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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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33/127

33: ゾーリ(レオンハルトside)

「父上、フィオを迎えに行きます」

 忙しい国王を、私用で留めておく時間はそんなにない。

 今から出掛けるという隙をついて、執務室に入り込んだ。

 外出用の上着を着ながら、こちらを見る濃い金色の瞳は、無表情だ。

 こないだの騒動でウォルター協力の元、護衛や騎士団を動かしたから、事の顛末は分かっているだろう。

 父上の後ろで静かにレナルドが佇んでいるが、成り行きがどうなるのか気になってしょうがない感、まるわかりだからな。

「迎えに行って、どうする?」

「正式に婚約して、妻にしたい」

 素直に言ったら、止まった。

「……っ、ふ、はは!あはは!」

 なんで大爆笑!?

 報告はしたからもう知らん。と部屋を出ようとしたら、止められた。

「待て、待て。いやあ、やっと?レオは結構我慢強かったんだね」

「は?やっと?」

「声に出てるよ」

「だっ……、忘れろっていうのは……」

 歳の割にいたずらが成功したみたいな瞳でニヤーっと笑った。こういう父は怖い。

「忘れろ、って言われて忘れられるくらいの存在なら必要ないだろう?」

 それは、つまり―――

 レナルドまでニヤニヤしてる。

「絶対、連れて帰ってきます!」

 すぐに出発するつもりで、部屋を出ようとしたけど、思い出して振り返った。

「父上、ベイリー公爵令嬢は俺の婚約者なのですか?」

「……。そんな話は聞いていない」

 険しい瞳に戻った。

 そりゃあ、そうだろう。自分の息子の……しかも王族の婚約者が国王の知らぬところで勝手に決まっている、なんてあり得ない。

「わかりました。では、行ってまいります」

華旺国(あそこ)に1人でか?」

「アランとハヤテと、……1番目を」

「ん?1番目?」

 首を傾げる父を残して部屋を出た。


 *****


 ずっと逃げられて、触れることさえ出来なかった彼女の手を繋いで、ひたすら走る。

「レオ、いいからっ……」

「よくねぇ!」

 ここの服装は独特で、布を体に巻き付けたような形で動きづらそうだ。

 更には信じられないことに、フィオは今裸足だ。屋根材の上はまだ良かったが、舗装もされていないむき出しの土の上を走っている今、ずっと治癒魔法をかけている。

「どっかで草履借りるからぁ……」

 ゾーリってなんだ?

「アオイ、まずはウチに行く。それまで耐えられるか?」

前を走るシンが振り返って言った。

「耐えられるっていうか、レオが、治癒、ずっと……」

 まどろっこしくなって、フィオを抱き上げた。

「しっかりつかまってろ」

「!!」

 落とすつもりは毛頭ないが、走ってるので揺れる。腕をギュウと俺の首に巻き付けて、肩に額を当てたフィオからいい匂いがする。

 ドッと体温が上がったが、それどころではない。

 横から呆れた声で言われた。

「三人も運んだくせに、まだ魔力あるのか!?お前無尽蔵か?アオイ、くっつきすぎ!」


 シンの実家があるという商家が集まるエリアに来た。

 その頃には、国王の屋敷で何があったか既に周知されているようで、女性や子どもは外には1人もおらず、戦力になりそうな男どもが、武器を片手に屋敷方面へ走っていく姿が見られた。

 なんだ、ここは。

 街としてコンパクトなこともあるが、この統率の取れた住民の行動に衝撃を受ける。

 王都で城が攻められたら、貴族達は我先にと逃げ出すだろう。

「レオ、こっちだ」

 シンが行く方向へ走る。


 並ぶ平たい建物の中でも、一際大きな屋敷についた。シンが迷わずその建物の横の小道にはいろうとした、その時……

「レオ!!」

 叫ぶフィオの声とほぼ同時に、ズドン、と背中に重たい衝撃が来た。

「その娘をよこせ」

 よろめきながら、振り返る。

 これでも、常に全身に防御魔法を施しているんだが。

 先ほどヤトと呼ばれていた壮年の男が、ユラリと魔力を纏わせて近付いてきた。

 アオイが自ら俺の手から降りて、その男に向いた。

「ヤト様、なぜこのようなことをなさるのです!ヤト様なら、無理矢理事をおこしても意味がないことはご存知でしょう!?」


 ガッチリとしたフィオの父上とはあまり似ていない。病人のように痩けた頬は顔色が悪い。それでいて、黒い瞳はフィオのような黒曜石の輝きではなく、底知れない沼のようにドロリとしている。ヒョロリとした体格が、より一層不気味さを増長している。

「真っ直ぐな娘。イオリにソックリだな……。なぁ……、名を呼んでくれよ」

「……え……、や、ヤト様?」

「違う、「ヤト」と」

「ヤ……」

 なんで、とか、そういうことではなく。本能でこの先を言わせてはいけない、と悟ってフィオの口を手で塞いだ。

「レオ!それは何か暗示のためのトリガーだ」

 シンが左手の人差し指をヤトに向けた。その先からブワリと風が起こる。

「ぐっ……」

 風の塊を高速でぶつけられて、不意をつかれたヤトは、一歩後に後ずさったものの、その場で堪えた。

「タチバナ一族に、だいぶ毛色の違うモンがいるな?」

 挑発……だったんだろうけど、シンは全く揺らがなかった。

「レオ、アオイをこの小道の先の家に」

 そうだった。コイツはこれでも諜報部隊のトップだった。フィオがらみでは感情を露にするようだが、それではスパイは務まらない。

「フィオ、こっちに」

 再び手を繋いで連れていこうとしたら、動かない。

「父上……は?」

 ヤト(こいつ)がここにいる、ということは先ほど切りあっていた国王は―――

 蒼白になったフィオを再び抱き上げて、小道へと走り出す。

「待て!」

 叫んでるヤトをシンが抑えている。そう信じて小道に差し掛かった時、目の前にアーネストが現れた。

「お前っ……!」

 何も言わずに、俺とフィオ目掛けて小さな玉を投げつけてきた。

 2人の胸元でそれが弾けたとたん、白い粉が舞った。吸ったらマズイ、と瞬間で判断したものの、一瞬で力が入らなくなった。

 足元から崩れる。

 入らない力をなんとか込めて、フィオだけは絶対離さない、離すものか!と歯をくいしばったところで意識は途切れた。

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