第7話 「依存する男」
昼休み。
「俺さ、昔6年付き合っとった女がおるんよ」
唐突にユージが言った。
また始まったーーと誰もが思う。
「婚約までいっとったけーね」
誇らしげな表情ーー
全員黙ったままスマホを触る。
「でもな…喧嘩して別れたんよ」
「就職決まらんくてイライラしててさ」
理由はそれらしい。
(多分それだけじゃない…)
だが――
誰も何も言わない…
「まぁ、俺のワガママで別れたんやけどな」
「可哀想なことしたわぁ」
その言葉に、
ほんの少しだけ違和感が混じる。
「へぇ……そうなんですね」
ヒロシがいつもの返事。
「でもな…」
ユージは続ける。
「毎年誕生日にはLINEしよったんよ…ずっと」
「え!?……最近までですか?」
「2年前くらいまで」
一瞬、空気が止まる。
…十数年前の話だ。
「ちなみに、何て送るんですか?」
「普通に“おめでとう”って」
普通ではない…
誰もがそう思っている。
「で?返信来たんです?」
「当たり前やろ!バカな質問すなやカトゥ」
「まだ覚えてたんだ…ってな」
「照れ隠しが可愛いやろ」
(それは意味合いが違うのでは…)
全員の頭にその言葉が浮かぶ。
「でもな」
ユージは少しだけ笑う。
「彼氏おるか聞いても教えてくれんのよね」
(聞いてるんだ…)
誰もそこには触れない。
ユージは勝手に続ける...
「多分まだ俺のこと想ってくれとるんやろな…」
「答えれんってのが証拠よね」
「相変わらず意地っ張りだけど…俺には分かる……」
(オイ!彼女一筋はどこいった?…)
誰もが思った。
余談ではあるが…
以前ヒロシはユージに聞いたことがある。
「そんなに好きなら、復縁したらいいじゃないですか」
その時のユージの答え。
「自分から別れた女に、そんなこと言えん男なんよ俺は」
「ダサいこと言うなやカトゥ…」
その言葉だけは妙に覚えていた。
(いや…フラれてなかったっけ?)
記憶が少しズレるーー
だがーー
訂正する気にはならなかった。
話は変わるーー
「そういや今日さ」
ユージが弁当を開ける。
中を見て、止まる。
「……あ!?」
空気が変わる。
「なんでや!」
弁当袋の中をかき回す。
「なんで入っとらんのや?」
声が大きくなる。
「どうしたんですか?」
ヒロシが聞く。
「薬!」
「頭痛の薬入っとらん!!」
余りの剣幕に全員が黙る…
「オカンのやつ……」
低い声。
「なんで入れとらんのや!!」
怒っている。
本気で。
「まぁ今日くらい大丈夫じゃないですかね」
ヒロシが言う。
「はぁ?無理やろ」
即答。
「これないと無理やけ」
弁当を閉じる。
「最悪やわ今日」
そこから先ずっと機嫌が悪かった。
誰も何も言わない。
ヒロシは思う…
(この人は――)
過去にも。
女にも。
家族にも。
何かに寄りかかっていないと
立てない人間なのかもしれない。
だが――
本人だけはそれに気づいていない。
「俺別に、誰にも頼って生きてないけ」
少し前に聞いた言葉が頭に浮かぶ。
もう何も言えなかった…
ただ一つだけ、
確かなことがある。
この男は――
自分が依存していることに…
一生気づかない。
次回 第8話 「スポーツを愛する男」(5/18 月)
今回も最後まで読んでいただき感謝いたします。




