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前世で処刑された公爵令嬢、社畜OLに転生したら、処刑した魔法使いが専業主夫としてキスをせがんできます  作者: カクナノゾム


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31/67

31 霞が関への推薦

 震える指でメールを開いた。


 最初に開いたのは、人事部からのメールだった。この一週間の調査結果としての、正式な連絡だ。


『如月 奈々 殿


【件名】過去六年間の人事評価の遡及的見直し、および特別プロジェクトへの推薦について


 黒田 弘泰(元・営業課長)の懲戒処分に伴う社内調査が完了いたしました。

 同氏が過去六年間にわたり、如月殿の業務成果を不正に自身の実績として計上していた事実が確認されました。これを受け、過去六年間の如月殿の人事評価を遡及的に見直し、全社最優遇基準での適正な評価への修正を行うことが決定いたしました。


 また、如月殿の真の業務実績は、弊社の主要な取引先である複数の企業および官公庁から既に極めて高い評価を得ております。

 つきましては、黒田氏を推薦する予定でありましたプロジェクトに、如月殿を推薦することとなりました。

 内閣府主導の特別プロジェクトの民間選抜枠参画推薦です。

 詳細につきましては、添付資料をご確認ください。


(人事部)』


 添付資料。

 開いた。


 いや待って!?

 さすがに目を、疑ったよ。


 『国際経済特別区域推進プロジェクト 民間選抜メンバー募集要項』


 国家プロジェクト。

 内閣府直轄の、国際貿易特区の立ち上げプロジェクト。各省庁と民間から精鋭を集め、日本の経済戦略の中核を担うという、ニュースで見たことのあるあの大規模プロジェクト。


 その、選抜メンバー。


「え? え? ちょっと待って??」


 テーブルの向こうで、エリオットがコーヒーを飲んでいた。

 いつものポーカーフェイス。右手にカップ。左手はテーブルの下。


「……どどど、どうしよう?」

「ん?」

「なんだか、凄いの来ちゃったんだけど」


 私の話を聞いたエリオットは一拍置いて、口を開いた。


「かつての王国でもあったことだろう? 無能な貴族が他の貴族の手柄を横取りしていたという話は。全てが明るみに出た時、どうなったかは覚えているだろう?」

「うん、二人で汚職を暴いたよね。それでちゃんと働いていた公爵令嬢が正当に評価されることになった、あの話よね?」

「そう。同じだろう? あの黒田が横取りしていた手柄が正当な能力を持ったもののところにやってきた」

「その結果がこれ? 幾らなんでもいきなり過ぎない?」


 私はスマホの画面を見つめた。

 国家プロジェクト。内閣府。選抜メンバー。


 前世で、公爵令嬢として国政の中枢で戦った記憶が、ざわりと蘇った。

 外交文書を書き、政略を読み、三つ巴の勢力均衡を維持した、あの日々。

 あの時磨いたスキルが、役に立つかもしれないよ。


 混乱した頭で、三通目のメールを開いた。


『如月奈々 様

 初めまして。内閣府 WAGEプロジェクト推進室の朝倉と申します。

 この度、貴社経由で貴殿の業務実績および提案書を拝見し、大変感銘を受けました。特に、先般ご作成された百ページの提案書は、当推進室の分析チームからも「分析精度、論理構成ともに卓越している」との高い評価を得ております。

 つきましては、当プロジェクトの民間選抜メンバーとして、貴殿をお迎えしたく、ご検討をお願い申し上げます』


 ほんと、どうしよ?

 スマホを持つ手が、震えていた。


 § § §


 そして。有給休暇が終わった。終わってしまった。


 正確に言えば、有給休暇の後に与えられた「プロジェクト準備期間」も終わり、ついに着任日が来てしまった。


 ちなみに、内閣府の特別枠ということで、お給料は前のブラック企業の倍以上もらえることになった。これで家賃も食費も安心だ。


 朝六時。久しぶりにアラームをセットした。

 音が鳴った瞬間、身体が条件反射で跳ね起きる。六年間で刻み込まれた社畜の本能は、たった一ヶ月の休暇では消えないらしい。悲しい生き物だ、人間って。


 キッチンからは、もう良い匂いがしていた。


「おはよう。朝食は五分前に完成している」


 テーブルの上には、だし巻き卵、焼き鮭、味噌汁、白ご飯。

 だし巻き卵はもちろん手作り。あの一万回のエアー素振りの賜物だ。

 で、味噌汁。……ちゃんと煮干しで出汁を取っている。あれからエアー煮干しも一万回やったんだろうか。

 焼き鮭に至っては、皮目のパリッとした焼き加減が妙に完璧だ。


「かかった時間は?」


「三十七分だ」


 ちょっと待って。

 全部手作り? 魔法なしで? あの宣言から一ヶ月も経ってないよね?


 恐る恐る味噌汁を一口すすった。

 ……おいしい。普通においしい。ていうか、すごくおいしい。出汁の風味がしっかり利いている。


(え、もしかして私より上手くない……?)


 六年間、自炊する余裕もなく、コンビニ弁当とカップ麺で生き延びてきた限界OLと、一日で一万回の素振りを実行した思考機械みたいな大魔法使い。比較対象として不公平すぎない?


 いや、そもそも私が下手すぎるだけなんだけど。料理スキルだけは前世から引き継げなかったんだよね。貴族令嬢は料理しないから。


「いただきます」


 だし巻き卵を一切れ。安定のおいしさ。悔しい。


「……弁当も作ってある」


 エリオットが、ラップで包まれた弁当箱を差し出した。

 中身を覗くと、だし巻き卵、おにぎり、サラダ、唐揚げ。全部手作り。唐揚げの衣がちょっと分厚いけど、二週間でここまで作れるのはおかしい。


 ちょっと前まで自動ドアに「結界か!」って叫んでた男が、唐揚げを揚げている。成長速度がバグってない?


 前世で三カ国の外交をやった女が、今度は国家プロジェクト。

 ……処刑されなければ、勝てる気がする。

 さて、何が待ってるんだろう。

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