お出かけ
「剣はどうしたの?」
スイハが聞いてきた。
「あー、俺まだ剣素人だからさ、邪魔かなと思って」
「そうなんだ。でも一応持っといたほうがいいんじゃない?」
「大丈夫。俺には魔があるからさ」
魔とは、魔素や魔力、魔能などのことを指す。
大気中に含まれるている魔素を吸い、その魔素を魔力に変換することができ、魔力が巡っている部位は耐久力やパワーなどが向上する。魔力弾という、魔力を飛ばす技もある。
「おっ、魔強いの?」
「まぁ、一応9年やってるからさ」
「じゃあ6歳の頃からやってるんだ?」
「そう、あとはその時身体も鍛え始めて、剣やってなかったらここに習いにきたって感じ」
「そうなんだ。強くなりたいの?」
「まぁ、始まりは兄貴が教えてくれて、特訓してたんだけど、今は魔物いるから強くなるのは損はないでしょって感じたから、鍛えてる感じ」
「お兄ちゃんいるんだ」
「うん、5歳上のね」
「そうなんだ、私もお兄ちゃんいるよ。あと弟も」
「え、そうなんだ」
「うん。お兄ちゃんは結婚してて子供もいて、弟は家族想いでしっかりしてて可愛いの」
スイハは楽しそうに話した。
「そうなんだ。そういえば、スイハは騎士になりたいって言ってたよね。なんで?」
「普通に国を守りたくて、平和が1番だよ」
「そうだね」
(心優しい理由だ。好きだ)
「てか、どっちもトレーナーだ。白と黒でお揃いみたいだね」
スイハはそう言い、ユウセイの顔に向けて、ニコッとした。
(か、可愛い。なにこれ)
「…そうだね」
(なんか、嬉しい。神様、仏様、スルト様、本当にありがとうございます! …よし、次の助言だ。…やるぞ、やるぞ! やるぞ!!)
ユウセイは心の中で自分を奮い立たせた。
少しし、ユウセイは勇気を振り絞って喋り始めた。
「あのさ」
「なに?」
ユウセイの鼓動は速くなっていた。
「あの水色髪の子以外にさ、仲良い人いる? 例えば、彼氏とか?」
語尾が上ずった。
「仲良い子は他にもいるけど、彼氏はいないな。どうしたの?急に」
ユウセイはホッとした。
「いや彼氏いたらさ、一緒にこんな場所いたらヤバいかもなと思って」
「じゃあ、仲良い子いるか聞いたのはなんで?」
「あー、そのー、気になって」
ユウセイの声はどんどん小さくなった。
「ふーん。そうなんだ」
「じゃあさ、好きな人はいる?」
「いないけど、なんで?」
「いやー、ただ気になっただけ、雑談だよ。雑談。はは」
「じゃあさ、ユウセイは好きな人いるの?」
「え、 」
「ただの雑談だよ。雑談。 なに? いるの?」
「いや、まぁ、秘密」
「なにそれ〜、まぁ言いたくないならいいけど」
(好きな人いないんだ。一安心だ。でも俺のことも好きじゃないってことだよな。まぁ、まだこれからだよな、まだ会ったばかりだし)
2人はそのまま歩き続け、カナルタ剣学校から1番近い、ブエルダ水族館に着いた。
(…入場料、2700グニーか)
グニーとは通貨名だ。
(助言、奢れそうなら奢れ、か。…高い。でも、今まで貯めたお金と親から貰った生活費がある! いける!)
「スイハの分も俺が出すよ」
「いやそれは申し訳ないよ」
「でも、俺が誘ったしさ」
「いやいいよ、私も自分で行きたいって思ったしさ。気持ちだけ受け取るね。ありがとう」
(ここは助言通り引こう)
「分かった。ごめん」
「別に謝ることじゃないよ。優しさでしょ? ありがとう」
2人はそれぞれ入館料を支払い、一緒に水族館へ入った。
2人は小さな水槽が並ぶエリアを歩いていた。
(なんじゃこれ、きもちわる)
ユウセイが見たのは、小さめの全身真っ黒な身体から、人間の手を思わせる、指にも関節のない腕が何十本も生えていた魚だった。
「何これ、きもちわるっ」
スイハが本当に気持ち悪そうに言いながら、すぐにその魚から目を逸らしていた。
「ヨシヨシンって名前の魚だって。あの手でヨシヨシしてくれるのかな?」
「嫌だよ、そんなヨシヨシ」
(怯えてる、可愛い…そうだ!)
「大丈夫?次行こ」
ユウセイはそう言いながらスイハの手を握り、前へ進み、手を離した。
(びっくりしたぁ)
「…ありがとう」
スイハは力が入ってないような声で言った。
(や、やべー、握っちゃったよ、ヤバい、心臓バクバクしてる)
「ぜ、全然。大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
スイハは柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「それなら、よかった。じゃぁぁ次ぃ見よっか」
「うん」
「うわー、これ見て、綺麗だよ」
ユウセイは、全身が青くキラキラとしていて、1本1本のヒレが妖美な魚を見て言った。
「あ、ほんとだ。なんか、毒持ってそうじゃない?」
スイハは微笑んだ。
「確かに、なんか、美しさで騙して、毒浴びせてきそうだね」
「それ怖すぎだって」
「それな。あ、説明書いてあるよ」
ユウセイは、水槽の上に設置されていた、その魚の名前や特徴などが書かれている解説プレートを指差しながら言った。
「見てみよっか」
「うん」
ユウセイとスイハは解説プレートを見た。
「毒無いじゃん」
スイハが言った。
「そうっぽいね。こんなに毒持ってそうなのにね」
「ほんとにね。生物って不思議だね」
「そうだね。すごく不思議だ」
2人は引き続き、他の魚も見て回りながら、それぞれの魚について話していった。
次は、餌やり体験ができる場所に来た。
ブラックホールンという名の、結構大きい緑色の魚に餌をやれるそうだ。
「やる?」
ユウセイはスイハに聞いた。
「やろうかな」
「じゃあ並ぼっか」
「うん」
2人は、ブラックホールンの餌やりの列に並んだ。
餌をやるだけだったので列はどんどん進み、すぐにユウセイとスイハの番がきた。
「この魚をこの子の口の中に落としてください」
飼育員はそう言い、小魚を1匹、スイハに渡した。
「はい」
スイハは返事をし、小魚を受け取った。
ブラックホールンは口を開いた。
「うわ、すっごい黒い」
スイハはブラックホールンの口の中を見て、そう言った。
「はい、どうぞ」
スイハはそう言い、ブラックホールンの口の中に小魚を落とした。
ブラックホールンはその口の中に入ってきた魚を丸呑みした。
「すごい、丸呑みしたよ」
スイハはユウセイの顔を向きながら、楽しそうな顔で言った。
(か、可愛すぎんだろ!!)
「そうだね。すごいね」
ユウセイも餌やりをし、次の場所へ向かった。
(可愛かった〜)
ユウセイの頭の中はスイハでいっぱいになっていた。
次は、ドゥリューンという名の魚の、ショーが見られる場所へとやって来た。
ユウセイはジュワッとスライムジュース、スイハはぶどうジュースを買い、1番上の客席に座った。
前にある大きな水槽の中に、大きく細長い体をした赤色、紫色、黄色のドゥリューンが一匹ずついた。
少しの時間待っていると、客席の前に出ていたお姉さんが大きな声で喋り始めた。
「ドゥリューンショーの始まりです!!」
「あ、始まった」
スイハは言った。
そのスイハの声が聞こえていたユウセイは、右隣にいるスイハの顔を見た。
(すごいワクワクしてる。可愛い)
ショーが始まり、3匹のドゥリューンが様々なパフォーマンスを披露した。
(すげー)
ユウセイはそう思いながらショーを見ていた。
しばらくして、ショーが終わった。
(普通に凄かったな)
「じゃあ、行こっか」
ユウセイはスイハのほうを向きながら言った。
「うん」
2人は立ち上がり、歩き始めた。
「凄かったね」
スイハが余韻に浸るような声で言った。
「そうだね。思ったよりも凄くてビックリしたよ。さすがドゥガビス王国って感じ」
「ほんとにね」
スイハはにこりと微笑みながら言った。
ユウセイとスイハはそのまま歩き、次は、綺麗な小さい魚が沢山入っている、大きな水槽の前まで来た。
「綺麗だね」
スイハが綺麗な水色の瞳で水槽を眺めながら言った。
「うん、そうだね」
ユウセイも水槽を眺めながら返事をした。
その後、ユウセイは右隣にいたスイハの顔を見て、すぐに水槽に顔を向けた。
(楽しめたかな? 楽しめてるなら嬉しいな)
「ねぇ、ご飯どうする?」
ユウセイはスイハに聞いた。
「ここにレストランあるけどそこで食べる?」
「あ、いいねそれ。じゃあ行こっか」
「うん」
2人はこの水族館にある、ブエルダレストランに行き、席に座った。
ユウセイは窓から外を見ると、外はすっかり暗くなっていた。
ユウセイは特製スライムソースパスタを頼み、スイハはツバサーザードラゴンの肉を使用したハンバーガーを頼んだ。
「ユウセイさっきもスライムジュース飲んでたけどスライム好きなの?」
「うん、トロッとして喉に引っかかる感じが好きなんだ」
「そうなんだ。私も結構好きだよ」
「旨いよね! スイハはハンバーガー好きなの?」
「うん、ガッツいたら口の中が幸せになるの」
「それは旨そうだ」
(スイハってそんな豪快な所あるんだ。いいな。好きだ。…スイハはハンバーガーが好きっと。覚えよう)
2人が頼んだ料理が到着した。
(旨そう)
スイハは両袖をまくり上げた。
2人は手を合わせた。
「「いただきます」」
2人はそう言い、食べ始めた。
スイハは豪快にハンバーガーにかぶりついた。
スイハは口元にソースをつけたまま、幸せそうに咀嚼していた。
(本当に豪快に食べるんだな。可愛い)
「ソース付いてるよ」
ユウセイはそう言い、幸せそうに微笑んだ。
「あ、」
スイハは恥ずかしがりながら、ティッシュで口元についていたソースを拭き取った。
「ごめん、豪快すぎたかな?」
「全然。むしろ良いよ」
「あ、 そう」
2人は食べ終わった。
ユウセイとスイハは手を合わせた。
「「ごちそうさまでした」」
「じゃあ帰ろっか」
ユウセイは言った。
「うん」
ユウセイとスイハは水族館を出た。
炎の明かりでオレンジ色に染まった街灯が、街を照らしていた。
ユウセイとスイハは話しながら学校へと向かい、1年生寮に着いた。
そのまま2人は、誰もいない男子寮と女子寮の間にある共有スペースの昇降口で、靴を履き替え、廊下で向かい合った。
「今日はありがとう、楽しかったよ」
スイハは柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「こちらこそありがとう。俺も楽しかったよ、また出かけよ」
「うん」
「「おやすみ」」
2人のおやすみが被った。
2人は小さな声で笑った。
「じゃあね」
スイハは手を振りつつ、そう言いながら、女子寮があるほうへ1歩踏み出した。
「うん、じゃあね」
ユウセイも手を振りつつ、そう言いながら、男子寮があるほうへ1歩踏み出した。
ユウセイはスルトの部屋で、今日あったことを話した。
「マジで助言ありがとう!!」
「いいってことよ。まぁ結構上手くいってるっぽくてよかったよ。頑張れよ」
「おう、頑張るぜ、ありがとう」
ユウセイは自室のベッドで横になった。
(スイハー〜アァァァ、好き、可愛い、好き)




