表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第4話 「加藤ヒロシという男」


 

昼下がりーー



現場の隅。



 

「はぁ……」



加藤ヒロシ(36)【既婚】は、小さくタメ息を吐いた。


 

誰にも聞こえないくらいの声。



 

だが…


その視線の先には――いる!!



 

ユージ。

 

 


「カトゥ~♪」


呼ばれた。

 

やっぱり来たか、とヒロシは思う。

 


 

「ちょっと聞いてーや?」


 

もう断れない流れだった。

 



ヒロシは軽く(うなず)いた。

 



「まぁ…少しならいいですよ」


 

それが、いつもの返事だった。

 

 

 

ユージにとって、ヒロシは“特別”だった。

 


話を聞いてくれる。

 

否定しない。

 

流さない。

 

 


――いや、

   正確には、

      流しているのだが。

 

 



「昨日も女と『平野行動』やったんよ」

 


「寝かせてくれんけ参るわぁ」






(始まった…)

 

 


“女”

 


神奈川の【エリ】のことだ。

 

 


ヒロシは何も言わない。

 

ただ、相槌(あいづち)の準備だけをする。

 


 

「マジで俺に惚れとるけアイツ」



「もう完全に俺の女やろ」

 

 




(旦那さんいるんだよな…)

 

 


ヒロシは心の中で(つぶや)く。



 

だが口には出さない。

 

出せば面倒なことになるのが分かっているからだ… 




「そうなんですね…」



 

これでいい。

 


今まで幾度となく本気で心配はしてきたが……


耳を貸すことはない。




逆に自分の価値観、倫理観をキレ気味で押しつけられて終わる。




そして、周囲には自分の方がおかしい風に流言される…たまったものではない。





彼は“(あきら)め”を選択した。




それが正解だと、

     彼はもう“分かっている”。

 

 




ここで話は少し()れるが…




ユージはエリとは一度も会ったことはない。



ただの一度もだ。




あるのは、エリから送られてきて待ち受けにしている一枚の画像と、

ボイスチャット越しの彼女の声のみである。





「まぁ俺いつも遠距離恋愛やけ、遠距離の方が向いとんのかもな」





そう言いながら…いつものように相手から画面が見える位置にスマホを置く。




もちろん待ち受けは…




        【エリ】




ユージの心が、反映されているかのようにキラキラ加工がされている。






(もう帰りたい…)




だがーー


ヒロシは勇気をふりしぼり口を開く。





「それ彼女さんですか?…」




待ってましたとばかりにユージが食いつく!




「なんやカトゥあさましいなオイ!」


(※あさましい…心根、言動が(いや)しい・下劣(げれつ)・品性がない)




「仕方ないの、そこまで言うなら教えてやるか…」






(あさましい?俺が?気を(つか)ってる俺が?…)




「そーよ、それがうちのエリちゃんよ!可愛いやろ!!」



「惚れんなよカトゥ」





(なにを言ってるんだこの男は…)




「あ、いや俺もう結婚してるんで」




ユージがニヤッと笑う。



「本気にすんなやカトゥ」



「相変わらず堅いヤツやな」



「まぁでもカトゥは信頼しとるヤツやけ、いつかうちのエリちゃんに会わせるけーな」





(会いたくない…)



(てゆーか自分こそ会ったことないのによく言えるな……)




ーーーーー



一時間後…


仕事中にも関わらず(しゃべ)くり倒す!




「まぁそんなわけや誰にも言うなよ!」





(どーせ自分でベラベラ喋るくせに…)




気がつくと太陽が少し西に傾きかけていた。




仕事以上の疲れを感じながら、


意味のない時間に深いタメ息を吐くヒロシであった……。




次回  第5話 「追跡する男」(5/11 月)


今回も最後まで読んでいただき感謝いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ