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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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16: 黒の蝶(レオンハルトside)

 おとぎ話に出てくる、変わった国にものすごく惹かれたのはいつの頃だったか。

 小さい頃に母上が読んでくれた絵本の中の話。

 その話に出てくる人は皆、黒髪黒目。この国では、ほぼ見られない色。

 着ている服も、習慣も、言葉も違う。

 物語のストーリーはうろ覚えでも、その国のことはなぜか頭に残って離れなかった。


 だから、初めてフィオに会った時は驚いた。

 本当に黒いんだ、と。

 その、吸い込まれそうな黒い瞳が、本当に綺麗だと思った。


 *****


 4年間の学園生活は「耐」の一文字だった。


 俺を王族と構えない同じ年頃の友人が出来たのは良かったが、男女共学だったため、女生徒がやたらと寄ってくるのは辟易した。


 学園の魔法の授業は退屈だった。

 学園に入って、リンとハヤテがいかに魔法の教師として優秀だったかを痛感した。一緒に学んでいたフィオも、俺ほどではもちろんないが、高い魔力でコントロールも上手く、歳の割に難しい魔法を次々習得して、お互い高めあっていくのが楽しかった。

 学園ではそんな能力が高い生徒はそうそうおらず、魔法においては高めあう友も、指導出来る先生もいなかった。


 学生寮生活で、休暇に王宮には戻ってはいたものの、フィオには会えなかった。

 成人前とはいえ、王族としての公務に付き合わされたり、兄達の手伝いをしたり。

 父上からは「カーライト家であったことは忘れるように」と言われた手前、王都にフィオがいるのが分かっているのに、堂々と会いに行くことも王宮に呼ぶことも出来ず。


 学園に入る前の、別れ際の泣き顔。

 虹が出来た時の、驚いてキラキラ輝いていた顔。

 最初に出会った時の、心配そうに覗き込んできた黒い瞳―――


 忘れない、とは言ったものの本当に毎日のように思い出していて、忘れる余地なんてなかった。

 学園を卒業すれば、会える。

 と、漠然と思っていたが、ある日気付いてしまった。


 それは、同級生の女生徒が学園をやめる、という話を聞いたとき。

 学生生活は12歳から15歳の4年間。

 貴族の女性は14歳から16歳の間のどこかで、社交界へデビューする王室主宰の夜会へデビュタントとして出席する。

 学園を卒業してから出席するもの。デビューだけはしておいて、また学園に戻ってくるもの。

 それぞれの家の都合や本人の希望で、やり方は色々だが、その同級生はデビュタントと共に小さい頃から婚約していた伯爵令息とそのまま結婚するために学園をやめる、ということだった。


 そこで、フィオが俺より1つ歳上だったことを思い出した。

 俺が卒業する頃にはすでに16歳になっているフィオは、当然デビューは済ませているだろう。

 デビュタントの白いドレス姿を見られないのはもちろん、もしかしたら既に誰かと婚約していて、そのまま結婚……までいかなくとも行儀見習いだとかなんとか理由を付けて婚家へ住居を移しているかもしれない……。


 ―――ということに、気付いて愕然とした。

 フィオが?

 俺の知らない他の誰かと?

 結婚する?


 まだ起こってもいない可能性を想像しただけで、胸が苦しくなった。

 そこでようやく自分の気持ちに気付いた。

 どうしてこんなに苦しくなるのか。

 どうしてあんなにフィオを思い出していたのか。

 どうしてフィオにまた会いたいと思っているのか……。


 バカか、俺は!


 自分の鈍さに嫌気がさした。

 と、同時にこれからどうしたら彼女を手に入れることが出来るのか、瞬時に考えた。

 そこで、またもや自分の愚鈍さに気付くことになる。


 *****


「黒の里?久しぶりに顔を見たと思ったら何を言い出すやら」

 俺とは違う明るいブラウンの髪に知性の宿る金の瞳。落ち着いた威厳のある気品をまとった長兄レナルドは、弟の俺から見ても嫌味なくらい完璧な男だ。

 博識の兄なら何か知っているのではないか、と長期休暇の帰省中にレナルドに聞いてみた。

 公務が忙しいため、夜になってようやく会うことが出来たのだが。


「それって、アレか。昔、アリーナ様が読んでくれた童話に出てくる国。なんだってまた、そんなのが出てきたんだ?」

 なぜか兄の執務室でメチャクチャくつろいでる次兄のウォルターがいた。

「そもそもあれはおとぎ話だろ。確かにたまに黒髪黒目のやつはいるさ。学園でもいたし、王都の貴族でもいるだろ?」

 人払いをして誰もいないのをいいことに、ウォルターはそのデカイ体躯でソファーに寝そべり、俺の座る場所がない。

「それ、全部親族」

 レナルドがピクリと反応した。

「調べたのか?」

「アランを使って」

「なるほど。アランね。それで?」

 ワイン片手にレナルドは俺を見た。

 これは色々知ってるな。知っていて俺に喋らせようとしてることはわかった。こういう時は弟らしく素直に乗っかっておくに限る。

「子供のおとぎ話だと思っていた国が、どうやら実在するらしい、ってことはわかった。けど、地図を見ても、歴史書を見ても、その国のことは一切出てこない。かなり過去のものを遡っても」

 ウォルターが興味が出てきたのか、ムクリと起き上がった。

「公文書に記録がないのに、下町の地下組織やら雇われ傭兵の間では脈々と噂されてる」

「さすがアラン。そこまで調べられたんだ。欲しいなー。レオ、アラン俺にくれない?」

「やらねぇ」

 俺がアランを見つけて側に置き、メキメキとその能力を伸ばしてやったのに、誰が譲るか。


「アランが見つけてきた言葉を当てようか?」

 ニヤリと金の瞳が光る。

「「黒の蝶は龍の爪」」

 俺とレナルドが同時に言うと、ウォルターが「なんじゃそりゃ」と言った。


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