第五話
「次に動くのは阿倍の右大臣でしょうね」
お気楽石作皇子は早々に帰っていった。鉢も返さないといけない、住職が困るだろうとのこと。黙って持ってきたんだろうか。
対して生真面目石上麿足は今後の対策のために残ったのである。
「右大臣ですか」
原作では次にエピソードとしてくるのは車持皇子だったと思うが。
「財に物を言わせるでしょうからね。今は大宰府に送る部下を選別しているでしょう。それから唐土に行かせて火鼠の皮衣を探させるかな、と」
「時間が掛かりそうですね」
「そりゃあもう。というか今日の今日課題を終わらせようとした石作の御子がおかしいのですよ。どれもこれも簡単に持ってこれるはずがないものばかりなのですから」
自分で持ってくるように言ったくせに何を言っているんだと言わんばかりに反論された。いやぁ本物のかぐや姫が何を考えてリクエストしたのかは私も知らないし。
ただ全員バラバラの物をリクエストした理由はわかるな。足の引っ張り合いをしてくれるのならまだしも、協力し合われたら困るからだ。そうなると互いを蹴落とすなら最後の最後でいいからね。全員落ちて欲しいかぐや姫としては片手落ちになってしまう。
「ただ一番財政面で妥協しないのは右大臣ではあるとは思います」
万が一、本物の火鼠の皮衣があるのであれば一切の躊躇い無く買い寄せるだろう。
そういう意味ではかぐや姫が阿倍御主人に火鼠の皮衣を当てたのはファインプレーだったと思う。火鼠の皮衣は燃やせばすぐに真贋の判断がつくから。例えば贅の限りを尽くして蓬莱の玉の枝とか竜の首の玉、それこそ仏の御石の鉢なんて用意させたら話が終わっていた。阿倍御主人本人がそれを本物だと思っているわけだから尻尾も出さない。
阿倍御主人で問題なのはその真贋ではなくて、その後の問題だろう。
「彼自身は過激な人間ではありません。ただ彼の部下は右大臣に忠実な者が多い」
つまり阿倍御主人よりも部下が面目を潰されたとこちらにヘイトを向けてくる可能性が高いと。
「ただこれに関してはここで話し合ってどうにかなるものでもありません。どうにかこちらで調整しましょう」
「どのように?」
「矛先が貴女に向かなければよろしいのです。売った側に憎悪が向くように差し向けます」
口で言うのは易いがますますどうやって。相手は唐の商人だ。復讐することが出来ない分、こんなお題を出して恥を掻かせたかぐや姫に向かいそうな気がする。
だがふと思い出す。流石は自称とはいえ文学少女、案外ちゃんと覚えているものだった。
「火鼠の皮衣があるけれども、提示した金額では足りないと追加で料金を請求するのですね?」
確か原作の竹取物語内でもそうだったはずだ。一度提示された金額を払ったけれど、更に追加で請求をされたはず。しかし阿倍御主人は火鼠の皮衣が手に入ると疑わずに喜んで追加分も払った。
最初の料金を低めにして追加でせびるというのは良くある詐欺の手口だ。だが確かにこうされれば阿倍御主人周辺の人々も最初から騙す気満々だった商人の方に不満を向けるだろう。
しかしその時にはもう商人は唐へ戻っているという寸法だ。
納得した私とは裏腹に、石上麿足は呆れたような顔を向けていた。
「俺、本当に必要でした? かぐや殿だけで十分政略的に考えられていた気がしますが」
「私だけでは絵に描いた餅です。中納言が味方で大変心強いですわ」
「貴殿が男子ならよい官僚になれたと思います」
とりかへばや物語……残念ながら内気でかわいいかぐや君はいないので本当に画餅である。あと誰が男勝りだ。
とにかく実務のほうは任せて欲しいとのことなので、大宰府への細工は石上麿足に任せることとした。
しかし翌日早速行動を起こしたのは、阿倍御主人ではなく車持皇子だった。
これより蓬莱の玉の枝を探しに行ってくるとの報告にやってきた。
その時に知ったのだが石作皇子が求婚に失敗した話がもう宮中に巡っているらしい。嘘だろ昨日の今日だぞ。ニュースが少なくて娯楽も少ないのだろうが、めちゃくちゃ早い。多分その迅速な伝達に一躍買ったのは目の前の車持皇子だろうな。
むべなるかな。あんな従兄弟のあんちゃん、私も両手であっかんべーなので気持ちはわかる。
しかし私の従兄弟のあんちゃんではないので、車持皇子が帰った直後に石作皇子と石上麿足宛に車持皇子来訪の旨を手紙に書いて持って行かせた。
返事は同じほどで返ってきた。
石上麿足は「かしこまりました」と実務重視の返事で流石はぼくらの麿足と思った。しかし石作皇子からはいかに車持皇子が馬鹿でかわいいかが書かれて戻って来た。同じタイミングの返事で書ける情報量じゃねぇだろ。やっぱ嫌だわこんな従兄弟のあんちゃん。




