14: 検問
いつもは、馬車が2台すれ違っても余裕があるくらい大きく開かれた街道が、王都手前で、わざと馬車を横向けに停めて、道を狭くしてある。
数人の軍人が、通る人をチェックしているのが見える。
シンの言ったように、王都に入ろうとする人より、出て行く人の方をより注意深くチェックしているようで、こちら側より向こう側の列の方が長かった。
「あんだあ?ありゃあ」
牛に荷車を引かせた農家のおじいさんが、前方を見て声をあげた。
「なんかねぇ、人を探してるっていって、ここだけじゃなく、軍人さんがあちこち検問してるんだってよ」
そのまた前で並んでいるおばちゃんが、後ろを振り返って説明した。
「罪人かねぇ。だったら物騒だねぇ」
すいません。ごめんなさい。
この各地で起きているであろう行列が、私のせいだと思うと、胃がキリキリ痛んできた……。
ここまで沢山の人に迷惑をかけることになるのなら、レオにだけでも別れの挨拶をしてくれば良かったんじゃないかと思い始めた。
って、いうか本当に?
この大捜索騒ぎは、本当にレオがやってるの?
そして、私を探してるの?
「アオイ?大丈夫?」
銀の髪をサラサラ揺らして、隣のシンが顔を覗き込んできた。更には頬を指でスリスリしてくる。
「だ、大丈夫」
こないだの、再プロポーズ以来、シンはグイグイ来るようになった……。
お屋敷に訪ねてきた時には、いたって紳士にお土産話などを話して、貴族の男女の適切な距離でもって接してくれていたのに。
今は幌馬車の中の狭い座席で、私の横にピッタリくっついてる。
「あ、あの、シン?他の人もいるから、あんまり……、さ、触らないで……」
美形が近くで甘い満面の笑み。更には意味深に触れてくる。
これは赤面してもしょうがないでしょ。
でもって、それを狭い馬車の中、生暖かくニヤニヤしながら団員達に見られているのが、すっごく恥ずかしい!!!
御者台のハヤテが「団長……。踊り子にあまり触れないで下さい」と平坦な声で言っても、どこふく風だ。
とりあえず、シン達の旅芸人一座に紛れ込んで、興行のフリをして王都に入る。
フリ、とはいえ本当にいつも契約している劇場からの招待を受けているので、全てが偽りなわけではない。泊まる宿もその劇場主が用意してくれているようで、シン達は何度か利用したことがあると言っていた。
「そういえば私、シン達の舞台を見たことないんだよね」
「そうだね。旅立った最初の目的地が団員達の訓練場だったし、王都にも興行に来たけどタイミングが合わなかったしね。今回はお客さんとして見ててもいいけど……。そのうち簡単なことはやってもらおうかな」
ニッコリ笑って無茶なことを言う。
一応、魔法方面は得意といってもいいくらいには扱えるけど、どっちかっていうと体を動かす類いはあまり得意ではないのに。
でも、匿ってもらってるのに、このままお荷物状態でも申し訳ない。
王都に戻ってきたならいっそお父様に頼んで、一気に里に飛んでもらった方がいいのかも―――などと考えていたら前方から声がした。
「君たちは、旅芸人か?」
御者台にいるハヤテとゲンタが「そうです」と対応している。
「主に団員が乗ってるのはこの幌馬車で、後ろ2台は衣装や舞台小物の他、団員達の私物や食料、生活用品ですね」
ゲンタが説明する。
並んでる人たちの中では、かなり大所帯な一団なので、対応する軍人が2、3人やってきた。
その後ろから、メチャクチャ見覚えのある人物がゆっくり近づいてきたのを、馬車の前の隙間から見た。
微かに動いた体に、シンがすぐ気付いた。
「知り合いか?」
「レオンハルト殿下の従者のアラン・ターナーです。」
「面識は?」
「ありまくりです…」
小声でのやりとりでも、周りの団員には聞こえてて、空気がピリッとした。
私のことを知らない人が黒目黒髪の特徴だけで捜索してるなら、その特徴を変えてしまえば結構気付かれない。
でも、アランなんて、レオとの付き合いくらいに長く接してる相手に、色を変えただけではバレるだろう。
幸い、ハヤテのことには気付いてないようだ。そういえば、あんまり接点はなかったもんね。
問題は、私。
「マキノ、頼む」
シンが小声でマキノに言った。
目の前に座っていたマキノは、二本の指を口に押しあて、小声で呪文を唱えるとその指を私の額に付けた。
「とりあえず、全員降りてもらえるか?」
と、外から軍人の声がする。
幌馬車の後ろから順番に団員が降りて行く。
私とシン、マキノは一番前に載っていたので、一番最後だ。
幌馬車の横に降りた全員が並ぶ。
ガッチリした体格の一人の軍人が、一人一人見ていく。やっぱり、女性の髪の毛と目の色を重点的に見ているようだ。
マキノを見て、最後に私の前にきた。
チラリと見て、すぐに踵を返して他の軍人の所に戻っていった。
今の私は、髪はブロンド、瞳はへイゼル、更にはマキノの得意魔法で、顔を変えている。
彼女はそういう変装系の魔法に特化しているのだ。その能力を買われてこの諜報部隊に入ったので、その腕は信用してる。
今度は荷物の方を調べるようで、荷解きするために団員達が移動を始めた。ホッとしたのを悟られないように、皆について荷馬車へ移動しようとしたら、目の端にアランが近づいてきてるのが見えた。
ええー!?なんでぇ?しかも、私に一直線なんだけど!!
それに気付いたシンがアランに声をかけた。
「私が団長ですが、荷物を見たら終わりですか?」
さすが、すごく自然に話しかけた。
「そうですね。あなた方はこの後、王都で興行ですか?」
「ええ、サラーディア劇場のオーナーから招待されていまして」
「ああ、あそこは良質な舞台を見せてくれる、と貴族の間でも評判です、よと」
会話してる2人の横を何気なく通り過ぎようとしたら、「よと」で、アランに腕を捕まれた。
すぐにパッと離してくれたけど、驚いて思わずアランの顔を見てしまった。
「この娘が何か?」
シンの心臓どうなってるんだろう。私はかなり心臓バクバクしてるのに、至って普通に質問した。
「最近入団した踊り子です。何か不審な点でもありましたか?」
「うーん……」
じーっと見られている。
「髪も瞳も違うし、顔も違うんだけどなー。でももし、ホンモノだったらメチャクチャ怒られるの嫌なので、確認しますね」
アランの、外面に向けた胡散臭いことこの上ない笑顔を真正面から見たのは初めてだった。
「フィオレンツィア」
耳元で呟かれる聞き覚えのある低音。
その後に、フワリと覚えのある香りに、後ろから包まれた。
「俺以外の男に、こんなに足を晒してんじゃねぇ」




