第28話エムニッタ
号令。
空が。
大地が答える。
「両者、準備が整ったようですッーーーー!★」
「それではッ!第5試合開始ッ!!!★」
「フルール様の為にも、勝利して見せますわっ!」
「フン、言ってろ。」
・・・・→
バリンッ……
「アァーーーーッと!!!両者とも目の前に2枚のパネルが残ったァ!!!!★」
クソがッ!!モーモモの最初に赤を持ってくる、奇策でここまで0Pだぜ
「変な手を使う、名前の通りだ―――」
「失礼ですわねっ!ほえ面かくがいいですわッーーー!!」
セット、オープンッ!!!
「これは珍しい、黒と黒が残ったーーー★」
黒は通常、相手に-1Pだが、お互いに出し合うと0Pになる。
「どうしましたの?固まってますわよ。」
「うるさい。考えてる。」
「フフ……」
(笑いやがった。余裕があるのか。それとも――)
1戦目は互角、引き分けだった。
2戦目、開始
モーモモ
0 0 0
黒 黄 青
黄 金 黒
-1 -1 -1
ロット
最初に、黒!さっきと逆の展開に持ち込む気だッ!
「……今度こそですわ。」
声のトーンが落ちた。さっきまでのわーわーが、嘘みたいに消えている。
(こいつ……本気の顔がある。)
「かかってこい。相手をしてやる。」
「……ロットさん。」
「なんだ。」
「フルール様のこと、どう思いますの。」
(急になんだ。)
「試合中に聞くことか。」
「だって気になりますもの。」
タイミングがおかしい。試合の佳境で、わざわざフルールの話を出してくる。
(揺さぶりか。)
(それとも本気で聞いてるのか。)
「‥‥答えてくださらないんですね。」
モーモモは静かに言った。
「フルール様はね、ずっと一人で抱えてきたんですの。」
「お父様のこと。ヴィア姉様のこと。この酒場のこと。」
「…………」
「だから私は、勝ちたいんですわ。」
「あの人に、少しだけ、楽をさせてあげたいから。」
(こいつ。)
「試合中に本音を言う奴があるか。」
「だって、負けたくないから本当のことを言うんですわ。」
「フン。」
モーモモ
0 0 -1 -1 -1 -1
黒 黄 青 金 赤 銀
黄 金 黒 赤 青 銀
-1 -1 -1 -1 +1 +1
ロット
3ターン目、赤を出していたら、赤<青で失点していた。
5ターン目、やり返して赤<青で俺が得点だ。
「試合終了ッーーーーーーー!!!!★」
カン、カン、カンカーンッ!!!
いつの間に用意していたのか。場違いなくらい立派なゴングが、闘技場に甲高く響き渡る。
準備が良すぎるな。
というか絶対前から置いてあっただろこれ。観客席がざわめく中、司会だけが満面の笑みだった。
「いやァ〜〜〜!!実に素晴らしい試合でしたねェー!!!★」
「嘘ですわーーーッ!!!」
甲高い悲鳴が飛ぶ。
「きっとイカサマしてますことよーーーッ!!!」
令嬢らしく、ハンカチを噛み締めながら、ぷるぷる震えていた。
口元が完全にタコみたいになっている。
さっきまで漂っていた死闘の空気が、一瞬で崩壊した。
ロットはリングの上で息を吐く。
なんなんだ、この温度差。
つい数分前まで、人が死ぬみたいな目をして戦っていたはずなのに。
「ちょっと、審判ッ!!!再試合を要求し……」
「却下です★」
「早いですわーーーッ!!?」
司会のエムニッタは爽やかに笑う。
「なお抗議料はセロコイン三十枚からとなっております★」
「ぼったくりですわよ!!!」
観客席から笑いが漏れる。
その空気の軽さが、逆にロットには不気味だった。
この会場はいつもそうだ。血と歓声が近すぎる。
「フルール様を大切にすることですわ!私たちが常に見張っていますので!あしからず!」
「言われなくてもそのつもりだ」
エムニッタはくるりとマイクを回した。
「さてさてェ〜!!それではいよいよ!!Cブロック代表決定戦へ参りましょう!!!」
照明が落ちる。
闘技場の熱が、一瞬で冷える。
ロットは目を細めた。
来る。
「選ばれし最後の二名はァ――――」
モニターへ名前が映る。
【ロット】
そして。
【エムニッタ】
「……………………は?」
ざわめきが嘘のようだ。会場が静まり返る。
一秒遅れて、爆発みたいなどよめきが起きた。
「司会ィ!?」
「お前出んのかよ!!」
「ズルだろ!!!」
「八百長だーーー!!」
エムニッタは深々と一礼する。
「ご安心ください★」
顔を上げた瞬間。
眼が笑っていなかった。
「私は常に、公平ですから」
ぞくり、と。
ロットの背中を冷たいものが走る。その瞬間だけ。
こいつは只の司会者じゃないと全身が怖気を放っていた。




