第4話 「加藤ヒロシという男」
昼下がりーー
現場の隅。
「はぁ……」
加藤ヒロシ(36)【既婚】は、小さくタメ息を吐いた。
誰にも聞こえないくらいの声。
だが…
その視線の先には――いる!!
ユージ。
「カトゥ~♪」
呼ばれた。
やっぱり来たか、とヒロシは思う。
「ちょっと聞いてーや?」
もう断れない流れだった。
ヒロシは軽く頷いた。
「まぁ…少しならいいですよ」
それが、いつもの返事だった。
ユージにとって、ヒロシは“特別”だった。
話を聞いてくれる。
否定しない。
流さない。
――いや、
正確には、
流しているのだが。
「昨日も女と『平野行動』やったんよ」
「寝かせてくれんけ参るわぁ」
(始まった…)
“女”
神奈川の【エリ】のことだ。
ヒロシは何も言わない。
ただ、相槌の準備だけをする。
「マジで俺に惚れとるけアイツ」
「もう完全に俺の女やろ」
(旦那さんいるんだよな…)
ヒロシは心の中で呟く。
だが口には出さない。
出せば面倒なことになるのが分かっているからだ…
「そうなんですね…」
これでいい。
今まで幾度となく本気で心配はしてきたが……
耳を貸すことはない。
逆に自分の価値観、倫理観をキレ気味で押しつけられて終わる。
そして、周囲には自分の方がおかしい風に流言される…たまったものではない。
彼は“諦め”を選択した。
それが正解だと、
彼はもう“分かっている”。
ここで話は少し逸れるが…
ユージはエリとは一度も会ったことはない。
ただの一度もだ。
あるのは、エリから送られてきて待ち受けにしている一枚の画像と、
ボイスチャット越しの彼女の声のみである。
「まぁ俺いつも遠距離恋愛やけ、遠距離の方が向いとんのかもな」
そう言いながら…いつものように相手から画面が見える位置にスマホを置く。
もちろん待ち受けは…
【エリ】
ユージの心が、反映されているかのようにキラキラ加工がされている。
(もう帰りたい…)
だがーー
ヒロシは勇気をふりしぼり口を開く。
「それ彼女さんですか?…」
待ってましたとばかりにユージが食いつく!
「なんやカトゥあさましいなオイ!」
(※あさましい…心根、言動が卑しい・下劣・品性がない)
「仕方ないの、そこまで言うなら教えてやるか…」
(あさましい?俺が?気を遣ってる俺が?…)
「そーよ、それがうちのエリちゃんよ!可愛いやろ!!」
「惚れんなよカトゥ」
(なにを言ってるんだこの男は…)
「あ、いや俺もう結婚してるんで」
ユージがニヤッと笑う。
「本気にすんなやカトゥ」
「相変わらず堅いヤツやな」
「まぁでもカトゥは信頼しとるヤツやけ、いつかうちのエリちゃんに会わせるけーな」
(会いたくない…)
(てゆーか自分こそ会ったことないのによく言えるな……)
ーーーーー
一時間後…
仕事中にも関わらず喋くり倒す!
「まぁそんなわけや誰にも言うなよ!」
(どーせ自分でベラベラ喋るくせに…)
気がつくと太陽が少し西に傾きかけていた。
仕事以上の疲れを感じながら、
意味のない時間に深いタメ息を吐くヒロシであった……。
次回 第5話 「追跡する男」(5/11 月)
今回も最後まで読んでいただき感謝いたします。




