第35話不思議の国のケイ
……ああ、約束する。
俺はスタンの生気を失った眼を真っ直ぐに見つめ、最後に力強く抱き締める。
ポタッ……
「お前の願いも俺がまとめて背負ってやるッ!!!」
なぜこんな簡単に人を殺せる。初めてのライバルでもあったスタン。大会の運営はウサは参加者を皆殺しにするつもりなのか。絶対にそんな事はさせない。
「おぉっとォォォ!?敗者も巻き込む熱き絆のドラマッ!! だが余韻に浸る時間はありまセェェェン!!!★」
新しい司会の軽い声が巨大ホログラムから五月蝿く響き渡る。
「続いては今大会、最注目の準決勝第2試合ィィ!!! 13歳の最年少ケイ選手 VS 謎のベールに包まれたウイング選手ゥ!!★」
ステージの反対側から、フラフラとした足取りで現れた小さな影。青白い顔のケイがさらに真っ白なゴスロリ服で登場し盛大にコケた。
富豪家たちからアハハハ!と下卑た歓声が上がる。
さながら堕天使が匍匐前進をしてくるような不気味さを纏っていた。冷笑を浮かべながらゆっくりと中央へ歩みを進めてくる。
その様子を無感動に眺めるのは対面に立つフードの人物ウイング。既にネットに予選結果が張り出されている。
端末を開くとYoutuderTakusiが早速喰いついていた。動画を振り返るとウイングは64人中4位。
……ちなみに1位スタン2位ケイ3位ロット4位ウイング
ウイングの正体とは一体何者だ――。
◇アストレイア女学院中等部、理事長室
場内に軽薄な実況が響き渡る中、観客席の最上階に位置する特等席の闇の中に影武者を忍び込ませ、当の本人は中継でワインを片手にそれを眺めていた。
アイスゲーム開催者の1人。表向きは学院理事長を務めるウサ。
醜悪に肥大化したその巨体をギチギチと軋ませながら、歪んだ笑みを浮かべて高みの見物を決め込んでいる。
「スタンが敗北しましたが、これも計画の内ですか」
若い秘書が素直に尋ねる。
「試行回数の一つでしかないのぉ。本命はもう"2人"おる。」
「それはケイとウイング。両方と組んでいると?」
「さてのう……それを考える奴らを潰すのが楽しいんじゃろう」
「…………」
カハハハッと笑う姿は悪辣此処に極まりといった具合だ。
すべては人を踏みにじる為、権威と支配が編み上げた盤上の出来事。その絶対の愉悦が脂ぎった皺だらけの顔に醜く浮かんでいた。
◇ステージホール
俺とすれ違う瞬間。
引き摺るウサギの人形の頭に頬ずりしていたケイが、ふと歩みを止めた。
いつも酒場でバイトをしていた時のように、学院で皆と遊んでいた時のように。何気なく。
「……ねえ、ロット。アーサーたちを殺したの、ケイだよ」




