第12話 「毛をたしなむ男」
昼休み。
ヒロシは食堂でまったりとした時間を過ごしていたーー
ふいに視線を感じ、ゆっくりと振り返る!!
一瞬、視界の隅に何かが映った。
手招きしている...
ユージである。
「カトゥ~♪」
「ちょっとええか」
(でたよ…)
ヒロシは渋々立ち上がりユージの方へ向かう。
「なんですか?」
上目遣いでニヤニヤしながらヒロシを見ている。
「まぁ座れやカトゥ」
待ってましたとばかりに机をバンバン叩く。
「でさ――」
ユージは、少し声を潜めた。
「お前、嫁のアレ食ったことある?」
ヒロシの眉がわずかに動く。
「アレ?……何ですか急に?」
ユージは、ニヤッと笑った。
ポケットに手を入れるーー
唐突に財布の中から取り出したのは…
小銭入れサイズの小さなジップロック。
可愛いキャラクターの柄。
「これ」
ヒロシは一瞬だけ固まった!
何となくだが中身が、透けて見えてしまったからだ。
黒いーー毛の塊。
まさかーー
「そ…それ、何です?」
分かっている。
だが、聞かずにはいられなかった。
「分からんの?」
ユージは、楽しそうに笑う。
「マ○毛」
!?!?!?……
思考が追いつかない…
ヒロシの時間が止まる……
「……汚なっ!!」
思わず出た…
ヒロシにしては珍しい、
素の反応だった。
だが――
ユージは怒らなかった。
むしろ、
満面の笑みを浮かべる。
「カトゥ、嫁さんの食べんの?」
意味が分からなかった…
一瞬、本気で理解できなかった。
「……食べるわけないでしょ」
当然の返答。
だが、次の言葉で――
空気が変わる。
「愛してないんじゃね?」
(はぁ?)
ヒロシは、何も言えなかった。
冗談ではない。
目が笑っていなかったからだ。
「俺はさーー」
「この前ご褒美貰った時に、いつでも思い出せるように…」
「 “ コレ ” も貰ってきたわけよ」
ユージは続ける。
袋を指でつまみながら、愛しそうに振るーー
「そんで…女を想いながら、たまに食うんよ」
中の毛が揺れるーー
(おい…何を言ってんだアンタ……)
「愛しとる証拠やろ?」
ヒロシは言葉を失った。
頭の中でーー
何かがゆっくりと崩れていく。
(こいつは、ダメだ…)
初めてハッキリと思った。
だが――
気づけば、
いつもの言葉が口から出ていた。
「す…すごいですね」
ユージは満足そうに満面の笑み。
「そうやろ!」
その顔を見て……ヒロシは思う。
(俺は今、何か取り返しのつかない事を…)
遠くで、
誰かが笑っている。
いつもと変わらない、
職場の音。
だが、
ヒロシの中では――
何かが…
決定的に……
そして、圧倒的に変わってしまっていた。
そしてその後、しばらくの間社内でユージはこう呼ばれることとなる……
“ マ○毛 喰種 ”
(※『東京喰種』参照)
今回も最後まで読んでいただき感謝いたします。




