第31話集え、代表!にーべるんなんとか!
「大変お待たせ致しましタァッ!!!★ロット選手ゥぅぅぅぅ!!!!★」
キーーーーーーーーーーン、と鼓膜を突き刺す甲高いハウリングがスピーカーから鳴り響いた。
新しい司会の声だ。
あの逆撫で声なエムニッタじゃない。もっと感情の欠落した、事務的で軽薄な声。
「アイスゲーム本選会場の変更をお知らせ致しますゥゥ!!!★」
「新会場はコチラアァッーーー!!!!★」
【アストレイア学院中等部―氷冠の戴冠式】
Cブロックの時計台から、アストレイア学院中等部だと……!?
「学院でデストーナメントを行いまスウウウウゥゥゥッゥ!!!★」
ブツリ、とスピーカーが切れた。再び静寂が戻る。
(続けるのか。あんな凄惨な光景を見た後でもなお……)
俺は手元にある、べっとりと血に染まった写真を眺める。
指先が微かに震えていた。だが、その震えを握り潰すように写真をポケットへ仕舞い込む。
(いや――だからこそ、続けるんだ)
(勝たなければ、俺がここまで生きてきた意味も。ヴィアもアーサーもディヴィも。これからの未来も。何一つ変えられない)
◇アストレイア学院中等部、ステージホール
アストレイア女学院――創立80年になるアイス家直轄の純潔たる育成機関。村で2番目に大きな建造物と言っていい。
正義の女神アストレイアが降臨したとされる伝承に基づき設立された学び舎。
だが、門と校舎の正面で冷酷にギラリと光るのは、あの忌まわしきアイス家の紋章だ。
理事長のウサは人間じゃない。
異形だ。
悪趣味の極み。吐き気を催す邪悪の権化。言葉にしきれないほどの悪意に、逆に思考が麻痺しそうになる。
そしてここは――アーサーとヴィアが死んだ場所でもある。
のちに『断頭台の惨劇』と呼ばれる、学院の生徒2名が無残に殺害された未解決事件の現場跡地。
まだ血の匂いすら残る捜査中の段階で、その場所を凄惨な祭りの舞台にするなんて、
狂っている。
ホールに足を踏み入れると、異様な光景が広がっていた。
一度見たはずの豪華絢爛な観客席。冷徹にこちらを見下ろす無慈悲な刺すような照明。ステージ中央に鎮座する丸い浮遊するテーブル。
それらを取り囲む、KEEP OUTの黒と黄色のテープ。
そして、床にはまだ消しきれていない黒ずんだ痕跡。
正面の巨大スクリーンには、鮮血を模した色でデカデカと映し出されていた。
【"氷冠の戴冠式"】
「いらっしゃいまセェェェ!★ 本選への出場を決めた"二人目"は――」
「前の司会者エムニッタを見事『撃破』した、ロット選手デスッ!!!★」
既に、ステージ中央には「一人目」がいた。本戦への切符を最速で捥ぎ取った男。
見覚えのある黄色い髪の青年が、不遜に腕を組んでこちらを睨み据えている。
「まさか、俺より先にここにいるのがお前だったとはな、スタン」
「今までの俺と同じと思うなよ。貴様、既にあの頃とは違う」
予選Aブロック代表。全ブロック中最速で予選を壊滅させて勝ち上がってきた男――俺が勝手にライバル視している奴だ。
「そーいや、お前……俺と同じ男だったんだな。なぜ女のフリをしてこの神聖な学院に潜り込んでいたんだ?」
「貴様には関係のないことだ。俺には、何が何でもここで優勝しなければならない理由がある」
スタンが鋭い視線で睨みつける。俺と同じ、引き返せない訳アリの目だ。
こうも本戦出場者が学院関係者ばかりだと、ヤレヤレ……といった具合だが、感傷に浸る暇は与えられない。
「さァてェー★ お次は……Bブロック代表! フードを被った謎の人物ゥぅぅぅぅゥ!!!★」
「ウイング選手ッ!!!★」
分厚い外套のフードを全身に纏った男が、ステージに現れた。異質な気配がした。
一歩、足音が響いた瞬間――俺の脳裏に些細な、しかし決定的な違和感が走る。
(……ん? この感覚……)
デジャヴじゃない。記憶の引き出しが、明確にこの歩き方、この輪郭を知っている。
ここじゃない世界。あの薄暗い酒場の帰り道、寒さに身を焦がす俺に財布を投げつけてきた、あの時の――。
なぜ、こんな最悪のタイミングでここにいる!?
「おい司会! こんな素性の分からない不審者、即刻失格にしろ! 替え玉の可能性だってあるだろうが!」
イライラを募らせたスタンが、憤慨を隠さずに噛みつく。
「運営側としましては、こういう『不確定要素(趣向)』も大アリとの判断ですのデッ!!★」
「チッ、俗物が……」
スタンが忌々しげに床へ唾を吐き捨てる。
何であれ。この地獄の本戦に上がってきた以上、ウイングと名乗るフードの人物が圧倒的な実力者であることは間違いない。
酒場での邂逅も、すべてアイス家の手のひらの上だった可能性がある。
負ければ、死ぬ。
その思考を脳内に強制的に植え付けなければ、次にこの床のシミになるのは俺だ。
「おぉっと★ 最後の出場者が到着したようですッ!!!★」




