかわからない。
タカユキ様と華旺国に飛んだのではなかったの?
あの後、シン様と華旺国に向かう途中、レオンハルト殿下に追い付かれた。
というか、まさかのシン様の同行を求めてきた。
「リン、悪い。さすがの俺も3人までかな、一緒に移動出来るの」
って、言われた時には、シン様はもちろん、従者であるアラン様も、私もハヤテも、固まってしまった。
「3人……」
他の3人は、それなりにレオンハルト殿下の魔力量が底知れないと分かっていたけど、シン様は愕然として呟いた。
「相変わらず 魔力量は半端ないですね……。大丈夫ですよ。私、自力で国に帰れますから。その代わり、アオイ様のこと、どうぞよろしくお願いいたします」
レオンハルト殿下が、ちょっとびっくりした顔をした。
「リンは、俺でいいのか?」
「何が?」
つい、昔のくせでタメ口が出てしまう。
「フィオの隣は俺でいいのか?」
「何言ってんの?他の誰にも譲る気ないくせに」
それでなくてもキラキラしい王子顔が、華やかに笑った。
「さすがリン。ありがとう」
お礼を言われるとは思わなかった。
*****
あの方達が飛んで行ったのなら、私が多少ゆっくり行っても大丈夫だろう。と、旅支度をしっかりとして、カーライト邸を後にした。
いくら平和な世の中でも、女性の一人旅はそれなりに危険が伴う。なるべく大きな街を通りながら華旺国に向かうつもりだった。それと、散り散りになったという、シン様の仲間達もそれぞれ華旺国に向かうだろうから、どこかで合流できないか、と考えていた。
そして立ち寄ったそこそこ大きな街で、信じられない光景を見たのだった。
華旺国で、レオンハルト殿下とシン様に挟まれて、わちゃわちゃしてる……と思っていたのに……。
「おい」
後ろから肩をつかまれて、咄嗟に手首を取って捻り上げ……ようとしたら、反対側に捻りかえされて捕縛しそこねた。
振り返ると、壮年の見知らぬ男性。その髪や目が黒かった。
シン様の旅芸人仲間かと思ったけど、違う。
その剣呑な雰囲気と威圧感。
「お前、アオイの関係者か?」
一歩下がって対面した。
幸い、街中で人通りはそれなりに多い。変に攻撃してくる……ことはないと思いたい。
「あなたは、誰?アオイ様と一緒にいる男性の知り合い?」
「……そうだよなぁ……。俺のこと知るはずもないか」
なに?知ってて当然みたいな言い方。
「お前、見た所これから華旺国に行くつもりか?」
確かに、旅装束でこの街の住民には見えない。
「丁度いい。お姫さんの世話係りとして、一緒に来ないか?」
「は?」
唐突にスカウトされて、益々訳がわからなかった。




