第5話 「追跡する男」
夕方。
ーー仕事終わり。
「お疲れっしたー」
ユージはいつも通り車に乗り込む。
基本は直帰。
寄り道なんてほとんどしない男だ。
――のはずだった。
その日はスーパーに入った。
車を停め何となく外を見ると――
「あ!」
買い物袋を持った女性。
(タイプやな…)
理由はそれだけで十分だった。
女性は車に乗り駐車場をあとにした。
ユージはスーパーに来た理由も忘れ……ほぼ同時にアクセルを踏んで駐車場をあとにする。
見えない糸に引かれるように…
前の車を見失わないように…
信号で止まる。
青になる。
左に曲がる。
止まる。
しばらく走る。
右に曲がる。
その一瞬運転席の女性の顔が見えるーー
「チャンス~♪」
何のチャンスかは分からないし知らないが、とにかく付いていく。
完全に“観察モード”だった。
進むこと20分ーー
車は右折し大きい住宅街に入っていく…
やがてその車が広い駐車場で止まった。
「!?」
ユージは少し離れた場所に車を停める。
エンジンは切らない。
女性が降りて買い物袋を手に歩いていく。
ユージも降りる。
一切の迷いはない。
「よし!」
これまた何の“よし”なのかは分からないが付いていく。
住宅街を少し歩くと女性は一軒の家に入っていく。
「ここか」
表札を見るーー
『○○』
「はいゲット~♪あざーす」
「さっ帰るか」
そう言うとユージは車に向かった。
5分後――
「……」
似たような建物。
似たような景色。
「どっから来たっけ?」
完全に迷っていた……。
さっきまでの威勢は消え、ぐるぐる歩く。
同じ場所に戻る。
「あれ?さっきここ通ったな…」
また歩く。
「いや違うか…」
更に5分後ーー
「どこやここ……」
来た目的も忘れかけとりあえず車を探しウロウロする。
辺りが薄暗くなってきたせいもあり
景色が変わって余計迷うーー
「え?」
焦りながらもやっと車を見つける!
「おったー!」
車に戻る。
エンジンはずっと……かかったまま。
「ガソリンもったいな」
今更だった。
翌日ーー昼休み。
「昨日の夕方、綺麗な女尾行してさぁ」
普通の顔で言う。
「……は?」
そこだけ空気が止まる。
「女の家、特定したんよ」
ちょっと誇らしげ。
「でも団地で迷ってさ、出れんくなったわ」
ニヤニヤしている。
ーー誰も笑わない。
「田舎あるあるやろ?」
「……いや、ないですね100%」
ヒロシが即答する。
ユージは一瞬だけ止まる。
「マジ?あるやろ普通」
ないーー
誰もが思っている。
田舎は全く関係ないし、田舎の人に失礼だとその場にいた全員が思った……
「まーでも俺、【エリ】一筋やけ」
その一言で全部が終わる。
何が一筋なのか、誰ももう考えなかった………。
次回 第6話 「バイトを探す男」 (5/13 水)
今回も最後まで読んでいただき感謝いたします。




