28: 襲来
「きゅ、きゅーこん……」
あまりのことに反応がおかしくなってる自覚はある。
まさか、レオが父上に婚姻の許可を取りに来ていただなんて、今の今まで知らなかった。
しかも3年も前に?
「アオイ?彼がここのしきたりを知らないから1人で来た、ってことはわかるんだけど、言われてたんだよね?」
幼なじみは、なんでもお見通し過ぎて嫌になる。横を向いて、なんとか話を反らしたい私のことはお構いなしに、アカネは続けた。
「あんな、魔力量すごいの、この里でもいない……かもレベルじゃない?キクノスケ様に匹敵しそう……。しかもここまで1人で来る度量、更にはあの容姿!」
「わかった、わかったから、もうやめてぇ……」
「てっきり決めたかと思ったのに、それからパッタリ何にも情報ないからさ」
それまで、からかうように面白がるように話していたアカネが止まった。
庭のその先の垣根の方をじっと見てるけど、焦点が合ってない。これは、遠見をしてる時の……。
「アカネ、何を見て―――」
突然、立ち上がって緊迫した声で言った。
「なんか来る。マサユキ様に連絡を!さん……4人?そんな馬鹿な!1人はマキノだと思うんだけど、なんか変!」
すぐに部屋のすみにぶら下がっている紐を引いた。
即座にお屋敷中にガランガランと警報用の鈴が鳴り響く。
「アオイ、開けるぞ!」
早っ!
フヨウ兄さんが即座に来てくれた。
「どうした?」
アカネが膝を付いてフヨウ兄さんに報告する。
「不審者四名が里に向かってる模様です。ものすごい早さ……、タカユキ様と同じく移動魔法だと思うのですが、一気に4人の気配がします。1人はマキノ……、多分マキノ?なんか変なんです。上手く輪郭を捉えられない」
「あと何刻くらいだ?」
「10分以内には」
「分かった。アカネはアオイとここにいろ」
そう言ってすぐさま部屋から消えた。
廊下から、人がバタバタ動き出した音がする。
突然緊張状態になったお屋敷は、防御魔法が1段階強くなったのが分かった。
これはサクラ兄さんの魔法。
「アカネ……、ユウコは?家にいる?」
ユウコとはアカネの母で私の乳母だ。
「家にいるはず。お屋敷の敷地内だからまあ大丈夫よ」
そう言いながらアカネは顔が強ばっている。
そりゃそうだ。今まで、こんな風に外部から人が来ることなんてなかった。
「アカネ、ユウコの所に行って」
「なんで?だってフヨウ様は……」
「この里で狙われるのなんて私に決まってる。私は父上の所に行くから、あなたは離れて」
一瞬、躊躇したもののアカネは分かってくれたようだ。もし乱闘や戦闘になったら遠見の力では役に立たない。足手まといになるくらいなら、離れていた方がいい、と判断したのは正しい。里の者は、非戦闘員でも有事の時に自分がどう動くべきか叩き込まれている。
「後で、金髪王子の話聞かせてもらうからね!」
そう言って去ってくれた。
私は、思い付いて例の小箱から龍の爪を取り出した。急いで手持ちの小さい巾着に入れ、更に紐をくくりつけて、首から下げられるようにする。
何故そうしたか、自分でもわからない。
けど、これを肌身から離してはいけない気がした。
それを胸元にぎゅうと押し込んで、父上のいるところに向かった。
大広間に父上と、五人の兄達、お父様とお屋敷の警備に付いてくれてる男衆が集まっていた。
「もう、近い。俺でもわかるくらいな気配だ」
キクノスケ兄さまが、帯刀してるのを初めて見た。
「おい、キク。それは外でやれよ」
父上が呑気に言う。頷いた兄さまは、男衆と共に外へ向かった。父上がこちらを見る。
「アオイ、言いたかねぇが、多分お前だ。今までもこんな風に強行突破しようとする奴はいなかったわけじゃねぇ」
コクンと頷いた。
「しかし、強行突破しても意味ねぇ、ってことに気付いてない馬鹿ってことはわかるな?」
また頷く。
「お前次第だ。自由に選べ」
そう言って父上も外へ向かった。
「アオイ、こっちきて座ってな」
フヨウ兄さんが部屋の端に積んであった座布団を出して引いてくれた。
周りに、サクラ兄さんとアヤメ兄さんが座る。
小さい頃は、なんだかんだ弄られたり苛められたりもしたけど、こういう時はホントちゃんと大切にされてるな、って感じる。
「レンにいは?」
すぐ上の五男、レンがいない。
「血の気の多い奴は外だ」
フヨウ兄さんがニカっと笑った。
五人兄弟の中で、1番魔力が強いのはキクノスケ兄さま、1番武術が達者なのはレンにい、サクラ兄さんは防御の魔法に特化してて、アヤメ兄さんは頭脳派だ。そしてフヨウ兄さんが1番なんでも器用にこなす。
ぐわん、と空気が揺れた。
お屋敷の中にいても、里の結界が無理矢理破かれたのが分かる。
レオもこんな風にしたの?
兄さん達もレオに会ったのかしら?
ん?あれ?
そもそも私が里にいる、ってなんで分かってるんだろう?
「おや、これはもう使い物になりませんね」
突然聞こえた聞き覚えのある声。
まさか。
どうして?
サクラ兄さんが、庭に面した障子をスパンと開けた。
外廊下の向こう側の庭に、グッタリと青ざめたマキノと、黒いローブを羽織った背の高い男がいた。更に、見覚えのある、軽くウェーブのかかったオレンジの髪の男が、足元で倒れている人物を物のように放り投げた。




