第25話救済の拳
「……コロ……シテ……」
掠れた声が、遺跡に響く。
アナシュは、まっすぐに赤鬼の悪魔を見据えた。
「……ああ」
拳を握る。
「そのつもりだ」
その言葉に――
ガルドが目を見開く。
「お前……本気で言ってんのか」
「殺すって意味じゃねぇよ」
アナシュは一歩、踏み出す。
「終わらせるって意味だ」
空気が張り詰める。
レインが静かに呟く。
「……救済か」
エリナは歯を食いしばる。
「……あんた、本当に無茶するわね」
次の瞬間。
赤鬼が、消えた。
「来るぞ!!」
ガルドの叫び。
――ドンッッッ!!
衝撃。
地面が砕ける。
「チッ!!」
アナシュは跳ぶ。
紙一重で回避。
(速ぇ……!!)
視界が追いつかない。
だが――
『見るな。“感じろ”』
リードの声。
(……ああ!!)
空気。
圧。
殺気。
それを“読む”。
「そこだァ!!」
拳を振るう。
だが――
スカる。
「……ッ!」
背後。
「グルァァァァ!!」
衝撃。
体が吹き飛ぶ。
「がはっ……!!」
壁に叩きつけられる。
(やっぱり……レベルが違う……!)
「クライン!!」
エリナが飛び込む。
「剣の舞い!!」
連撃。
高速の斬撃が叩き込まれる。
だが――
「……浅い!!」
再生。
一瞬で肉が戻る。
「なっ……!?」
「効いてねぇ……!」
レインが前に出る。
「下がれ」
杖を構える。
魔力が膨れ上がる。
「水雷」
――轟音。
水と雷が融合した一撃。
直撃。
爆発。
だが――
煙の中から、赤い影が現れる。
「……効いている。だが、足りない」
レインが冷静に分析する。
「再生が速すぎる」
「……つまり」
アナシュが立ち上がる。
血を吐きながら。
「一撃で全部ぶっ壊すしかねぇってことか」
『その通りだ』
リードの声が響く。
『条件は満たせるか?』
(……瀕死、だろ)
今の体。
もうボロボロだ。
HPも限界。
「……いけるな」
口元が歪む。
赤鬼が、再び動く。
「グルァァァ!!」
突進。
拳。
殺意。
「来いよ……!!」
構える。
逃げない。
――ドクン。
心臓が鳴る。
体が軋む。
限界。
その先。
『条件達成』
『スキル【勇者】発動』
『――〔英雄の一撃〕』
世界が、止まる。
いや――
遅くなる。
見える。
全てが。
「……終わらせる」
一歩。
踏み込む。
消える。
「なっ……!?」
ガルドですら、見失う速度。
赤鬼の懐へ。
至近距離。
目が合う。
「……頼む」
アナシュが呟く。
「楽になれ」
拳を引く。
全てを込める。
魂ごと。
「――英雄の一撃」
叩き込む。
心臓へ。
――ドォンッッッ!!!
衝撃が、内部を破壊する。
再生を、上回る。
魂を、砕く。
赤鬼の動きが止まる。
「……あ……」
目が、揺れる。
赤ではない。
一瞬だけ。
人間の目に戻る。
「……ありが……とう……」
その言葉と同時に。
体が、崩れていく。
赤い粒子となって。
消えていく。
静寂。
「……終わった……のか……?」
誰かが呟く。
アナシュは、その場に立ったまま。
拳を下ろす。
「……ああ」
小さく言う。
「終わった」
その瞬間――
空間が、歪んだ。
「……ッ!?」
レインが顔を上げる。
「これは……」
黒い“裂け目”。
空間が割れる。
『……介入か』
リードの声。
低く、重い。
「観測者……!!」
次の瞬間。
光。
衝撃。
「なっ――!?」
体が、引き裂かれる感覚。
「クライン!!」
エリナの叫び。
手を伸ばす。
届かない。
「――ッ!!」
世界が、バラバラになる。
視界が白に塗り潰される。
そして――
静寂。
――分断
アナシュは、一人。
見知らぬ場所に立っていた。
「……ここ……どこだよ……」
一方。
エリナとレイン。
二人は同じ場所に落ちていた。
「……クラインは……?」
エリナの声が震える。
レインは静かに空を見上げる。
「……分断されたな」
遠く。
どこかで。
“観測者”が、静かに見ていた。
『……やはり、興味深い』
物語は――
新たな局面へ。




