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▼"一次通過"アイスマジック  作者: 薬屋がいる限り1位無理!tanakatakusi
第2章 4女ディヴィアの誓い 学園ラブコメカードバトル編

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第32話鉄血のロット

 時間ギリギリ。


 4人の視線がホールの入り口に集中する。

 ズルズル、ズルズルと、何かが床を擦る不快な音が静まり返ったホールに響く。


 薄汚れた不気味な灰色のウサギ人形を引き摺りながら、眠そうな目で瞼を擦り、黒い少女がポツンと現れた。


 嘘だろ……ッ!?


 咄嗟に、思考より先に叫びが口から飛び出していた。


「……ふぁあぁ……ん、ロット……?」


「Dブロック代表者は今大会『最年少』! アストレイア学院中等部所属――ケイ選手ウゥゥゥゥッ!!!★」


 酒場の美人看板娘6姉妹の末子。6女こと、ケイ。


 なぜだ。


 あいつはあの酒場で。学院で。ただ無気力に過ごしているだけの存在じゃなかったのか!?


 なぜ、こんな命の保証すらないデスゲームの舞台に立っている!?


「司会ッ!!! こいつはまだ13歳の中等部1年だぞ! 死ぬことの恐怖も、このゲームの狂気も理解しちゃいない! 今すぐにエントリーを取り消せ!!!」


 ステージの端まで詰め寄り、猛抗議の声をあげる。


 今すぐにでもケイの手を引いてこの場から退場させるしかない。


 いっそのこと、力ずくで気絶させてでも――いや、この衆人環視の状況でそんな暴挙に出れば、俺が即座に殺される。


 抱き寄せた人形の影から、ケイがヌッ……と顔を上げた。

 その瞳には、普段の13歳らしさが感じられない。


 どこか暗く。黒く。曇った色彩が宿っている。


「……フフ、大丈夫だよ、ロット……。ケイはお姉さまたちの『変わり』に来たの」


 学院でのやり取りとまったく違うケイに混濁する思考。


 少女の細い指先が人形の頭を愛おしそうに撫で、そのまま自身の頬を寄せてすりすりと頬ずりする。


 違和感を他所に時は動き出す。


「おぉっとォ! 奇妙な静寂がありましたガ?ついにィ!!!★」



『"氷棺の戴冠式(アイスゲーム)"』


「本戦トーナメント組み合わせが決定致しましタァッ!!!★」


 頭上のスクリーンが激しく明滅する。血の赤で塗り潰された対戦カードが映し出される。


【第1試合:スタン VS ロット】

【第2試合:ケイ VS ウイング】


「第1試合からまさかまさかの因縁対決ゥゥゥ!!! お互い一歩も引けない漢の戦い、スタートデスッ!!!★」


「……フフ、頑張ってね、ロット。私、特等席で見てるから」


 ケイは人形の頭をもう一度撫でると、どこか虚ろなステップを踏みながらステージの端へと消えていった。


 もう一人のフードの奴も無言で音を鳴らす。


 残されたのは、俺とスタン。


「まさか、初戦でお前と当たるとはな」


 カードを持ち直す。じり、と間合いを詰める。


「焦るなよロット。ここで貴様を叩き潰し、本物であることを証明する」


 スタンの黄色い髪が、激しい闘志のオーラで逆立つ。学院で女のフリをして手を抜いていた、これまでの彼とは違う。


 今ここにいるのは、すべてを捨てて修羅となった一人のライバルだ。


 負ければ死ぬデストーナメント。その火蓋が切って落とされた。


「後悔すんなよ、恨みっこなしだスタン!!!」


「勝つのは俺だ、ここでさよならだロット!!!」


氷棺の戴冠式(アイスゲーム)――第1試合決闘開始ッ!!★」


 再び、ステージ上に12枚のカードが浮かび上がった。胸糞悪いことに、1階席や2階席には大物ばかりが目につく。


「臆病者が、これがアイスゲームで勝つ為に貴様を研究した結果だ」


 スタンは余程腕に自信があるようだ。学院では能力を隠していたということか。


「今のお前を見ているだけで充分なんだよ。スタン」


 表面的なデータは集まった。あとは手の内を探るだけ。


 ……


 長い。今まで対戦した中で、5戦まで引き分けたのは初めてだ。


「アァーっと!★ロット選手ここに来て不敵に笑みを浮かべるウウウゥゥゥー!!!!」


「何を笑う?自分の死期を悟っておかしくなったのか貴様」


「――学院に潜入して、実力を隠し、情報収集をしていた。だがそれはお前だけじゃない」


 ついに6戦目――。


 動いた。


  スタン

 0 -1 -1 -1 -3 -3

 赤 青 銀 黒 金 黄

 青 黒 銀 黄 黒 赤

 2 2 2 1 1 1



 スタン-3P VSロット1P


「試合終了うううウゥゥゥー★!!!長かった試合もここで打ち止めデスッ!!★」


「第1試合、勝者はロット選手ううううウゥゥゥッッッッー!!!★」


「そんな、あり得ない……」


 呆然と立ち尽くすスタン。


「握手だよ。俺たちはここで死に合うために戦ったんじゃない。生き残るために戦ったはずだ」


 スタンは驚いたように目を見張り、やがて自嘲気味に笑うと、俺の右手を強く握り返した。


「……ロット、頼みがある」


 握り合った手のひらから、スタンの必死の願いが伝わってくる。


「俺には、どうしても助けたい奴がいるんだ。……イルテを、自由にしてやってくれ」


 パンッ……


「うわあああああああ」


 一部の観客が声を上げる。


「おぉっとォォォ!!! 敗者をも巻き込む熱き絆のドラマッ!! だが、余韻に浸る時間はありまセェェェン!!!★」


 新しい司会の軽い声が、再び五月蝿く響き渡る。


 今回、司会は微動だにしていない。じゃあ一体誰が?


 自動小銃だとッ!? ステージにふざけた仕掛けを施していたのか!決して一朝一夕で取り付けられるものじゃない。


 ……やはりただの学院ではないようだ。怒りと無力感に苛まれながら、声を張り上げた。


「ウサ、他のクズども!見ているんだろう!!俺は必ず優勝し、喉元に嚙みついてやるッ!」

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