23: 華旺国にて
「悪りぃなぁ、アオイ。この里の命運はお前が握ってンよ」
「は?」
父上は、全然悪く思ってない顔で言った。
*****
お父様は、グーラート王国から一気に華旺国までとんだ。
確かにお父様は移動魔法が得意魔法だ。だけど、こんなに長距離を一気にとんだのは初めて見た。
そして、着いた場所がドンピシャのお屋敷の中だった。見覚えのあるここは、お屋敷の中の王族の私室へ繋がる廊下。
「お父様……、すごい……」
すごいけど、なんだか頭がグラグラする。
と、フラついたら、お父様が倒れた。
「お父様!!」
自分も立っていられず、しゃがみこむ。
「んな無茶すりゃあ、そうなるな」
廊下の先から、野太い聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、いかつい髭面をフワリと柔らかくした父上がいた。
「父上……、只今、戻り」
「そんなモンはいいから」
そういって私をヒョイっと抱き上げて、後ろを振り返った。
「タカユキを運んでくれ。治療師をすぐよこせ」
「承知しました」
後ろにはキクノスケお兄様もいた。
私を見て、優しく微笑んでくれた。
「アオイ、おかえりなさい」
そう言って、私の足から靴を脱がせた。
父上は私を私の私室まで運んでくれた。
長いこと使用していなかったのに、襖を開けたら、埃っぽくもなく綺麗なままだった。
「タカユキは一気に力を使いすぎたんだ。魔力が溜まれば回復する。お前は、まあ、慣れないから酔ったんたろう」
布団に寝かしつけられた。久々に畳の上だ。
「父上……わたし……」
「今日はもう寝ろ。話は明日聞く」
大きい手で頭をワシワシ撫でられた。
その手が目の前でパチンと指を鳴らした。
それを見たか見ないかのうちに、すぅっと寝入ってしまった。
久々に見た、父上の魔法発動合図に、帰ってきたと実感した。
*****
「アオイ?起きたか?入っていい?」
朝になると襖の向こうから声がした。
「フヨウお兄様、大丈夫よ」
スラっと襖を滑らして顔を出したのは、2番目の兄フヨウだった。
長めの黒髪を後ろに流して、容貌は一番父上に似ているフヨウ兄様は、私に一番甘い。
「おはよう。もう体調は平気か?」
「うん、大丈夫。フヨウ兄様、久しぶり。お兄様も元気そうでなによりです」
「朝めし、食えるか?」
男らしい精悍な顔でニカリと笑って、大広間を親指で指す。
相変わらず皆でご飯を食べる習慣はそのままなのね。
「着替えてから行く」
「わかった」
フヨウ兄様が出ていった後、久々に自分の箪笥を開けた。
ずっと洋装だったから、着物を着るのは本当に久しぶり。着れるかな。
普段着でいいだろう、と紬の着物と半巾帯、襦袢と腰紐を出していたら、また外から声がかかった。
「アオイ?着替えてるの?」
お母様だった。
ちょうどいい、手伝ってもらおう。
「アオイー!昨日、夜遅くに帰ってきたと聞いてたけど、大丈夫だったか!?」
4番目の兄サクラが声をかけてきたのを皮切りに、大広間に集まっていた家族皆が心配してくれていたのか、声をかけてくれた。
「オラ、話しは飯食ってからだ!」
父上の一括で皆各々の席に着く。
グーラート王国の作法とは全く違う。でもすごくほっとする。
隣でフヨウ兄さまが「これも食え、あれも食え」と勧めてくれるのを一生懸命食べた。
食事を終えて、使用人と共にみんなで片づけて、広間は上座に座る父上とお母さま、私の三人だけになった。
「さて、聞きたいことと言いたいことを話せ」
お母さまから湯飲みを受け取った父上は、緑茶を啜りながら鷹揚に言った。
「まずはお父様…タカユキ様のご容態をお聞きしても?」
「ああ、意識もしっかりしてるし徐々に魔力も戻っている。数日寝てりゃあ大丈夫だろ。アイツもキサラギ家のものだ。見くびってくれるな」
「安心いたしました」
朝食にもいなかったので、心配していたのだ。
「それと、リンやハヤテ、シンから連絡はありましたか?あの一座の誰かからでも…」
シンは移動魔法は使えない。王都を無事脱出できたとしても、自力で戻ってくるならあと数日はかかるだろう。団員達も興行をちゃんと終えたのか、そのあとどうする計画だったのか、シンから聞かされてなかった。
ハヤテは、レオに捕まってるならちょっとやそっとじゃ逃げ出せないだろう。
リンに至っては、あの宿屋で別れてから会ってない。ハヤテとは連絡を取り合っていたけど―――
「誰からも連絡はねぇな」
父上の一言で落胆する。
まあ、昨日の今日なのでまだ情報が来てないのも当然か、と納得した。
「でェ?すんげえ追っかけられたって?」
急にニヤリと悪者みたいに笑う父上は意地悪だ。
「すんげえ追っかけられました」
「これ、女の子がはしたない!」
父上の真似をしたらお母さまに怒られた。
「いいのかよ?」
父上が急に真面目になって聞いてきた。
「……。向こうは……色々とあるようで……。私がいると、政治的にもやっかいなことになりそうだったので…」
とたんにエレオノーラ様に言われたことを思い出してしまった。
「って、いうか父上!「突然去る日」で私、帰国したんじゃないんでしょうか!?」
なのに「いいのか?」ってどういうことよ。
父上はちょっと困ったような顔で言った。
「それな。お前の気持ち次第だったんだがよ。タカユキがそう判断したんだな」
「そう、って何!?」
「レオンハルトとかいう金髪野郎が、アオイを泣かせたってことだろ?」
「……………… は?」
言ってる意味がわからない。
だって、私は父上に「突然去る日」が来るから、心しておくように、って言われてた……ハズなのに……。
「え?っと、確認、なんだけど、「突然去る日」っていうのは、私次第だった、ってこと?」
「お前次第、っつーか、お前が幸せになれるか次第」
「へ?」
益々、混乱してきた。
私が幸せになれないとお父様が判断したら戻ってきた、ってこと?
「もう、アナタ、説明が下手すぎます」
今まで口を挟まなかったお母さまが言った。
「アオイももう成人していることですし、話すべきですわ」
「でもよ、聞いちまったら、ますます選べねぇんじゃねえ?アオイの性格的に」
なんの話をしてるの?
「黒の蝶と産まれたなら、自分の運命を受け入れるべきですわ」




