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ニッポン駐在記~元日本人航宙軍士官日本駐在員になる~  作者: 鷹羽 樹


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第15話 東京駐在所 2

 瑛美は目の前にそびえ立つ高層マンションを見上げた。

 王家別宅となる物件の入るこの高層マンションは、東京駐在所からは歩いて十分とかからない位置にあった。

 マンションの周囲には木々が植えられ、思っていた以上に緑が目に入る。

 瑛美が今立っている、北側の歩道から見えている入り口はエントランスホールがあり、入ってすぐ左に二階部分に上がる階段が見える。

 瑛美は入り口へは入らずに、建物の左へと歩いていく。頭上には二階部分から車道をまたいで、同系列ビルにつながる陸橋がある。建物に沿って右側に抜け、木々が生い茂る緑地部分へと入っていく。


「視界が遮られるな。人が隠れるスペースも多い」


 そのまま進むと、右手に二か所二階へと昇る階段がある。ここも階段は登らずに進むと、すぐに突き当たり、ビルの裏手へと右折した。そして、そのまま歩道を歩きビルを一周して、最初に立っていた入り口部分に来た。

 瑛美は立ち止まらず、入り口に入りすぐ左にある階段を上っていく。

 階段を登りきると左手にはエレベーターホールと右手に居住区画へのエントランス。その先には二階フロアへの入り口がある。正面から見える店舗は二件。コンビニエンスストアとカフェのようだ。階段横の外側通路を入っていくと『スパ』の入り口がある。

 瑛美はフロア入り口に入ると歩を進める。正面には『スパ』があるが、どうやら温泉施設だけではなく、二階三階部分を使ってトレーニングジムやプールもあるらしい。ここの入り口はフロア内ではなく外側からだけのようだ。駐在所も近いし、ここは私も利用させてもらおうかなどと考えながら周囲を確認する。左に折れると右手に企業のオフィス、左手にはコンビニの入り口、その隣にはカフェの入り口がある。その先の突き当り正面にあるのは私立の幼稚園のようだ。ネイティブの英語教育を主体としていることを売りにしているらしい。

 突き当りを左に折れると、正面にはフロア出口がある。出口手前の右にはトイレがある。瑛美はトイレのドアを開けて中をのぞくとフロア出口から出る。

 出口左手には一階部分から昇り降りする為だけのエレベーターとエスカレーターがあった。正面には先ほど通り過ぎた緑地部分からの階段がある。

 そして右手を見ると、赤い鳥居が目に入った。ここの敷地は愛宕神社のある愛宕山に隣接している。ビルの二階部分から愛宕神社裏手へと登る道路に陸橋をかけてつないでいるようだった。


 瑛美は、出入り口の通行に邪魔にならないように横に避けると、そのまま腕を組み考え込んだ。

 そのまま動かない瑛美を見かねて、それまで黙って瑛美の後ろをついて歩いていた瑠沙中尉が声をかけた。


「しょう……所長、どうされました?」


「ん? ああ、すまないすまない。そこのスパとジムなんだが。駐在所から近いんでどうかな? と思って調べていたんだが、さすがセレブのお住まいになる場所にあるだけあってね、入会金、預託金、年会費で二百万用意しなきゃいかんようだ。まあ、それ以前に私の免許証に記載されている年齢だと入会資格年齢に達してないみたいだがね。残念だよ。……ああ、それとちゅう……ケント、ここの監視カメラの数と位置は把握したか?」


「はい、確認しました」


「これだけ二人で周囲の様子を伺いながら建物周辺をうろうろしたんだ、警備の方が警戒しているだろうさ。ちょっと、ご挨拶していこうか」


 瑛美と健人は一階エントランスへと降りる階段へと向かった。

 二人はエントランスに降りると、中には入って行かずそのまま通り過ぎ避難通路ともいえる階段を上っていく。壁には矢印と共に防災センターと書いてある。その防災センターへの看板に従って四階まで登り、防火扉を開けて抜けると防災センター・警備室との看板が見えた。

 瑛美と健人はそちらに向かうと、受付の小窓の先に座る年配の警備員に話しかけた。

 受付に座る警備員は、おそらく監視カメラの様子などを聞いて警戒しているのだろう強張った顔をしてこちらに向いている。

 瑛美にふといたずら心が芽生えてしまう。声を低く落としやや威圧をかけた声で警備員に話しかけた。

 

「お早うございます……」


 そう言って瑛美が懐に手を入れると、警備員はビクッと体を強張らせた。


「ああー、しまった! 名刺を忘れてきた! すまない健人、君の名刺を代わりに渡してくれないか?」


 瑛美は健人に振り向きそう頼むと、健人は自身の内ポケットからカードケースを取り出すと名刺を一枚抜き出し窓口に差し出した。


「失礼しました。わたくし、瑠沙警備保障株式会社調査室東京支所所長の来栖瑛美と申します。彼は副所長の瑠沙健人です」


 その時、室内の奥のドアから出てきた人物が声をかけてきた。


「渡辺さん、その方たちを中にご案内ください」


「は、はいぃぃ、ど、どうぞそちらの入り口からお入りください」


 渡辺と呼ばれた年配警備員は、声を引きつらせながら椅子から腰を上げ、五メートルほど先の事務所入り口を指し示した。


 渡辺警備員に案内され、事務所内のパーテーションで仕切られた応接室へと招かれる。


「どうぞ、お掛けになってお待ちください。伊達部長はすぐにいらっしゃると思います」


 渡辺警備員はこわごわと頭を下げ、下がっていく。


「少佐、やりすぎです。威圧をかけながら胸元に手を入れるなんて、相手は撃ち殺されるんじゃないかと思ったに違いありませんよ。年配の方なんですからショックで心臓とまったりしたら洒落じゃ済まされませんよ。ここじゃ、軍人ジョークは通じませんからね」


「すまない、ちょっとやりすぎたか。うん、反省した」


 コンコンとノックの音がしてドアが開けられると、先ほど渡辺警備員が伊達部長と呼んでいた人物が入ってきた。

 瑛美と健人の対面の席前に立った伊達は、白髪の混じった短髪をオールバックにした五十歳台と思われる大柄な格闘技経験者然とした人物だった。

 瑛美と健人は立ち上がり伊達へ頭を下げた。


「初めまして。瑠沙警備保障調査部東京支所長の来栖瑛美と申します。海外から帰国したばかりで、まだ名刺の持ち合わせがありませんので本日はご勘弁ください。後日こちらに来た時にお渡しいたしますのでよろしくお願いいたします」


 伊達は、懐からカードケースを取り出し名刺を瑛美へと差し出した。


「MBセキュリティー警備部長の伊達範宗(だてのりむね)と申します。よろしくお願いします」


 健人も名刺を取り出すと、伊達へと差し出した。


「瑠沙警備保障調査部東京支所副所長の瑠沙健人と申します。どうぞよろしくお願いいたします」


「瑠沙健人さんというと瑠沙家の?」


 伊達は名刺を見ながら健人に聞いた。


「ああ、はい分家ではありますが」


 健人は口ごもりながらも答えた。


「私どもは、本日午後にこちらにご入居されるお方の警備担当者として現場の確認、そして建物の警備部門であるMBセキュリティー様にご挨拶に伺った次第です。本日より頻繁に我々瑠沙警備の人員が居住区画へ出入りすることになりますのでよろしくお願いします」


 瑛美の言葉を終えると二人で伊達へと頭を下げる。


「失礼ですが、ご入居される方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 伊達は瑛美に聞いた。

 瑛美は健人の顔を見ると、健人はうなずいた。


「ええ、かまいません、エレナ ルサ ロワール様です」


「栗栖さんは海外からお帰りとのことですが、この方とご一緒に?」


「いえ、私は少し遅れてこちらに来ましたので」


「栗栖さんは向こうのお国のかたなんですか? ……ああ、すいません個人的なことまで聞いてしまって。お顔立ちもおきれいですし、目の色もちょっと違うようですので」


「いえ、かまいませんよ。私は背もでかいですし、よく言われます。でも、私は日本人ですよ。新橋は私の地元でもありますから」


「すいません、余計なことまで聞いてしまって。まだ警察官気質が抜け無い様で、気を付けないといけないですな。お気に障りましたら謝ります。あー、うーん……」


 伊達は少し考える様子を見せた。


「栗栖さんにお詫びと言っては何ですが……。私の独り言として聞いてください。まあ、噂話ではありますが……、瑠沙警備保障さんには特殊な警備を担当する部署があるとか、ないとか? 星の王子様ならぬ星のお姫様がいらしているとか、いないとか? それと……、私は仙台の出身なんですが、瑠沙家の古い話を聞いてたり? まあ、そんなとこです。どちらにしても、このお方に何かあれば国の問題にもなりかねませんから、こちらでも常に気に掛けるようにはします」


「お気遣いありがとうございます。よろしくお願いします」


 瑛美と健人は再度伊達に頭を下げた。


「じゃあ、そろそろ私たちはお(いとま)しようか」


「はい、所長」


 瑛美と健人はソファーから立ち上がると三度みたび頭を下げる。


「失礼いたします」


「ああ、そうそう来栖さん。お姫様のことで何かありましたら遠慮なくこちらにいらしてください。ご相談に乗れることもあるでしょうから」


「はい、ありがとうございます。それでは」


 二人は応接ルームを出ていく。事務所を出るときには渡辺警備員にも挨拶をして出た。


 瑛美は廊下をエレベーターホールに向かいながら健人に言った。


「うちの情報駄々洩れじゃないか。どうなってるんだ」


「あー、おそらく警視庁からだと思います。警備会社と警察は、天下りの件などもろもろ利害関係が絡んできますから、情報などもそう言った所からかと。それに、仙台の伊達家と言ったら有名な古い家柄の家ですからね。古い文献で秋田藩の情報と共に瑠沙家の情報も残されているのかもしれません」


「伊達って、あの伊達政宗の伊達? ふーん、確かに見た感じ武士っぽいて言えば武士っぽいな」


「それと、あの人どう見ても少佐に惚れましたって感じじゃないですか。最後のあの言葉、あれナンパですよナンパ。乗っちゃダメですからね」


「ふふ……。悪い気はしないな。それと健人、ナンパってなに?」


この物語はフィクションです。

登場する人物、地名、建築物等、架空のものであり実在するものではありません。

すべて作者の創作であり妄想です。

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