第5話アイリシア王国と転移者①
今日は短めです
「俊介くん、いま何してるんだろ……」
思わず、空を見上げていた。
ここはアイリシア王国の訓練所。
石造りの広場に、魔法の炸裂音と剣のぶつかる音が響いている。
この世界に来て、もう三ヶ月。
非日常は、いつの間にか“日常”に変わっていた。
でも――
(俊介くんだけが、いない)
胸の奥が、少しだけ締め付けられる。
「……大丈夫、だよね」
王――カイム・アイリシアは言っていた。
“彼には特別な任務を与えた”と。
“強すぎる力を持っているから”と。
(俊介くんが……強い?)
正直、少しだけ違和感があった。
でも同時に、納得してしまう自分もいる。
あの人は、昔から――
誰よりも“諦めなかった人”だから。
「彩加、ぼーっとしてるけど大丈夫?」
後ろから声をかけられ、振り返る。
そこには親友の七瀬冬華がいた。
「ごめん、ちょっと考え事」
「また俊介くんのこと?」
図星だった。
思わず苦笑いする。
「うん……まぁね」
冬華は小さくため息をつく。
「ほんと好きよね」
「ち、違うってば!」
少しだけ慌てて否定する。
でも――否定しきれない。
「で、話変えるけどさ。今のステータスどうなってるの?」
「あ、うん」
気持ちを切り替えるように、私は前を向く。
「ステータスオープン」
空中に、淡い青色の画面が浮かび上がる。
『万屋彩加 LV4
HP:900/900
MP:1250/1250
SP:715/715
平均攻撃力:820
【スキル】聖火術(A)
【サブスキル】学習/超魔力/鑑定/弱点解析
【魔法】火LV7 風LV4 水LV3 雷LV2 土LV2 強化LV2
【技】炎石弾/炎の渦/炎砲/炎の癒し』
「……相変わらずおかしい数値ね」
冬華が呆れたように言う。
「やめてよ」
私は苦笑する。
「数字だけだから」
「それ、嫌味?」
「違うってば!」
思わず声が大きくなる。
でも、すぐに俯いた。
「……本当に、数字だけなの」
魔力はある。
スキルも強い。
でも――
(戦えない)
実戦になると、体がついてこない。
判断が遅れる。
怖くなる。
だから――
「私、まだ一度もちゃんと勝ててないんだ」
ぽつりと漏らす。
冬華は一瞬だけ黙った後、
「……じゃあ私のも見る?」
と、わざと軽い口調で言った。
「え?」
「ほら、鑑定あるんでしょ」
「いいの?」
「別に減るもんじゃないし」
「じゃあ遠慮なく」
私は小さく息を吸い、
(鑑定)
と、意識を向けた。
『七瀬冬華 LV6
HP:410/410
MP:210/210
SP:305/305
平均攻撃力:280
【スキル】空間認識(C)
【サブスキル】戦闘強化/集中
【魔法】氷LV3
【技】氷刃/氷槍/氷弓生成/氷九矢』
(やっぱり……)
強い。
数値じゃない。
“動き”が違う。
戦うためのステータスだ。
「見た?」
「うん」
「どう?」
「……強いね」
正直にそう言う。
冬華は少しだけ笑った。
「でしょ?」
でもその笑顔は、どこか寂しそうだった。
「でもさ、彩加」
「?」
「本当に怖いのは――あんたの方よ」
「え?」
「その魔力量、普通じゃないから」
そう言って、肩をすくめる。
「ま、暴発しないように気をつけなさいよ?」
「しないよそんなの!」
思わず笑ってしまう。
その瞬間――
少しだけ、心が軽くなった。
「……ありがとう、冬華ちゃん」
「なにが?」
「なんでもない」
私は小さく笑った。
(もう少し、頑張ってみよう)
そう思えた。
俊介くんに、胸を張れるように。
その時――
木陰の奥。
誰にも気づかれない位置で。
一人の男が、静かに立っていた。
「……彩加」
低く、呟く。
神宮寺連。
その目は、まっすぐ彩加を見ていた。
だがそこにあるのは、優しさではない。
「やっぱり、お前は特別だ」
わずかに歪んだ笑み。
「だからこそ――」
その先の言葉は、誰にも聞こえなかった。
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