第24話赤鬼の悪魔過去編(後編)
赤鬼の悪魔 過去編(後編)
――守護者 No.5 の記録
それから――
どれだけの時間が流れたのか。
誰にも分からない。
本人ですら、数えるのをやめていた。
赤い影が、遺跡の奥に立っている。
静かに。
ただ、そこに存在している。
「……」
呼吸はある。
だが、生きているとは言えない。
心が、ない。
感情も、ほとんど残っていない。
ただ一つ。
残っているものがある。
「……コロ……シテ……」
掠れた声。
それだけ。
それだけが、彼を“彼”として繋ぎ止めていた。
守護者 No.5。
それが、今の“名前”。
誰かに呼ばれることもない番号。
存在の証明。
彼は、遺跡にいた。
理由はない。
いや――
「……ここ……」
ぼんやりと、壁に触れる。
崩れた石。
古い刻印。
かすかな記憶。
「……どこか……」
引っかかる。
だが、思い出せない。
本当は。
ここは――
かつて“人が生きていた場所”。
彼のような存在を封じるための、古い遺跡。
だが。
そんなことを理解する思考は、もう残っていない。
侵入者が来る。
冒険者。
兵士。
好奇心で来た者。
力を求めて来た者。
理由は様々。
だが――結果は同じ。
「……来た……」
ゆっくりと顔を上げる。
気配を感じる。
「……人間……」
その瞬間。
体が、勝手に動く。
止められない。
――殺す。
――吸う。
ドクン。
魂が流れ込む。
「……うるさい……」
頭を押さえる。
声が増える。
記憶が増える。
人格が混ざる。
「……俺は……」
言葉が出ない。
分からない。
誰なのか。
何なのか。
だが。
戦いは、終わらない。
ある時。
数十人規模の討伐隊が来た。
強者もいた。
連携も取れていた。
「……」
だが――
関係ない。
一瞬。
本当に、一瞬で終わる。
血。
肉片。
静寂。
「……つまらない」
ぽつりと呟く。
感情はない。
だが、“何か”が足りない。
ずっと。
ずっと。
待っている。
「……コロ……シテ……」
その願いだけを抱えて。
そして――
100年。
変わらない。
何も変わらない。
終わらない。
終われない。
だが。
その日。
「……来たか」
いつもと同じはずだった。
侵入者の気配。
だが――
違う。
「……なんだ……?」
初めて。
違和感。
三つの気配。
その中の一つ。
「……こいつ……」
足が、止まる。
見た瞬間。
分かった。
「……同じ……」
“自分と似た何か”。
魂が、ざわつく。
体が、拒絶する。
だが――
同時に。
「……こいつ……なら……」
かすかな期待。
忘れていた感情が、揺れる。
そして。
目が合う。
アナシュ・クライン。
「……あ……」
口が動く。
自分の意思で。
100年ぶりに。
「……コロ……シテ……」
その一言に。
すべてが詰まっていた。
助けてほしい。
終わりたい。
壊してほしい。
だが同時に。
「……来る……」
体が動く。
止まらない。
守護者としての本能。
魂吸収の衝動。
「……ああああああああああああああ!!」
叫ぶ。
拒絶する。
だが止まらない。
「……なんでだよ……!!」
100年前と同じ言葉。
涙が、流れる。
赤い顔のまま。
「……やめろ……」
「……止まれ……」
「……俺は……」
その瞬間。
アナシュの声が、届く。
「……助けてやるよ」
止まる。
一瞬だけ。
「……え……?」
理解できない。
そんな言葉。
今まで、一度もなかった。
「……たす……ける……?」
言葉が、崩れる。
「……なんで……」
理解できない。
「……俺は……」
化け物だ。
人を殺す存在だ。
終わってる。
それなのに。
「……なんで……」
涙が、止まらない。
その瞬間。
守護者 No.5ではなく。
“人間だった何か”が、
確かにそこにいた。
そして物語は――
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