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未来の速度で  作者: 未世遙輝
エピソード2
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30/31

◆ 第9章:青い光


——深海に向けて伸ばされた手


1 ◇ みさき

午前4時。

画面の「既読」がつかないまま、

みさきはずっとスマホを握りしめていた。


胸の奥がざわついて眠れない。

理由なんて考えるまでもなかった。


「遼くん、今日のままだと危ない」


直感と言えば軽い。

確信だった。


みさきは急いで

海斗へメッセージを送った。


《遼くんに何かあったかも。

 お願い、一緒に探して》


すぐに返事が返る。


《どこだ?行く》


小さな光が点った。


2 ◇ 海斗

海斗は駅前の交差点を駆けた。


(嫌な予感なんて信じたくない)


昨日見た遼の顔――

あれは“限界を突破した後”の顔だった。


交番にも立ち寄る。

警官が数名動き出す。


「まだ間に合う。間に合わせる」


海斗は自分に噛みしめるように言った。


震える手は、

恐怖じゃない。

友を失いたくない叫びだった。


3 ◇ 母

明け方近く。

母は違和感で目を覚ました。


(遼……?)


子どもが寝室にいないことなど、

今まで一度もなかった。


胸が掴まれる。

言いようのない警報。


「遼……!」


声が震える。

スマホへ連続発信。

留守電ばかり。


母は走り出した。

スリッパのまま。


4 ◇ 遼

夜明け前の空は、青黒い。


遼は海を見下ろせる場所にいた。

手首のリストバンドが

かすかに街灯を照り返す。


(僕は……どこに行けばいい?)


海面は滑らかで

静かな深海の入口のようだった。


呼ばれている気がした。


ほんの一歩。

それだけで、消えてしまう。


その時――

ポケットのスマホが震えた。


震えが止まらない。

何度も。


画面には

同じ名前が重なっていた。


《遼!返事しろ!》

《どこにいる!!》

《頼む、待っててくれ!!!》


海斗。


視界がにじむ。

胸の奥が、かすかに痛む。


(僕は……

 まだ誰かに必要なんだろうか)


答えは出ない。

でも、その問いがまだある。

それだけで十分だった。


5 ◇ 合流

みさきと海斗が息を切らしながら

夜の坂道を登ってくる。


「遼ーー!!!!」


遼の肩がびくりと震えた。


みさきが駆け寄る。

海斗はその腕を掴む。


「遼、帰ろう」


その言葉は、

泣き叫ぶ声よりも強かった。


遼は

震える唇で絞り出した。


「……ごめん」


「ごめんじゃねえよ!」


海斗の声が

夜空で割れた。


「お前がいなくなったらさ……

 誰が俺を叱るんだよ」


みさきも涙を滲ませた目で言う。


「遼くんのこと、

 ちゃんと見てるから」


青いリストバンドが

朝の気配を受けて

光を返した。


遼は、

その光を見つめた。


6 ◇ 帰路

母が遠くから走ってくる。


「遼っ……!遼っ……!」


遼の腕を抱きしめる。

強く、壊れそうなほど。


「よかった……!ほんとうに……!」


遼は力なく

その肩に額を預けた。


全部が苦しい。

でも、生きている。


その苦しさは

命がまだここにあるという形。


7 ◇ 夜明け


遼は

救急車の中で目を閉じた。


酸素マスク越しに吸い込む空気は

冷たいのに温度があった。


遠ざかるサイレンの音。

ゆっくりと

深海から浮かび上がるような感覚。


生きている。


その事実だけが

いま遼に残った。


夜明けが

世界を淡く青く塗り始める。


――遼の物語は、

まだ終わっていない。


第9章「青い光」完


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