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前世で処刑された公爵令嬢、社畜OLに転生したら、処刑した魔法使いが専業主夫としてキスをせがんできます  作者: カクナノゾム


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45 公安警察の来訪

 水曜日の午前十時。


 私は普段通り仕事をしていた。

 物流セクションの最新データを整理し、来週の国際会議に向けた資料を作成する。いつもの日常。いつもの業務。


 エレベーターの音が聞こえた。

 それ自体は珍しくない。合同庁舎のエレベーターは、開庁時間中はひっきりなしに動いている。


 だが、今回は違った。


 エレベーターのドアが開き、黒いスーツの男たちが降りてきた。四人。全員が同じ色のネクタイをしている。表情はない。


 廊下を歩く足音が、規則正しく響いた。

 その足音が、会議室の前を通過し――プロジェクトルームのドアの前で止まった。


 ドアが、ノックもなく開いた。


「失礼します。公安警察です」


 § § §


 プロジェクトルームが凍りついた。


 全員が手を止め、入ってきた四人の男を見つめた。先頭の男が、身分証を朝倉座長に提示した。


「内閣官房情報セキュリティセンターから連絡を受けました。本プロジェクトにおいて、重要機密データの不正な外部送信が検知されています」


 朝倉座長の顔から血の気が引いた。


「不正送信……?」


「はい。一昨日の午後三時十七分、プロジェクトの中枢サーバーから海外のIPアドレスに対して、物流セクションの機密データが送信されています。送信元のアカウントは――」


 男の視線が、まっすぐに私を射抜いた。


「如月奈々さん。あなたのアカウントです」


 § § §


 心臓が、止まった。


「……は?」


 私の、アカウント?

 ちがう。待って。なんで。なんで私の名前が出てくるの。私は何もしていない。何も。なんで。

 声が出なかった。いや、出たのかもしれない。でも聞こえなかった。


「如月さん。一昨日の午後三時から四時の間、あなたはどこにいましたか」


「三時……? 三時は……」


 思い出そうとした。一昨日の月曜日。午後三時。


 席を外していた。会議の準備で、下の階の印刷室に行っていた。三十分ほど。


「席を外していました。印刷室に」


「その間、あなたのPCにログインした人物に心当たりは?」


「ありません。私のパスワードを知っている人は……」


 知っている人は、いないはずだった。

 でも――


 一瞬だけ、白峰さんの方を見た。


 白峰さんは、心配そうな顔で私を見つめていた。大きな瞳がうるみ、唇がわずかに震えている。完璧な「驚いている善良な後輩」の表情。


「如月さん。重要参考人としてお話を伺わせてください。こちらにお越しいただけますか」


 公安の男が、ドアを指し示した。


 立ち上がろうとした。足に力が入らない。膝が笑っている。

 前世の処刑場に連行された時も、こんな感覚だった。周囲の音が遠くなり、視界が狭まり、足元だけが近くに見えて。


「ちょ……ちょっと待ってください。私はそんなことしていません」


「事情聴取の場で、詳しくお聞きします」


 私は立ち上がった。

 目の前が、ぐらりと揺れた。


 会議室の全員が、私を見ている。

 山本さんが口を開きかけて、閉じた。佐々木さんが、何か言おうとして隣の人に止められた。朝倉座長は、厳しい顔で黙った。


 私が公安の男に促されてドアに向かった。


 § § §


 お姉様の背中を、わたくしは目で追いました。


「……先輩」


 涙声で、呟きました。


(お姉様。見て。あなたは今、ボロボロになりかけている。もうすぐ全てを失う。その時、わたくしが手を差し伸べてあげる。今度こそ)


 膝の上で、両手をきつく握りしめていました。

 プロジェクトルームのドアが閉まる。

 お姉様の姿が消えた。


 そして同じ瞬間――池袋のアパートで、蒼い目の男が動いた。

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