↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四半期3位!!アイスマジック 死んだ少年が母の肉体で蘇り真相を追う!?  作者: 薬屋がいる限り1位無理!tanakatakusi
第1章 ロットの願い 妄想エッセイ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/55

第6話削りゆく、命

「……金がねえ」


 そんな現実を抱えたまま眠ったせいか、翌朝の目覚めは最低だった。


「ふわぁぁ……」


 間抜けな欠伸を漏らしながら、俺はベッドの上で身体を起こした。ぼりぼりと顎を掻き、凝り固まった首を左右に鳴らす。


 窓の外には相変わらず雪景色が広がっている。


「しっかし、昨日は色々ありすぎただろ……」


 ヴィアには吹っ飛ばされるし、不老薬なんて訳の分からない話は聞かされるし、挙げ句の果てには猫まで拾った。


「にゃあ……」


 足元を見ると、俺がシロと名付けたそいつが、大きな欠伸をしながらこちらを見上げていた。


 まだ連れて帰ったばかりだというのに、すっかり我が物顔で部屋を占領している。


「お前、順応力高すぎだろ」


「にゃー」


 返事だけは一丁前だった。


 その時、枕元の端末が震える。


「ん?」


 画面を確認すると、今日の配達依頼が表示されていた。


「50件……?」


 思わず二度見した。


 祭り前だから忙しいとは思っていたが、これは完全に異常だ。


「身体は死ぬが、金になるなら文句は言えねえか……」


 ため息を吐きながら端末を閉じようとした瞬間、新着メールの通知が表示された。仕事関係ではない。珍しいなと思いながら送り主を見る。


「ヴィアかよ」


 本文には短い文章が並んでいた。


『起きてる?』


『アーサー知らない?』


『返事しなさい』


『殺すわよ』



 知らねえよ!


 即座に画面を閉じる。昨日の仕返しだ。少しくらい無視される側の気分を味わえ、暴力女。


「よし、行ってくるか」


 荷物を担いで玄関へ向かう。


「シロは留守番な」


「にゃあ……」


 不満そうな鳴き声が背中に飛んできた。



 ◇



 祭りを目前に控えたブランカ村は朝から慌ただしかった。観光客で道は埋まり、どこへ行っても人、人、人だ。


「アイスゲームの影響でどこもかしこも大混雑だな……」


 荷物を抱えながら人波を縫って進む。その途中、何度か妙な視線を感じた。誰かに見られている気がする。


 振り返っても観光客しかいない。気のせいだと思い込み、仕事へ集中した。


 ◇



「おはようございます!」


 詰所へ飛び込む。時計を見る。始業一分前。ギリギリセーフだ。


「班長」


「おう」


 班長が書類の束から顔を上げる。


「……アーサーはどうした?」


「は?」


 思わず聞き返した。


「まだ来てねえぞ」


「アーサーが?」


 違和感が胸に引っ掛かった。真面目が服を着て歩いているような男だ。遅刻なんて聞いたことがない。


「珍しいこともあるもんだな」


 班長は軽く笑った。


「祭り前だしな。どっかで足止めでも食らったんだろ」


 そうかもしれない。そう思おうとしたが、妙な不安だけは消えなかった。


 ◇


「ありがとうございましたー!」


 最後の荷物を届け終えた頃には、外はすっかり夕暮れだった。50件。さすがに死ぬかと思った。肩も腰も悲鳴を上げている。


 だが、忙しかったおかげでアーサーのことを考える時間は減った。減っただけで忘れたわけじゃない。


「結局、職場に来なかったな……」


 帰り支度をしながら呟く。昨夜、酒場で別れたあと何があった?寝坊?いや、あいつに限ってそれはない。


「帰りに様子見ていくか」


 そう決めて職場を出た瞬間だった。


「失礼」


 突然、すぐ後ろから声がした。近い。いつの間にそこにいた。反射的に振り返る。そこに立っていたのは、一目で異質だと分かる男だった。


 灰色のくせ毛混じりの長髪。

 丸まった背中。

 雪山には似合わないブラウンのロングコート。

 そして胸元には探偵バッジ。


 古い推理小説から飛び出してきたような格好だった。


「ドイルと申します」


 男は丁寧に頭を下げ、一枚の名刺を差し出してきた。受け取る。そこには確かに『私立探偵』と書かれていた。


「探偵って……ベタだな」


「よく言われます」


 苦笑した。


 だが灰色の瞳だけは笑っていなかった。


「悪いが、これから予定がある。話ならまた今度にしてくれ」


「アーサーさんの件ですか」


 足が止まった。


「…………」


 なぜその名前を知っている。俺はまだ何も言っていない。


「今日、職場に来ていないんですよね」


 背筋が冷える。


「なんでお前がそれを知ってる」


 ドイルは静かに目を伏せた。


「…………」


 冬の風が吹き抜ける。舞い上がる雪の向こうで、探偵は静かに告げた。


「アーサーさんは――亡くなったんです」

挿絵(By みてみん)


童貞

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
母の死とその死体との融合という、狂気的な設定と、美しい銀世界の描写との対比によって一気に物語に引きずり込まれます。 ただのファンタジーではない、社会的な闇を孕んだサスペンスとしての深みを感じます。 毎…
  ここまで読んだので感想を残します。読みやすい文章体で、濃密な物語を展開しており、面白かったです。  返信は不要です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。