第3話旅人と赤鬼の悪魔
今回の話は赤鬼の悪魔と謎の少女が現れ物語進みます。あと俊介改めアナシュ・クラインの実力と魔法が分かる話です。まだ魔法の設定はこれからの話で説明していきます。
また――夢を見た。
あの日の夢だ。
すべてを失った、あの日の。
「……もう朝か」
目を開ける。
薄暗い天井。
見慣れた、安い宿の一室。
胸の奥に、まだ残る感覚。
仲間の叫び声。
血の匂い。
ゴルドの最期の言葉。
「……っ」
息が詰まる。
――逃げた。
俺だけが、生き残った。
ゴルドが死んだあの日、俺はアイリシア王国から逃げ出した。
だが、それは簡単なことじゃなかった。
王国直属の騎士が、すぐに追ってきた。
「行けぇ!!」
「振り返るな!!」
背後から聞こえる仲間の声。
振り返った。
そこには――
剣を構え、騎士たちに突っ込んでいく仲間の背中があった。
「お前は生きろ!!」
「ゴルドの夢、叶えろ!!」
叫びながら、笑っていた。
――あいつらは分かってたんだ。
自分たちが、ここで死ぬってことを。
「……っ!!」
足が止まりそうになる。
でも――
俺は、逃げた。
逃げることしかできなかった。
(俺が……もっと強ければ……)
何度も、何度も思う。
その光景は、今でも夢に出てくる。
それから一ヶ月。
俺は辺境の町――シリスに身を潜めている。
寂れた町だ。
交易路からも外れ、目立った産業もない。
あるのは、広がる森と荒野だけ。
――逃亡者には、都合がいい場所だった。
「……」
朝日が差し込む部屋で、俺は新聞を握りしめていた。
紙が、震える。
手が震えているからだ。
そこに書かれているのは――
『赤鬼の悪魔、再び出現』
最初は一つの村だけだった。
だが今は違う。
複数の村が、同じように壊滅している。
「店主さん、またその話ですか?」
女将が朝食を運びながら言う。
「ああ……」
目を離せない。
「怖いですねぇ……この町にも来たら……」
「来ないさ」
即答した。
自分でも驚くほど、冷たい声だった。
「……そう、ですよね」
女将は少し安心したように笑う。
だが――
(来ないわけがない)
なぜか、そう確信していた。
食事を終え、俺は外へ出る。
向かうのは、町外れの廃墟。
かつての練兵場だ。
誰もいない。
だから――
ちょうどいい。
「……っ!」
拳を振るう。
風を切る音。
もう何千回も繰り返した動き。
「……まだだ」
止まらない。
止められない。
(強くならなきゃいけない)
ゴルドの夢を――
俺が継ぐんだから。
「俺たちみたいな弱い奴でも、心さえ強ければ――」
「負けねぇんだ」
ゴルドの言葉が、頭の中で響く。
――その時だった。
「助けてくれぇぇ!!」
悲鳴。
町の方からだ。
「化け物だぁ!!」
嫌な予感が、確信に変わる。
俺は走り出していた。
逃げてくる人々。
その後ろに――
“それ”はいた。
紅い鎧。
巨大な戦斧。
だが――小さい。
人間の子供ほどの体格。
なのに。
(なんだ……あれ……)
空気が、歪む。
圧が、違う。
見ただけで分かる。
――あれが「赤鬼の悪魔」
理屈じゃない。
本能が叫んでいる。
“逃げろ”と。
だが――
俺は、逆に走った。
「待て!!」
背後から声。
振り返ると、青髪の少女が立っていた。
剣を携え、真っ直ぐこちらを見ている。
「私はエリナ・ブルーム!」
強い目だ。
「7剣星を目指す者よ!」
――その姿が、重なる。
ゴルドと。
「……そうか」
俺は笑う。
「じゃあ俺は――」
拳を握る。
「最強を目指す男、アナシュ・クラインだ」
次の瞬間。
赤い影が動いた。
戦斧が振り下ろされる。
「危ねぇ!!」
反射でエリナを抱え、跳ぶ。
『風魔法・飛躍!!』
地面が砕ける。
直撃していたら、即死だった。
「……っ」
心臓が跳ねる。
(強いなんてもんじゃねぇ)
次元が違う。
「行くぞ……!!」
俺は踏み込む。
逃げない。
逃げたくない。
「『風魔二連撃』!!」
拳を叩き込む。
衝撃が二重に走る。
「グハァ!!」
確かに、効いた。
だが――
「……ハハ」
笑っている。
「ギャハハハ!!」
楽しそうに。
「いいなぁ!!お前!!」
次の瞬間。
見えなかった。
「――ッ!?」
気づいた時には、壁に叩きつけられていた。
「ゴハァッ!!」
呼吸ができない。
痛みを感じる前に――
また、来る。
速い。
重い。
強い。
何もできない。
ただ、殴られる。
(……勝てない)
分かってしまった。
どれだけ努力しても。
どれだけ鍛えても。
俺には――
才能がない。
「悔しいか?」
赤鬼が言う。
「女の前でボロボロにされてよぉ」
心が、折れる音がした。
「今回は生かしてやる」
意外な言葉。
「俺はな、好きで殺してるわけじゃねぇ」
「……?」
理解できない。
その時――
エリナが立ち上がる。
「まだ……!」
剣を構える。
だが――
「やめろ!!」
遅かった。
剣は、一瞬で砕かれる。
そのまま蹴り飛ばされる。
「……っ!」
地面に叩きつけられ、動かない。
「エリナ……」
動けない。
助けられない。
何もできない。
赤鬼は、俺を見る。
その目は――
どこか、悲しそうだった。
「……また会おう」
その言葉を最後に。
意識が、途切れた。
最後に見えたのは――
降り始めた雨だった。
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