第一話
ぶっちゃけ最初からただの悪役令嬢じゃないなとは思っていた。
何故なら。
「貴女を悪役令嬢に生まれ変わらせて差し上げましょう。断罪に関しては独力でなんとかして下さいね」
目の前に現れた神様が明らかに高天原から出向なさったようなお姿だったからだ。あ、高天原って日本神話に登場される神々がお住まいになっている天上のことね。
悪役令嬢と聞いて真っ先に思いつくような中世ヨーロッパ風の世界観ではないだろうなとここでわかるわけだ。だって角髪だったし。ホッカムリの服に佩いていた剣が両刃だった。日本には八百万の神々がいらっしゃるわけで、その内の一柱が人間の転生先を斡旋していても全然おかしくはない。なんせ米粒一つにも神が宿っているので。
そういうわけで私は生まれ直した。想像通り日本人の元に。
しかし私自身は日本人じゃなかった。
実は最初からヒントはそこら中にあったのだ。
まず私の親と思われる男女がとても歳が高かった。少なくとも赤ん坊を産んで育てられるような歳ではなかった。だから私は彼らのことを両親ではなく祖父母だと思っていたくらいだ。あまりにもかわいいかわいいと誉められながら育ったのでほぼほぼ孫だと確信していた。孫を育てているのは息子夫婦だか娘夫婦だかに不幸があったのだろうと。
違った。
私は拾い子だった。
爺さん曰く、なよたけを割ったら入っていたのが幼い私だったとか。
かぐや姫じゃん。悪役令嬢じゃないじゃん。
ひょっとして私が知らないだけで悪役令嬢要素があるのか? いやただ単にかぐや姫の性格が悪いってだけだった気がするな。何より悪役令嬢の対となるヒロインがいないし。
そして断罪ってなんだ。確かかぐや姫のラストシーンって。
……あっ。
かぐや姫。日本人であるならば誰しもが一度は聞いたことのあるあの御伽話である。大抵の場合はかぐや姫と帝との悲恋物語として語られているだろう。
ではその御伽話の原型となった竹取物語についてはどうだろう。こちらも国語の教科書で取り上げられたことがあるのではないだろうか。特に冒頭の「今は昔、竹取の翁という者ありけり。野山にまじりて竹を取りつゝ、竹を取りつつよろづのことに使いけり」から始まる文は空で言える人もいるのではないだろうか。
実は竹取物語は別に悲恋物語ではない。なんなら作者が竹取物語で書きたかったのも帝とのやり取りのシーンではなく、その前の五人の貴公子達を次々と振るシーンではないかと個人的には思っている。あらすじを述べよう。
竹取物語。ある日竹取の翁に拾われたかぐや姫はすくすくとそれは美しく育ち、その美しさは都でも大層評判となった。そこで是非ともかぐや姫を妻に娶りたいという貴公子達が集まるも、あまりにも素気無い態度に一人また一人と姫を諦めていく。しかし最後に残った五人の貴公子達はまったく諦める様子もない。なのでかぐや姫は一計を案じ、五人の貴公子を全員振ったのである。
そのかぐや姫の噂を聞きつけた時の帝が出仕をするように言うが、かぐや姫はこれも拒否。しかし帝はかぐや姫と直接逢うことに成功する。ただかぐや姫はそれでも帝の妻になろうとしない。手紙でのやり取りを続けていたある日、かぐや姫は自身が月の都の民であり、同時に罪人であることを爺さんと婆さんに告げる。そしてその迎えが差し迫っていることも。
かぐや姫を連れて行かせまいと皆でかぐや姫を防衛しようとするが、すべて無駄に終わり、かぐや姫は帝に不死の灰を渡して月に帰るのである。
これが簡単な竹取物語である。
では先程私は何に気がついたのか。
月に帰る際、かぐや姫は月の都の使者が差し出した羽衣を着た瞬間、それまで抱いていた思いやりや感情といった一切合切を消されるのだ。多分記憶も消されている。そういう描写をされる。実際かぐや姫が無くしたのか、羽衣によって消されたのかはわからない。もしこれが後者だったとして。
転生してきた私のとって感情や記憶を消されるということは、即ち死と何も変わらないのではあるまいか。
断罪=月の都の使者の来訪か。
なるほどね。
いやちっともなるほどじゃない。どうやって回避すればいいんだこんなイベント。月からの使者って当時の精鋭達もまるで刃が立たなかったはず。なんか月の都の使者見た瞬間に戦意喪失していた。本当にもうどうにもならなかったのである。
こんなチートみたいな能力使われても抵抗できる日本人って、同じくチートみたいな能力持っているタイプの日本人くらいだろう。ヤマトタケルとか。桃太郎の原型吉備真備とか。坂上田村麻呂とか。
どれも彼も現在の日本にはいない。ヤマトタケルは過去の人だし、後者二人は未来の人だ。
いそうなビックネームといえば役小角くらいじゃなかろうか。鬼を使役した超人だ。もちろんこれは私が前世の記憶があるから知っているだけで、今の私は彼がどこで何をしているのか知らない。ので頼れない。つまり詰んでます。やだあ。
しかしあの角髪の神様は私に断罪をどうにかしろと言った。どうにか出来るものでなければそうは言わないんじゃないだろうか。そして私は役割的には悪役令嬢である。数いる悪役令嬢達はどうやって惨劇を回避してきた。そう。物語を変えてきたではないか。
つまり私も竹取物語を変えさえすれば、断罪を回避出来るのではないだろうか。
ではどう物語を変えていく?
かぐや姫は当時のお姫様みたいな生活をしていた女性なので、外には出歩けないし、出来ることも多くない。
ならばやることは一つ。
帝と結婚する。
これしかない。こうした瞬間竹取物語はガラガラと音を立てて壊れるはずだ。多分。
というか他に試しようがない。まさか私が「野山にまじりて」するわけにはいかない。というか絶対生き残れないし。
よし。そうと決まれば気合を入れて帝を落とそう。大丈夫大丈夫。原作からして帝はかぐや姫に惚れてたし絶対楽勝!
「よーし、生き残るために頑張るぞ!」
「今日もかぐやは元気がええの~」
「お転婆で可愛いですねぇ」
爺さん婆さんが和やかなところ申し訳ないが、私は私のために必ず断罪を回避してみせるんだから!




