27:帳(シンside)
アオイを守るべき力をつけろ、と言われていたのに、守れなかった。
確かに、当時13歳の俺ではまだ色々な力が足りなかった。けれど、申し訳なくて悔しくて情けなくて。それからの俺はアオイの護衛になるべく修行に猛烈に取り組んだ。
力をつければ、アオイの側にいられる。
遠くへ行ってしまった彼女は、たまに里に帰ってきた。再び王都へ行く時には、必ず付いていける男になると強く思った。
母は奴隷だったけれど魔力が高く(そのせいで奴隷になっていたくらいに)、幸いにもそれを受け継いでいた俺は、黒でなくても能力は高かった。
しかし、黒でないことが仇になった。
「シン、お前は諜報部隊に入ってもらう」
マサユキ様にそう言われた時、俺は17になっていた。
諜報部隊がどういう部隊かは知っていた。
アオイが拐われた事件の後、それまでも外国の情報を知るために活動していた部署を、強化するために新たに人員を増やす計画に抜擢されたのだ。
「国外を、転々としてもらうが……」
マサユキ様は俺の気持ちを知っているからか、言い淀んだ。
「やらせて頂きます。それが、アオイを守ることに繋がるなら」
そうして、旅芸人に扮するために芸人の修行先に行く前に、アオイのいる領地に寄った。
「シン!旅に出るって、お父様から聞いたわ」
出迎えてくれたアオイは、レディになりかけのまだ無邪気な女の子だった。
「そうなんだ。各地を転々とするから、アオイが里に帰ってきても会えない」
「そんな……」
「任務がないときに会いに来るよ。アオイ、俺を待っててくれる?」
「え?」
その時にはもう、気付いていた。
この大人になる前の蕾の中に、いつの間にか金色の芽が出ていることを。
それでも、言わずにはいられなかった。
「アオイ。君が姫だから、とかではなく、幼い頃から好きだった。今すぐじゃなくていい。俺との将来を考えてもらえる?」
*****
華旺国へ行くためには、このグーラート王国から早馬を乗り継いでも7日はかかる。
それは最短の話で、馬は代われるが、人は代われないので、途中休憩などを挟むと10日以上はかかる長旅だ。それに加え、手前の里からは険しい山を登らなければならない。
諜報部隊はその山を登る裏ルートを確立しているが、それでも難儀な山であることは確かだ。
更には今、王都から出てすぐの街……、先日アオイと出会った街で、大きな川に阻まれていた。
上流で大雨が降ったらしく、増水し、流れが早く、とてもじゃないが渡し船が出せないらしい。
こちらは天気もいいし、風もほどほどなのに渡れない。
この街に1泊して様子を見ているが、濁流は勢いを衰えているように見えない。
俺の風魔法で帆を操って船を操作してもいいのだが、まだまだ長い道中で無駄に魔法を減らしたくない。回復するのに休んでいたらもっと時間がかかってしまう……。
「シン様。ゴロウから連絡がありました」
メイド服ではなく、街娘の格好をしたリンが、肩に大きなカラスを乗せて、川縁に座っていた俺のところに来た。
ゴロウは諜報部隊の連絡係りで、伝達に様々な動物を使う。それが彼の得意魔法。
そのなかでもこのカラスの「帳」をよく使うのは、この子が俺とゴロウによく懐いているからだ。
「帳、ご苦労様。足を見せてごらん?」
俺の腕に移ってきた帳は、クルル……と喉を鳴らして、片足を上げた。
くくりつけてある筒に文が入っている。
巻かれている小さな紙を広げると、華旺国の諜報でしか使わない文字で、何やら長文が書いてある。
リンも読めないその文字を追っていくと、あまりいい知らせではなかった。
「どうやら、皆散々になったようだね」
「大丈夫でしょうか?」
ゴロウによると、あの夜俺とアオイが抜けた後も、特に混乱はなく興行は進められたらしい。
途中、ボックス席から王子とハヤテ達が抜けたのは確認した、と書いてある。
幕が下りて、お客が退出するのと同時に団員達は紛れて劇場を離れる計画で、数人が出たあたりで、周りに待機していた兵が乱入してきた。
この混乱で、誰が捕まって誰が逃れたのか、わからなくなったようだった。
例え1人になったとしても、皆自力で里には戻れるだろう。
只、時間がかかる奴もいるかもしれない。出来るだけ、数人で合流して向かってくれているといいのだが、この文を書いたゴロウも1人で動いてるようだ。
ゴロウは1人で里に向かう、と記しているが未だこの街では会っていない……。
とりあえず、現状を里にも知らせておくか……。
帳はここから何日で里まで行けるだろうか?と、思案していたら、後ろから気配もなく声がした。
「連れてってやろうか?」
振り返ると、庶民風を装ったものの、その品格を隠しきれない金髪と黄緑の瞳の男が、ニヤリと笑っていた。




