15: 2番目(レオンハルトside)
好きになった女の、バックグラウンドがとんでもないものを隠し持っていたとしたら、その女を諦められるか?
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「ああん!?んなもん、追い返せ!!」
天幕の向こうで、ものすごい怒鳴ってるのが、フィオの父親か。
確か、「お父様」と呼んでいたタカユキの兄だったハズだが、物静かで細いタカユキとたいぶ違そうだな、と思ったところで目の前の布がバサリと開いた。
「お前か、アホなことを聞きにきたのは」
他の国ではあまり見ない、この国独特の衣装――前合わせの紺色の服を着たガタイのいい髭面の男が、眼光鋭くこちらを射ぬく勢いで出てきた。
「予告もなく失礼する。グーラート王国第三王子、レオンハルト・フィンレー・グーラートだ。貴殿の末娘、フィオレンツィア・カーライト改め、アオイ・キサラギとの婚姻を認めて頂きたく参った」
「帰れ」
間髪入れずかよ。
「では、帰ります。しかし1つだけ質問が」
俺の切り返しに、キレイにその黒い眉を片方持ち上げた。
「なぜ、私の前に出てきてくれたのですか?」
しばし沈黙の後、こちらを見て無言で続けろ、と目が言った。
「俺は結構強引にこの屋敷に押し入った。いや、屋敷どころか国の結界さえ破った。けど、俺一人を追い出すくらい、ここの住人には容易いことだろう?こんな奥まで侵入を許し、更に俺の前に出てこないままでもいられたのに、貴方は目の前にいる。なぜだ?」
黒い瞳を細めたあと、はーっと息を吐いて、この華旺国国王マサユキ・キサラギは言った。
「見た目はともかく、くえない所はカイザーそっくりだな」
「父をご存知で?」
「お前は2番目だ」
「は……?」
なんのことだかわからず、思わず間抜けに聞き返してしまった。
「アオイの婚約者候補の、お前は2番目だ」
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たった数日、離れていただけだったのに、ものすごく懐かしい感じすらした。
髪色を変えても、後ろからでも分かる。
馬鹿だな。俺の前でいくら魔法で誤魔化しても、フィオだけは絶対間違えたりしないのに。
見慣れない髪と顔つきが気に入らなくて、すぐさま全て解呪してやった。
「……っ!」と体が震えた。少し驚いたようだ。
後ろから抱き締めているいつもは柔らかい体が、今は固くなっていることに気付いてはいる。
しかし、今はこちらだな。
やたらとお綺麗な顔をした銀髪の男が、細い短剣を俺に向けたまま、フィオの手を取った。
「離してもらおう」
「誰に剣を向けているのか、わかっているのか」
女性のように整った顔が、ゆっくり微笑んだ。
「もちろん。2番目殿」
コイツか!
見えないほど素早く、確実に目を狙って短剣を突き出してきた。
本能と反射だけで避けたが、常にまとっている魔法防御がなければ、俺でもヤバかったかもしれない。
緩めたつもりのない腕から、彼女がスルリと抜け出した。
「フィオ!」
長い黒髪が手のなかからすり抜ける。
フィオ自らが銀髪野郎に駆け寄って、腕にしがみつくのを、目の前で見えているのに信じられない、と心が拒否する。
今まで、フィオがあんなに体を預けた男がいたか?
ピュイッと銀髪野郎が指笛を鳴らした。
とたん、さっきまで周りを囲んで警戒していた奴らの気配が消える。
隙をつかれた。
「アラン!!」
呼んだ時にはすでに一匹捕まえていたが、アラン1人でこんな大所帯をどうにか出来るわけもない。
雑魚はどうでもいい。
「フィオ、こっちに来い」
久々に感情をコントロールしないと魔法が暴走しそうだ。
自分の周りに、溢れる魔力から漏れる風が渦を巻き始めた。
フィオが何かを堪えるように、泣きそうな顔で顔をブンブン左右に振った。
「……っ、声を……聞かせろよ……」
さっきから何も言わないフィオが、より遠く感じる。
次にフィオの口から出たか細い声に、愕然とした。
「……シン……、連れて行って……」
音も立てずに、銀髪野郎とフィオは消えた。
「殿下!何ボーっとしてんですか!追跡魔法を……」
「無駄だ」
アランに捕まってるハヤテがキッパリ言った。
「お嬢は戻らない」
「ハヤテ……。なぜだ?なぜフィオは俺から逃げる?」
「逃げられる覚えがないみたいだな」
「ねぇよ!!」
アランが、俺とタメ口を聞くハヤテに不審な目を向けたが、俺が普通に接してるからか、逃げないと判断してハヤテを離した。
「エレオノーラ・ベイリー公爵令嬢と婚約したんだろ?」
「は?ノーラと?俺が?」
本気で意味がわからない。
ずっと領地で経営学を研究し、公爵と共に領地経営を成功させた才女が、他の領地経営のための参考になれば、と講師として登城して滞在しているのは、確かだ。
俺も紹介されたし、その講義にも興味があったので参加して、その後もいくつか質問をしたり、経営について討論したこともある。
夜会で会えば礼儀としてダンスくらい誘うし、会話だってする。
確かに才女と呼ばれるだけあって、領地に引きこもっていたわりには話題は豊富だし、機転はきくし、他の令嬢と実の無い話しをするよりは、面白かったと言えば面白かった。
本気で考えてる俺に、アランとハヤテの両方から白い目で見られた。
「殿下、いつの間にベイリー公爵令嬢を愛称で呼ぶように?」
アランが半目で聞く。
「何度か話すうち、ノーラ自身がエレオノーラは長いから、ノーラと呼ぶように、と言ってきて」
「レオ、それ、お嬢の前でも言ってたのか?」
ハヤテが被せるように聞いてくる。
「あー、まあ、そうだったかもな。フィオと引き合わせたし」
目の前の2人は面識がなかったハズなのに、タイミングピッタリに同時にタメ息をついた。
「お嬢が去ったのは、それだけじゃないけどな」
ボソリと呟いたハヤテをジロリと見る。
「ハヤテ、洗いざらい吐いてもらうからな」




