↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニッポン駐在記~元日本人航宙軍士官日本駐在員になる~  作者: 鷹羽 樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/21

第19話 姫殿下御転居 1

 東京西新橋にある、星間王国航宙軍東京駐在所の入っている、瑠沙第一ビルディング七階の所長室に瑛美は入ると、執務机上にあるノートPCを開いた。

 現在時刻は午前八時三十分。

 瑛美は執務椅子に座ると、内臓端末(インプラント)内にPC接続用アプリを意識操作(COP)で立ち上げ、ノートPCへと接続した。

 目の前のPC画面に『外部機器EIMI01に接続されました』と表示されたのを確認すると、報告書テンプレートを表示させ、そこに内臓端末(インプラント)内にテキスト文章として昨日までに作成していた日報などの報告書類を落とし込んでいった。

 用紙にして七枚分ほどの報告書を作成し終わると、再度読み込みチェックをして問題が無いことを確認し、最後の署名を確認する。そこには、瑠沙綜合警備株式会社調査部東京支所長 栗栖瑛美とある。

 瑛美はその書類をメールに添付して秋田の駐在事務所へと送付した。


 時間にすれば三十分弱程だろうか、瑛美は椅子をずらして背後の一メートル程離れた壁沿いに置いてある、小型冷蔵庫を椅子に座ったまま開けた。きれいに空になった庫内を見てため息を吐く。


「日本産の飲料や食べ物を買うにも、店や商品に慣れて覚えるまで、誰かに教えて貰わなければならないか」


 瑛美は椅子から立ち上がり、机横の壁に置かれた棚を見た。そこにコーヒーメーカーが置かれているのを見つけると、その作りをじっくりと見る。


「横のメモリが付いてるとこが給水タンクかな? 蓋がこれでここから水を入れるんだな。固定されてるってことは加温給湯式で間違いないな。スイッチは……これだな。サーバーとドリッパーはくっ付いて外れると…………あー、フィルターは自動じゃなくて手で交換か…………フィルターは? 豆はあるかな?」


 瑛美は棚の引き出しを次々と開けて、フィルターを探すが引き出しの中にはなかった。

 棚上部の両開きの扉を開けると、数脚のカップとソーサーの横にコーヒー豆と思しき袋と、コーヒーフィルターと書かれた箱が置かれていた。

 棚へと手を伸ばし、中身が三分の一ほど残った袋を手に取ると、端を丸めてテープで閉じられた袋を開け中身を確認する。中細挽きに挽かれた豆は、香りはやや飛んでいるようだったが湿度にやられている様ではなかった。


「中佐はあまり珈琲にこだわりは無い人だったみたいだな。この辺も後で買いそろえておくか。戦場のクソまずい配給品のコーヒーもどきよりは、はるかにましだろう。今日のところはこれで良しとしよう…………」


 瑛美はフィルターの箱を手に取り、中から一枚取り出すと、ドリッパーにセットする。コーヒー豆の袋を手に取り、袋の中に入れっぱなしにされた計量スプーンを取り、二杯分をドリッパーへと入れた。

 ドリッパーとサーバーをコーヒーメーカーにセットすると、瑛美の動きは止まった。


「さて、水はどうするか…………。日本の水道水は、安全で美味いとは聞いたが…………」


 ODC(空間収納)の中には非常用の水は入れてある。しかし、いくらODC内が時間経過が無く、水が痛んでいないとは言っても日本の容量単位にして、十リットル余りの樹脂タンクをここに取り出すのも面倒だ。それに、同じH₂Oである水とは言っても外惑星から持ち込んだものである。

 航宙軍では他惑星の戦場への水や食料品の持ち込みは、当たり前のように行われているが、何も配慮されていないわけでは無い。その惑星環境への影響も考慮され、食料品は加工食品以外は持ち込みも持ち出しも許可されないし、水などの飲料も加熱処理される。

 ODCの収蔵品のリストを確認している、秋田の駐在事務所が何も言わなかったのは、この辺の事情を鑑みて問題無しとしたのだろう。


 ではあるが、でかいタンクから小さな注ぎ口へ水を入れるのも面倒だ。

 瑛美はコーヒーサーバーを手に取ると、所長室を出て同階にある給湯室に向かった。



 芳醇なコーヒーの香りが所長室の中を満たしていく。

 瑛美はODCから、これまで自室で普段使いしていた愛用の大ぶりな赤い陶器のマグカップを取り出すと、サーバーからコーヒーを注ぎ入れた。そして、カップを口元へ持っていき、その香りを吟味すると口を付けた。


「うん、悪くない。保管はいい加減だが、豆は良いものみたいだな」


 椅子へと座り、手にしたマグカップを机に置くと、ノートPCに立ち上げたままにされたメールアプリを送信から受信状態にし、受信しているメールを確認していく。

 目を通したメールは必要なものは新たに作成した鍵付きのフォルダへと移し、不要なものは削除していく。全てのメールを処理すると、ごみ箱にカーソルをあて右クリック、完全削除にカーソルを合わせるとクリックする。そして、アプリを閉じた。


 マグカップを手に取り、口に運びながらPCのブラウザを立ち上げ、ネットニュースのサイトを検索した。一番上に書かれたサイトをクリックして、そのサイトを表示する。画面に表示された記事の表題を見て、気になった記事を時折クリックしながら画面をスクロールさせていく。


「惑星(ほし)や星系(くに)が変わっても、国家どうしのトラブルというのは変わらないんだなぁ」


 日本と近隣国とのトラブルの記事を見て、そう独りごちる。


 コン コン コン コン


 所長室のドアがノックされる。


「入れ」


 瑛美の声の後、ドアが開かれると瑠沙健人中尉が入ってきた。


「おはようございます、所長。ただいま戻りました」


「おはよう。ご苦労様、健人。てっきり、姫様と一緒にこちらに戻ってくるものとばかり思っていたよ」


 昨日行った、王家別邸のセキュリティーチェックによって回収された盗聴、盗撮機の類は、昨日のうちに瑠沙中尉によって里の方へと移送された。

 現在の東京駐在所の常時五名という勤務体制では、調査対応することは叶わない為、里の事務所での対応ということになったのである。


「はい、そのつもりだったんですが、早急に所長にご報告することがありまして早めに戻ってきた次第です」


 瑛美は椅子から立ち上がると、ODCからOD(オリーブドラブ)色に塗られた金属マグカップを取り出し、サーバーのコーヒーを注ぎ健人の前の机に置いた。

 そしてもう一つ、大きさにして厚めの文庫本サイズの黒い箱のようなものを取り出すと、健人を少し下がらせ、それを床の上に置いた。すると、その箱は急速に展開すると、そこには、金属とも樹脂ともつかぬ素材の、まるで折り紙で作られたような椅子となった。


「所長、これはちょっとまずいのでは……」


「展開、収納する所さえ見られなきゃ、ちょっと変わったデザインの椅子としか思われんよ。まあ、座ってコーヒーを飲んでくれ。心配なら、瑠沙警備《した》の総務から折り畳みの椅子でも一つ貰ってきておいてくれるかい?」


 瑛美は健人に椅子に座るように促すと、自らも椅子へと座り、マグカップを手に取る。


「それで? 里の方からは何と?」


「はい、昨日の内調からの情報ですが、里の方で調査を始めるとのことです。調査情報は逐次こちらに送るとのことですが、里からの指示があるまで東京(こちら)は動くことの無いようにとのことです」


「うむ、了解した。潜入や破壊工作なんて荒事にならなきゃいいんだがな」


瑛美はマグカップに口を付ける。


「恐らくは、そこまではならないのではないかと思います。里も日本政府側も相手側と何らかの政治的な交渉で解決に持っていくのではないかと。何せ現職の大臣二人が相手企業の創業者一族の身内に連なる訳ですから、醜聞(スキャンダル)に成ることを恐れて、表に出すこと無く事を収めるのではないでしょうか」


健人もゆっくりと、コーヒーを口に運んだ。


「そうだと良いんだがね。まあ、里からの情報と指示を待とうじゃないか」


「それと、もう一つ。東京駐在所の人員補充が決まりました。里からは二名。決定次第、詳細をこちらに送るとのことです。あと、王国本星の軍警本部あてに再度要請を出すとのことです。二日後に出航予定の定期航路便に乗せられるメール便以外に、現在施設がほぼ完了した、地球ー王国本星間の新設通信での試験運用に乗じて要請の通信も送るとのことです」


「これも、里からの指示、連絡待ちだな。今は里へ丸投げ状態だが、人員補充が完了すれば大部分の案件はこちらで動くことになるだろうな」


「そういうことになるでしょうね。まあ、最終的にどのくらいの人数が補充されるのかは、後で確認しておきます。さて、そろそろ姫殿下がいらっしゃる時間になります。ワープルームの方へお出迎えに向かいませんと」


「そうだな、じゃあ行こうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。