24: 昔々
昔々、山々の険しい土地に龍神様が落っこちた。
それというのも、空を飛んでいたら何やら光るものを見て、眩しくて目をつぶってしまい、山にぶつかってしまったのだ。
麓の村ではその大きな音と振動にビックリして様子を見に行くと、そこには目を回した男が倒れていた。
村人はその男を里まで運んで看病してやった。
ほどなくして回復した男は、看病してくれた村娘が光り輝いて見えた。
人としても大層美人ではあったが、その男にだけはまばゆく光って見えた。
この娘が光っていて目が眩んだのだと気付いた男は、どうしてもこの娘が欲しくなった。
「不自由はさせない、どうか俺と結婚してくれないか」
しかし、娘はすでに村長の長男と結婚の約束をしていた。
親同士が決めた相手ではなく、好きあって繋がった縁だった。
そこで男は自分の正体を現し、龍神に嫁ぐことを強要する。
嫌がり、嘆き悲しむ娘に龍神はある約束をする。
「お前が私の所に来るならば、この村の者達に特別な力をやろう」
村は貧しく人もどんどん減っていた。
新たな力を手にすれば、村は繁栄し、存続する。
村の未来を嘆いていた村長の長男を思い、娘はそれを承諾し、龍神の嫁となり村を去った。
龍神の加護の証しに、龍神は己の爪を村に残し、特別な力を得た村人は皆黒くなった。
残された長男はたいそう嘆いた。
それを不憫に思った村人は、龍神から授けられた特別な力は長男のために使うことにした。
長男はやがて村長となり、村の繁栄に尽力した。村人も彼に協力を惜しまなかった。
男はずっと伴侶を娶らなかった。
その代わり、自分の妹や弟達には政略結婚をさせず、想いあった相手と添い遂げさせた。
そうして村は存続し続け、村長一家は代々、己の欲する相手と添い遂げるのが常となった。
村人も、そんな長に力添えをするのを厭わない里になった。
*****
子供の頃に読んだことがある、里の昔話。
それが、本当のことだと言われてもすぐには信じられない。
でも、今、父上から授かった手の上にある尖った円錐形で弧を描く形状のモノは、まぎれもなく龍の爪だった。
持ってるだけで、魔力が漏れだしている。
これがニセモノなら、こんなに魔力を秘めている別の何かって、あるのだろうか?
あわてて、元々入れてあった小箱に戻し蓋をした。
「時代を経て、村長一族というより、一族の女子が選んだ伴侶に協力する、という形になったの。というのも、代々里の中での婚姻が普通だったのが、ある時、外からの婿を迎えた時に、婿の国の窮地を助けたことで、噂が立ち始めたのよ。「黒の蝶には龍の爪」ってね。爪が本当にあるとは多分思われてないと思うんだけど、その圧倒的な力を見た誰かが言い出したんでしょうね。運命的な符合ね」
お母さまがフフフと笑う。
「悪りぃなぁ、アオイ。この里の命運はお前が握ってンよ」
「は?」
待って、待って。
「え?じゃあ、私が選んだ相手に里の皆は従うってこと?」
「そうだな。まあ、里のモンを選べばソイツはここに婿入り。一族はキクノスケが継ぐから気にすんな」
「……外の人を選んだら?」
「お前次第だな。嫁に行ってもいいし、婿入りさせてもいいし、この里に別宅を持ってそこで暮らしたっていい」
「そ、そんな自由なの?」
「その代わり、里の者はお前らがどこにいようとも窮地にはかけつける」
父上の目がギラリと光った。
突然の重責に戸惑う。
「実を言うとねぇ、ここ何代かずっと女の子が産まれてなかったのよ。マサユキさんもタカユキさんとの2人でしょう?あなたが産まれた時、そりゃああの爪が嬉しそうでねぇ……」
「爪が、嬉しそう!?」
お母さまがおかしいこと言い出した。
「ずっとカタカタ鳴ってたのよ」
*****
華旺国王家に産まれる女性が選んだ伴侶に、華旺国の力を惜しみ無く与える。
そんなこと言われても……。
自室に戻って、ヘタンと布団の上に座り込んでしまった。
貴族社会では、従者や侍女をつけ、身の回りのことはやってもらうのが普通だが、ここ華旺国では違う。王族ですら自分のことは自分でやる。もしくは皆で協力してやる。
だから、御膳の準備も片付けも一緒にやるし、朝たたまなかった布団もこのままだった。
怒涛の数日で、久しぶりに1人になったら、フワフワの金髪が頭をよぎる。
あの時、行くな、と言ってくれた……。
私はまだレオの側にいてもいい存在だった?
レオの中ではそうでも、周りが許してくれるわけないか……。
『フィオ……』
追いかけてきてくれた時の、悲しそうな顔で呼ばれた声が耳に残る。
と、同時にすがり付いていたエレオノーラ様も思い出した。
更にはシンの腕に抱えられていたことも……。
ガバッと布団に潜った。
もうやだ。考えたくない!
真っ昼間だけどまた寝てやろうか、などと考え始めたら廊下から声がかかった。
「アーオイー?戻ってきたならお茶しない?」
聞き覚えのある声にもそりと布団から出た。
「アカネ?」
「フヨウ様が入れてくれたの」
里の幼なじみのアカネは、普通ならこんな奥まで入って来ない。
このお屋敷は、特に身分による立ち入り制限は設けていない。でも、里の皆は皆王族居住区の奥までは入って来ないのが常だった。
襖を開けると、懐かしい片エクボの笑顔があった。
アカネは乳母の娘だったから、姉妹のように育った気心の知れた仲だ。
部屋に引き入れ、お茶の準備をする。
庭に面した私の部屋は、縁側があってそこに座布団を並べて緑茶を入れた。
「前に戻ってきたのって、いつだったっけ?私、会えなかったからホント久しぶり~」
おっとりと喋る所は変わらない。横でフーフーしながら熱いお茶を飲んでるアカネは私と同じ二十歳だけど、童顔で私よりも幼く見える。
「アカネは今何してるの?」
「ウフフ、聞いて驚け。寺子屋の先生」
「わあ!子供好きなアカネにはピッタリの職業じゃない!」
アカネの得意は遠見。
その力を求められて、一時は諜報部隊への勧誘もあった。けど、本人は里を離れたくなくて、更には子供好きなので、ずっと保育関係や講師をさせて欲しい、と役所に言っていたのを知っている。
「そっちこそ、王都はどうなの?こっちとは文化がまるで違うんでしょう?」
「さすがに10年近く行ったり来たりしてたから、慣れたわ」
「あわただしい人生ねぇ。で?あの金髪王子とはどうなったの?」
お茶を吹いた。
「なっ、なんでっ!きん、金髪って……!」
たまに帰省してアカネとは会ってたけど、レオの話はしたことない。
「何年前だっけ?2、3年前?あの人来たのよ、ここに1人で」
初耳すぎて絶句した。
「えっ、へあ?ここに?1人で?どうやって??」
「おかしな声出してるよ。どうやって、かは私は知らないんだけど、まあ、あの結界を突破したんだろうねぇ。しかも1人で」
里にはその存在を隠すのと防衛のために、結界を張ってある。
外の人は魔力の高い人はそうそういないので、そこまで強力なものではない。
その代わり、そこに結界があるかどうか非常に見分けづらくしてあり、かつ複雑な術式で魔法学に詳しい人じゃないと解除するのは困難……なハズだったんだけど……。
レオならやりそう……。いや、やったのか。
「やだ、アオイ知らなかったの?だって、来るなりアオイの実家はどこだ?って聞いて回って、王族の姫ってことも知らなかったみたいで、挙げ句の果てにはお屋敷の警備もかいくぐってマサユキ様に直訴したっていうから、里中大騒ぎよぅ」
情報量が多すぎて理解が追いつかない。




