18: 兄二人(レオンハルトside)
「足!!!」
俺だってロクに見たことのないフィオの生足が、こんな大勢の前で晒されてることが許せない。
「殿……とと、レオ様、お静かに」
アランが隣から俺の横腹をつついてくるが、その指へし折ってやろうか。
フィオを連れたあの旅芸人の一座が、検問で話していた通り、王都にある劇場で興行を行うというのをアランが調べてきた。
「すごい自信ですねー。まあ、フィオレンツィア様、自らついて行ったわけですしね。殿下ごときに取られるとは思ってないんでしょうねー」
呑気に言うアランの脇腹に、指ではなく拳を叩き込んでやった。
無言で悶えているが、知らん。
そんなことより、今はこれから始まろうとしてるこの舞台のどこでフィオを取り戻すか、ということの方が問題だ。
向こうがこうやって堂々と俺の前に現れるなら、俺も堂々と客として来てやった……。
というか、アランが偵察に行って帰ってきたら、「チケットを預かりました」と、しっかり3席分の招待を受けたのだ。
街中にある劇場は、貴族の間でもなかなか評判の劇場で、一般客用の席以外に貴族用にしっかりとした個室を備えてある。
そこに、俺とアラン、ハヤテと男3人で座っているから、窮屈で仕方ない。
幕が上がり、あの銀髪の男が現れた。
団長だという男が最初の挨拶をする時、横に並んでいたのはぎこちない笑顔を浮かべるフィオだった。
髪はブラウン、瞳はグレーに変えてあるが、今回は顔までは変えてなかった。
「ハヤテ、聞くがフィオは芸人の訓練までしていたのか?」
「……。一応、一国の姫だぞ。するわけねーだろ」
非常に不満げに言われた。
ハヤテもフィオをあそこに立たせてることは不本意らしい。
「ハヤテ、お前はどっちだ?」
意地の悪い質問だと、分かっている。
妹のリンと共に幼い頃からフィオレンツィアについていた、と聞いた。
フィオは2人を兄と姉のように慕っているし、誰よりも信頼しているのは幼い時から知っていた。
そして、ハヤテがフィオにただの侍従以上の気持ちを持っていることにも、気付いている。
俺にしろ、あのシン・タチバナという男にしろ、ハヤテにとっては面白くない相手ではないのか、と思ってしまう。
俺も、カーライト邸に出入りして2人と接していくうちに、リンとハヤテがとても優秀で人物的にも申し分ないと感じている。でも、たからといって、フィオを譲れるか……と言われたらまた別問題なのだが……。
「どちらでもない。俺は、お嬢の望むままに」
最初の口上が終わり、一旦、幕が降りた。
ステージの真ん中で、シンとフィオが2人でお辞儀するのを、じっと見つめたままハヤテが言った。
無表情の中にある、秘めた熱を俺は見て見ぬふりをした。するしか、なかった。
*****
「私もだいぶ前に、歴史学だったか、誰か師から余談として聞いた」
レナルドは第一王位継承者として、幼い頃からいろんな師がついて、各方面の勉強をひたすら詰め込まれていた。
俺が小さい頃は、いつも机にかじりついて文句も言わず勉強に明け暮れている兄が、不憫でならなかった。
そういう俺も、当時は魔力のコントロールがきかず、しょっちゅう力を爆発させては熱を出したり、体調を崩して寝込んだりを繰り返していて、兄から見るとそれも不憫に思えたらしい。
「魔力というのは髪に宿る。色彩……が関係あるのかはわからないが、どうやら「黒」というのは魔力が強いらしい。そういう一族が、大昔にいたらしい、という話だった」
「なんか、昔読んでもらったおとぎ話も、そんなような内容じゃなかったか?」
ウォルターが言った。
正直、俺はその国に強烈に惹かれたが、ストーリーをあまりよく覚えてなかった。
「残念ながら、私はそのおとぎ話を読んでないんだ。ウォルターは覚えているのか?」
レナルドに促され、ウォルターが明後日の方向を向いた。
「いやあ、俺も細かい所は覚えてない。って、アリアーナ様の所にはないのか?」
2人して俺を見た。
「……。まだ、聞いてない」
というのも、母上に聞くと、父上に繋がるからだ。
フィオのことを忘れろ、と言われ、それに是も否も答えず学園に入った。
そのまま、父上にそのことを言われたことはない。
今、黒のことを俺が調べていると知ったら、父上は止めるだろうか?
あの時は幼かったから、どうして忘れろなどと父上が言うのか、わからなかったし考えが及ばなかった。
今は別の意味でわからない。
あの時、ハヤテが言っていたように「黒」と繋がっていることを良く思わない大臣や貴族は多いだろう。それでなくても常に人の足を引っ張ろうとする輩が横行闊歩するこの社交界で、いらぬ噂を立たされるのはもちろん御免だが、じゃあなぜ最初に俺とフィオを引き合わせたのか?
確かに、ハヤテとリンは魔法を暴走させていた俺にとってはいい師になったし、フィオの魔法の使い方を横で見ていて勉強にもなった。
でも、父上がそれだけのために引き合わせた……というのは何かが足りない気がする。
「ところで、まだ聞いてないんだけど、レオはどうして黒を調べ始めたんだ?」
レナルドが聞いてきた。
その当たり前の質問が唐突だったので、つい顔を作り忘れた。
瞬間、勘のいいレナルドがちょっと驚いた顔をした後、ニッコリといい笑顔になった。
「話してくれたら、協力しないこともないなぁ……」
ニヤニヤしながら取引してきやがった。
普段はすました顔で、威厳と誠実さを醸し出してるくせに、腹黒さを隠すのが上手すぎる。
婚約者のサラ姫はレナルドのこの顔を知ってるのだろうか?
とはいえ、所詮学生の身の上。
背に腹は代えられぬ、と考えたのと、レナルドとウォルターの執拗な質問責めにあい、フィオのことを洗いざらい喋らされた。
おかげで俺とアランでは行き詰っていた調査がグンと進んで、黒の里「華旺国」の所在とあの言葉の意味を知ることになるのだが、その分、兄二人からの生暖かい目線にさらされることとなる。




