第31話2人の道化師
両足に広がる赤い水面。
クリームのようにじんわりと。熱狂から狂生へ。
「きゃああああああああああああああああああ」
ステッキのような、白に青い結晶が施された仕込み銃……
司会エムニッタが残った出場者を無言で撃ち抜く。
「おい、何やってんだッ!!!お前ッ!!!」
「あーぁーあー★このゲームに勝者は一人ですよーーー?×」
イカレテル
さっきまで戦っていた奴ら、皆殺しにしやがった‥‥。
視界が歪む。血染め。
アーサー。ヴィア。そして、ディヴィの死が重なる。
こいつらと交渉は不可能だ‥‥
「さあさあさあッ!!!本日のメインイベントゥゥゥ!!!★」
エムニッタが舞台の上で両手を広げた。
白塗りの顔に、赤い口が耳まで裂けた顔が凶悪に歪む。なのに目だけが——笑っていない。
「本日の対戦相手はァァァ!!!ブランカ村の配達員!!!★」
「ロット選手でございますゥゥゥ!!!★」
シーン……
静寂すぎる。すでに観客は誰もいなくなった。
俺は舞台に立ちながら、こいつの目だけをずっと見ていた。
(司会が選手として出てきた。ってことは――)
(こいつは最初から、ここに立つつもりだった。)
「エムニッタ。お前は"何"だ。主催者は何を考えているッ!!!」
「さあてェェ!!!それは試合が終わってからのお楽しみィィィ!★」
くるりと回って、チリン。帽子の鈴を鳴らす。
「…………」
1戦目 引き分け
セット、オープン。
エムニッタ0ロット0
青対青。互いに+1。
(最後に同じ色をぶつけてきた。様子見か。)
6ターン全て終わった時、スコアは同点だった。
「引き分けェェ!!!★なかなかやりますねえロット選手!!!★」
エムニッタは舞台を歩き回りながら、いないはずの観客に向けて両手を振る。
笑えなかった。
(このピエロ。最初から引き分けを狙っていた。)
(何の目的で。)
2戦目 引き分け
また同点だった。
今度は俺が積極的に攻めた。黒を早めに切った。金を温存した。
それでも——エムニッタは全部受けた。
まるで俺の手が最初からわかっているみたいに。
「またまた引き分けェェ!!!いやあ素晴らしいィィィ!!!★」
「……お前、手を抜いてるだろ。」
俺は静かに言った。
エムニッタの白塗りの顔が、こっちを向いた。
「さあてェェ?何のことでしょうねえ?★」
口の端だけが、少し上がった気がした。
3戦目 引き分け
三度目も、終わってみれば同点だった。
「三引き分けェェ!!!これは歴史的な試合ですゥゥゥ!!!★」
パネルを見ながら、ずっと考えていた。
(こいつは勝てる。なのに勝たない。)
(なぜ引き分けに持ち込む。)
「エムニッタ。」
「はあいィ?★」
「俺に何かを見せようとしてるのか。」
エムニッタが動きを止めた。一瞬だけ。それからまた、いつもの道化師の顔に戻った。
「さあさあ、4戦目ですよォォォ!!!★これが最終決戦ィィィ!!!★」
4戦目 ロット勝利
セット、オープン。
エムニッタ0ロット+1
(黒を赤で受けた。黒<赤でロット+1。)
(待て。こいつは今まで絶対にこのミスをしなかった。)
でも——何かがおかしい。
エムニッタの手が。
今までと違う。
(わざと、最後に手を抜いた。)
確信した瞬間、胃が重くなった。
6ターン試合終了。
エムニッタ +1
ロット +2
そして時は動き出す。
「試合終了ォォォ!!!勝者ァァァ!!!ロット選手ィィィ!!!★」
カンカンカーン。
立ち上がれなかった。
「エムニッタ。」
「おめでとうございますゥゥゥ!★」
「お前、最後わざと負けたろ。」
エムニッタが振り返った。今度は——笑っていなかった。白塗りの顔の下に、ひどく疲れた何かが見えた。
「……バレちゃいましたかァ。」
声のトーンが変わった。道化師の声じゃない。
「なんでだ。」
「あなたに、勝ってほしかったから。」
「それだけよ。」
(こいつは。)
(最初から俺を――)
「頑張って、ロット。」
エムニッタが深く微笑む。鈴が、静かに鳴った。
「母さん?」




