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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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21/127

21: 殿下と俺 1(アランside)

「離せ!」

 お仕えして早9年。殿下が女性に声を荒げるところなど見たことがない。

 ましてや乱暴に扱うところも。

 振りほどかれてよろめいたエレオノーラ様を、僭越ながら抱き留めた。

 その隙に一瞬で屋根の上に移動した殿下は、まだ残滓が残る魔法の痕跡に手を伸ばしていた。

 もう、その姿は見えなくなっていたけれど…。

 その、悲痛な光景を見ていられず、視線を落とせばエレオノーラ様が腕の中でふるふると震えている。

「失礼いたしました」

 と、腕の力を抜いて体を離すと同時に頬を張られた。

 矜持が高い。

 頭を下げ一歩引いた俺を、一瞥することもなく上にいる殿下を見上げている。

「レオ様!危ないので降りてきてください!」

 気丈にもあの状態の殿下に声をかけた。

 久々に見る、感情を暴走させそうな殿下。久々でもないか。先日見たな。

 それはいつもフィオレンツィア様がらみ。


 空間移動魔法なんて、目の前で初めて見た。

 殿下がソレを使えることも知らなかった。まあ、魔力の膨大っぷりは日ごろから認識してはいたけれど、力の量と技量はイコールではない。と思っていたのにどうも殿下はそのどちらも持ち合わせている稀有な方だった。

 レオンハルト殿下専属従者の俺でさえ、知らない。

 しょっちゅう俺を撒いて1人で行動する殿下を、全て……とまではいかなくても、だいぶ理解しているのはフィオレンツィア様だと思っている。

 現に移動魔法を使った殿下を見ても、驚いてなかった。

 反対もまた叱り。

 髪色や瞳、顔すら変えていたフィオレンツィア様を、殿下は後ろ姿だけで見抜いた。

 俺はある特徴からもしかして、と思って殿下を呼んだけれど、殿下は違う視点で見抜いた。

 レオンハルト殿下が、感情を揺らすのはいつも彼女だけなのに―――


「アラン、そいつ(ハヤテ)を逃がすな!」

 名を呼ばれた時点で動いてはいた。

 捕縛していないのに油断するハズもない。こいつは妙な魔法を使うからやっかいだと思っていたのだ。

 走り出そうとしたところに、普段はあまり人前で見せない得物を低く放つ。

 相手(ハヤテ)も想定外だったようで、あっけなくコケた。

「なんだ、これ!?」

「知りません?三節棍(さんせつこん)

「知るか!」

「逃げるなら捕縛させていただきます。大人しくついてくるなら、王家御用達のお茶菓子をお出ししますが、どちらを選択なさいます?」

「……。お茶菓子で。ていうか、お前こんなデカイもん、その服のドコに隠し持ってたんだ…」

「秘密です」


 気づけば降りてきた殿下がエレオノーラ様を厳しい目で見ている。

「なぜ、ここにいる?」

 フィオレンツァ様に向ける気兼ねない感じでも、貴族のお嬢様方に向ける取り繕った感じでもない、第3とはいえ王子らしい高圧的な物言い。

 エレオノーラ様は一瞬たじろいだ。

「……城で、衛兵がなにやら騒がしかったので…、何事かと聞いてみたら、レオ様のご命令で罪人を捕まえにいくというので……、しかもレオ様もご同行されるというので、心配で……」

 絶対零度の目線をご令嬢に向けるのも、見たことなかったな。

「違うな。本当は何だ?それでなくとも評判の悪い俺が、また何かやらかさないか気が気じゃなくて止めに来たのか?」

「……レオ様は、もっとご自分の立場を考えるべきです。もう、ご成人前とは違います。国内の貴族はもとより、他国の使者にも行動を見られていることをご自覚下さい!」

 真っ当なお叱り。

 王子が逃げられた女性を追いかけるため、お忍びで城下町の劇場に来て、更には街の屋根の上で他国の者とやりあう……。

 どう考えても、非常識だな。

 殿下を見れば、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


 *****


 俺がレオンハルト殿下付きになったのは、殿下が11歳の時。


 陛下は、殿下が学園に入る前に、一緒に学園に通う従者として同じ歳の者を探していた。

 殿下と同じ歳で、自分に自信があったり、親が野心込みでその立ち位置を狙うものは多かった。

 俺も条件に当てはまってはいたけれど、俺に関心のない父は特に勧めてきたりしなかった。

 同じ歳の友人達が噂していた。

「なんでも殿下は気性が荒くて癇癪持ちらしいぞ。気に入らない奴がいると物を投げてきたり暴れたりして、大変だとか。兄二人が優秀すぎて、見た目だけのレオンハルト殿下は使えない奴だってよ」

「そんなのの従者って大変じゃね?いつも怒られるの嫌だし、護る気がしねー」

「それが、護衛っていうより監視らしいぜ?逐一行動を報告しなきゃいけないらしい」

「俺、父上から立候補しろって言われてるんだけど、断りたくなってきた」


 それを聞いて、監視しなきゃいけないような王子ってどんな奴だよ、と思った。

 それと同時に、遠目から見たことのある、あの金髪で神秘的な黄緑の瞳をした美しい少年が、俺と同じような環境にいることに、少し親近感を覚えた。


 というのも、ターナー家は爵位は伯爵だが、現当主の息子達がとても優秀で父の代で頭角を表してきた……と言われている家系で、優秀な三人の兄達が王宮で活躍していたから。

 長男は勉学馬鹿、次男は魔法研究馬鹿、三男は筋肉馬鹿で、ハマったものがあると没頭する一族なのか、没頭した分それぞれ功績を残し、今は、長男は宰相の弟子に、次男は魔法省の幹部候補に、三男は第三部隊とはいえ騎士団の副リーダーになっている。

 そして四男の俺は、当時腐っていた。


 上三人が没頭することに父は金を惜しまなかった。勉学のために大量に本を買い、魔法学などというマニアックな資料は希少性が高く値段も高い。筋肉馬鹿だけはそんなに金がかからないだろうと思いきや、国の騎士団が主催する戦闘訓練校に入学する、とか言い出し普通の学園より金がかかる……。

 上三人に金をかけすぎて、いくら伯爵家とはいえ四男の俺にまで何かをさせる余裕はなかった。


 何かをさせる以前に、母も父も兄達のことでいっぱいで俺はほとんど自由だった。

 それをいいことに俺は、兄達の周りをうろちょろしてる子供だった。

 長男専用図書室に勝手に入って書物を読み漁ったり、次男の魔法研究室で勝手に薬品をいじったり、三男には屋敷にいる時の練習相手にさせられた。

 兄達は面白がって、俺に自分達の得意分野を教えてくれた。自分で言うのもなんだが、歳の割にはそこそこ吸収してたんじゃないかと思う。

 けれど父は俺に関心はなかった。

 それまでは兄達の教えてくれることが楽しくて気にしてなったが、兄達がそれぞれ赴任先につき家から出て、1人になった時に気付いた。


 俺はここに必要なのかな?



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