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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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25/127

25: 虹(レオンハルトside)

 会場にヒラヒラしている沢山の純白のドレスの中、黒髪に真っ白のドレスが映えて、誰より目を奪われた。

 数年振りに見たフィオレンツィアは、幼い時は下ろしていた髪を結い上げ、大人っぽくなっていた。

 手足がスラリと伸び、女性らしいやわらかな体のラインがドレスで強調されている。

 遠くからでもわかる黒曜石の瞳がキラキラして、恥ずかしそうな嬉しそうな顔をエスコートしてる男性に向けている。

 エスコートしてるのが、カーライト伯爵で良かった。他の誰か知らない男性だったら、この幕から出て奪ってしまいそうだ。

「わー、フィオレンツィア様、すごく綺麗になりましたね!」

 横からニヤニヤしながら小声でアランが言った。

 学園に入る前についた俺の従者(アラン)は、以前のフィオレンツィアに会っている。だからこそのツッコミだったが、見惚れるのに忙しくて相手をしてられない。

 13歳から16歳の女性というのは、こうも変わるのか。

「しかし、わざわざデビュタント姿を見たいがために学園を抜け出して来た、などと知れたらドン引きされませんかね?」

「うるさい。だまれ」

 会場になっている王宮の大広間は、小さい頃隠れるのによく使った場所で、どこにいれば見つからないか熟知している。

 もちろん、王族は広間の上座に座って、新しく社交界へデビューした男女から順番に挨拶を受けているのだが、そこに俺の席はない。

 まだ成人前ということと、学園にいるため欠席、となっている。

 なので、使われていない通路を塞いでいる幕の影から、不本意ながらこっそり覗き見してる状況なのだ。


 王族には、陛下(父上)皇后(母上)、レナルドとウォルター、他に叔父のアレンティオ様とその家族、叔母のレティシア様とその夫君が並んでいる。

 挨拶している中にフィオの姿があった。

 例の「忘れろ」発言があった後、父上とフィオは顔を会わすことがあったのだろうか?

 でも、カーライト伯爵とは旧知の仲と聞いたし、素知らぬふりをするのも考えにくい。

「フィオレンツィア嬢、息災にしていたかな」

 思いがけず優しい父上の声がして、ビックリした……。

 フィオも驚いてるようで、戸惑いながらも対応している様子が伺える。

 周りの貴族達が、あれは誰だ?と囁きあっている声も聞こえる。陛下自らわざわざ黒に声をかけた……と。

 とはいえ、次々並ぶデビュタント達の列は長く、フィオとは少し会話して、すぐ次の令嬢が淑女の礼をぎこちなくしていた。


 俺には忘れろ、とか言っておいて自分は普通に話してるじゃねーか!

 と、今すぐ言いに行きたい。けれど、そんなことを出来るわけもなく。

 挨拶も終わる頃、楽団が演奏し始めるとダンスが始まった。デビュタント達は大抵パートナーの父や婚約者とファーストダンスを踊る。

 まだ、たどたどしい動きのデビュタント達の中、優雅に伯爵と踊るフィオを見ていると、小さい頃フィオとダンスの練習をしたことを思い出す。

「!、殿下、何を……」

 こんな所からでは、お祝いの言葉も会って直接言えない。

 人差し指で宙に円を描く。それが俺の魔法発動合図(サイン)

 ワッと歓声が起こる。

 その声につられて、フィオも大広間の大きな窓を見た。

 このパーティーが真っ昼間からのスタートで良かった。日が沈む前に間に合った。

 雨も降ってないのに、突然現れた二重の虹に会場は大いに盛り上がった。


 *****


 キラキラした魔法の残滓が消えるよりも前に、奴は姿を消した。

 屋根から飛び降りる前の一瞬、こちらを見てやたらと綺麗な顔でニコリと笑いやがった。

 前回といい今回といい、動きが只の剣士や魔法使いのソレじゃないことには気付いていたが、まさかスパイだったとは。


 ハヤテが言うには、華旺国に姫が産まれた時代には諜報部隊に力を入れるそうだ。

 姫のその特異な伝承は表立っては出て来なくても、裏社会や歴史のある国では密かに言い伝えられていて、姫を手に入れようと画策するものは後を絶たない。故に、他国の動向を探る。ということらしい。

 魔力を持つものが少ないこの世界では、華旺国を味方につけるということがどれだけの意味を持つのか推して知るべきだ。

 でも、この伝承にはひとつ厄介なことがある。

 華旺国が力を貸すのは、姫の配偶者とその所縁のあるもの。

 そして配偶者は姫の望む者。

 無理矢理攫って婚姻しても意味がない。


「恋愛至上主義、って言ったらロマンチストすぎか?」

 ハヤテがティーカップを片手にクッと笑いながら言った。

「で?フィオは狙われないように名を変えてこの国に来てた、ってわけか」

「そう。華旺国は元々見つけづらくはあるんだが、国としてそこに長くあるからな。交易がないわけでもないし、国の者も各地に散ってるし、来ようと思えば来れる」

「そうかあ?探すのも、行くのもなかなかに骨が折れたぞ」

「!、華旺国まで来たのか!?」

 さすがにちょっと驚いた顔でハヤテが言った。

「お前ら本当にあそこから来たのか?ものすっごい辺境の地だったぞ?」

「……。っていうか、あそこ複雑な隠蔽の術と結界がかけられてて、許されたものしか侵入できないようになってるハズなんだが、どうやって入ったんだ?」

「ぶっ壊して」

「は?」

「さすがに防衛上マズイかと思って、そのあとちゃんと修復しといたぞ」

 ハヤテが頭に手をあてて、げんなりしている。

「お前……、あれ、国の奴らが8人がかりで5日かかって施した術だぞ……。」

「まあ、アランのおかげでっていう部分もある。でも最初の術だと維持するのに無駄な魔力を使ってたから、もっと効率のいい術式に変えといたぞ」

「……国の……、防衛を……」

 そこで、ハッと気づいたらしい。

「お前、マサユキ様にお会いになったのか!?」

「会った」

「なん…て…」

「フィオを嫁にくれ、って言った」

「っ馬鹿か!」


 さて、優雅な時間もそろそろ終わりにしよう。

「ハヤテ、なぜ俺にここまで教えてくれたんだ?」

 落ち着くためか、ゆっくり紅茶を飲み干して、黒い瞳がこちらをヒタリと捉えた。

「フェアじゃないと思った」

 こうして、貴族の子息のように振る舞うハヤテは初めてだったが、違和感はない。

 最初に捕らえてココに連れてきた時、ハヤテは牢屋でも監禁されるでもないこの対応に眉をひそめた。客室に泊めた時、貴族の服を用意するよう頼まれた。これが、俺に気を使ってしているということは分かっている。

 王族のプライベート空間で俺と対等に話すためには、捕虜でも執事見習いでもおかしい。

 アランはともかく、他の使用人や誰かに見られても違和感がないようにしてくれている。まったく、俺に甘いんじゃないのか?

「シンは何もかも知っていて求婚しているのに、レオは逆に何も知らなすぎる。それが、お嬢にとってはいいこと…かもしれないけど…」

「ありがとうな、ハヤテ」

 銀髪野郎の行方を追うか、またあの辺境の地へ行くか、どっちにしろ俺が動くための下準備をしないといけないな、と考えを巡らせた。


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