第9話 「栗園シュウヘイという男」
ある日の朝礼後…
栗園シュウヘイ(32)【既婚】は憂鬱だった。
「ハァ…」
「ヤシーと一緒かぁ……」
「嫌だなぁ……」
理由は簡単だったーー
ヒロシがいない。
子供が熱を出して本日お休み。
その結果――
今日のペアは、ユージ。
(終わったな…)
シュウヘイは思う。
口笛を吹きながらユージが歩いてくる。
「ゾノ~♪今日はよろしくの」
「えっ…あ…ハイ」
作業開始ーー
鉄骨の研磨。
単純な作業だ。
誰でも分かる。
だが――
「あー違う違う!」
「これな?」
ユージが張り付く。
「こうやってやるんよ貸してみ」
簡単な作業を余計難しく説明しつつ、道具を取り上げ自慢気にやってみせる。
「ほら、やってみ」
「力入れすぎたらダメやけーな」
「優しくやれよ」
(知ってるってば…)
「こういうのコツあるけーな」
(ねーよ!)
「ゾノみたいな不器用な奴でも俺に習えば一発よ!」
(コイツ…)
「俺でも最初は苦労したんやぞ」
(…嘘だろ!?)
ユージはそう言いながら…
自分の手は完全に止まっている。
(仕事しろよオイ…)
「分からんかったら遠慮せんと聞いてええけ」
(マジで聞くことがない)
2時間後ーー
研磨の音だけが響く。
「ふぅーゾノが遅い分いつもより疲れるわ」
(遅いのはお前が手を止めてるからだろ…)
「そろそろ休憩にするか!」
二人は作業場の椅子に座る。
座るや否やユージが口を開く。
「そういや…」
「ゾノ、俺が今付き合っとる女知っとるよな」
「エリって女なんやけど」
誇らしげに覗き込んでくる。
(近けーよ…)
「もう3年くらいになるな付き合って…」
「この前言われたんよ」
「“これが最後の恋”っての!」
シュウヘイの空気が凍るーー
(さむっ!誰にでも言ってそう…)
「ラストLOVEや!!」
自分で言って自慢気に笑う。
(クサっ!)
シュウヘイは黙って流そうとする。
が!ユージは止まらない。
「やっぱ運命ってあるよなーー」
「こういうの分かる?」
シュウヘイは一応返す。
「……どうすかね」
「まぁゾノにはまだ早いか…モテそうにないもんな」
(お前にだけは絶対言われたくない)
「俺らもう、そういう感じやけ」
(“俺ら”!?)
ーー違和感が残る。
「やっぱ本気の恋って違うのよ」
「遊びとはな!」
(もう聞きたくない…)
「相手もちゃんと俺選んどるし」
「覚悟決めとるけ」
(何の覚悟!?)
「俺もちゃんとせんといけんの」
その言葉にも違和感が混じる…
(ちゃんと???)
シュウヘイは何も言わない。
「ゾノはどうなん?」
「結婚しとるんやろ?」
急に振られる。
「まぁ…一応」
「ええよな結婚」
「でもやっぱ恋愛とは違うやろ?」
(何を言ってるんだコイツは?)
「恋愛はな…勢いと覚悟やぞ」
(全部浅いんだって…)
「結婚は現実やろ?でも俺は今…」
「恋愛が全てや!」
(お前のは不倫だろ!!)
だが言わないーー
この男には何を言っても無駄だからだ。
さらにユージは続ける。
「この愛はな…運命やけ!」
(まず旦那と子供に謝れ!)
「絶対いつか結婚する!」
(もうしてるだろ…他の人と…)
シュウヘイは思った…
(加藤さんよくコイツに合わせられるな…)
少しして――ユージが言う。
「まぁ見とけってゾノ」
「俺、絶対幸せになるけ!!」
その言葉にシュウヘイは何も返さない。
黙ったまま……
ただ――
シュウヘイはこう思った。
(コイツはダメだ)
次回 第10話 「保険を勧誘する男」 (5/22 金)
今回も最後まで読んでいただき感謝いたします。




