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第二話


 しかしなんでまたかぐや姫が悪役令嬢なんだろうか。この真っ当な疑問に対する答えは「五人の貴公子を破滅させたから」になるのかもしれない。

 あるいは、そもそもかぐや姫は罪を犯して地上に降りてきた「罪の女」のはずだ。それを指して「悪」役令嬢とか?

 どれもしっくりこない。


 というか。


 ピーピョロリー

 ぽん……ぽぽん……


 外がうるさくて考え事に集中出来ない。


 何が起きているのかというと、五人の貴公子が家の外で楽器を持ち寄り演奏をしているのである。

 この時代の求婚作法は知らないが、こういう風に気を引くくらいしかやりようがないんだろうなと言うことはわかる。彼らの贈答歌は片っ端から無視しているわけだしね。

 でも連日これである。迷惑以外の何ものでもない。あと太鼓が調子外れなんだよ。気になるわ。

 竹取の爺さんも辟易としている。そりゃそう。成金とはいえ正真正銘庶民の爺さんだもん。対して求婚者達は一番高くて皇子、一番低くても中納言だ。

 悪役令嬢ユニヴァース観でいうなら王子様に大臣、騎士団長みたいな人達。公爵とか子爵とかでもいい。そんなやんごとなき身分の方々が竹細工で生計立てているような家に求婚に来ているのだ。あり得なさ過ぎて笑える。そりゃ爺さんも胃が痛い。仕切りに私に誰か一人を選んで欲しそうにしている。

 しかし爺さんの一番はこの可愛い可愛いかぐや姫なんでね。どうするのかは私が決めます。貴公子達を一処に集めてくださいと願えば叶えてくれるのである。


「皆々様、お初にお目にかかります。かぐやにございます」


 とはいえ私は御簾越しにいるのでお目にかかってはいないんだけど。


「さて皆様からの毎日のような文や楽、このかぐや大変に感激致しました。皆様のような大層ご立派な殿方の妻になれるのであれば望外の喜びではございますが、何分無教養な娘でございます。どなた様も素晴らしい故誰か一人を選ぶなどこのかぐやには難しい事でございます」


「付きましては一つ、かぐやめの願いを叶えて下すった方のもとへ嫁ぎたく、皆様をこのようにお招きさせていただいた次第でございます」


 反応を伺うが、図々しいと怒って席を立つ男はいないようだ。皆何かしらを考えて席に残っている。何人かは自信があるように口髭を撫で回していた。ひぇ、えらそう。

 同じく御簾のこちら側に居てくれている婆さんが、一人一人名前を教えてくれた。


 まず一番年上そうな男。阿倍御主人あべのみうし。恰幅がよくていかにも金持ちって感じ。うちの爺さんも成金だけど清貧の心はまだ生きていて、あからさまに羽振りを利かせてはいない。けれどこの人はどう見ても財力で物を言わせるタイプの男だ。単純に金が欲しいならこの男一択だろう。ただちょっと品がない気がする。


 同じくらいの年頃の男が、大伴御行おおとものみゆき。阿倍御主人に比べればさっぱりした風体だ。ここにいる誰よりも体格がいい。武人といった感じ。ただ雅には欠ける。実際貰った和歌も一人だけわけわかんないセンスしてた。


 彼らから離れて二十代くらいの男に石作皇子いしつくりのみこがいる。この中では一番身分が高い人だ。よく言えば洒脱、悪く言えば軽薄な感じがする。一応王子様ではあるはずなんだけど。


 二十代くらいのもう一人が石上麿足いそのかみまろたり。逆にこの中では一番身分が低い彼だが、誠実そうな顔をしている。質素。というか先程から微動だにしていない。なんか怖い。


 そして最後の一人にして唯一の十代の男。車持皇子くらもちのみこだ。彼もまた王子様ではあるが、石作皇子ほどしっかりとした血筋ではないらしい。顔が良くて知恵が回りそうだが、若いだけあってちょっと生意気そうだ。


 こういうときは身分順に言えばいいのね。よしよし。私とて生前は文学少女……を気取っていた少女だ。竹取物語でのお題はちゃんと覚えている。


「石作の御子には仏の御石の鉢を」


「車持の御子には蓬莱の玉の枝を」


「阿倍の右大臣には火鼠の皮衣を」


「大伴の大納言には竜の首の玉」


「石上の中納言には燕の子安貝をそれぞれ持ってきていただきとうございます」


 爺さんが後ろの方で仰天したのが見えた。まあ結婚するとか言っておきながらする気のないラインナップだからね。でもこれは原作通りなんで。文句があるなら本家のかぐや姫に言ってくれ。

 なんせ私から見ても彼らは大本命帝へこちらの評判を届けて貰いたいだけの踏み台なのだ。竹取物語では一番長い部分ではあるが別に実りのあるシーンではない。さっさと終わらせて次に行きたいからね。

 五人の貴公子達は流石に顔色を変えた。阿倍御主人は一番余裕そうで、車持皇子が一番難しい顔をしている。大伴御行は何を言われたのかわかっていないようだ。石作皇子は何故か車持皇子を見てニヤニヤし始め、石上麿足は……いや本当に微動だにしないな、なんだこの人。


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