↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四半期3位!!アイスマジック 死んだ少年が母の肉体で蘇り真相を追う!?  作者: 薬屋がいる限り1位無理!tanakatakusi
第2章 4女ディヴィアの誓い 学園ラブコメカードバトル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/55

第23話近づく記憶

「どうぞ、こちらへ……」


 フルールは作業机兼化粧台の前に置いてある丸椅子を勧め、自身はベッドの上に乗って小さく膝を抱えた。

 遠い記憶の糸をそっと手繰り寄せるように、彼女はぽつり、ぽつりと呟く。


「七歳の頃だったと思います……。ラグネル姉様とヴィア姉様と私で、よくこの村を走り回って遊んでいたんですよ……」


 ラグネル。また新しい名前が出てきたな。


「ヴィア姉様の出自は分かりません。ただ、学院には行っていなかったと思います。校内で姿を見たことがなかったので……」


「一緒の屋敷に住んでるんじゃないのか?」


「たまに部屋に泊まったり、ふらっと居なくなったり。いつも猫のように自由にしていました……」


 小さい頃からそんな風来坊じゃ、わがままな性格に育つわけだ。少しだけ納得がいく。


「父も、姉様のことを咎めることはありませんでした……」

「そういえば、ルガンはどうしたんだ?」


 少しの間を置いてから、俺は核心へ話を戻した。ここしばらく、酒場でマスターの姿を見ていない。


「他の姉妹が心配するから、みんなには言っていませんが……行方不明なんです」

「警察には言ったのか」

「……言えません」


 フルールは痛ましそうに首を振った。


「どうして」


「この村の警察は――アイス家と繋がっています。父もそれを分かっていて、自ら姿を消したんだと思います」



「つまり、自分の意志で……」


「小さい時から、父様の考えていることはなんとなく分かるんです。誰かに連れ去られたんじゃない。自分から居なくなったんだと」


 そう答えるフルールの瞳には、確信めいた光が宿っていた。彼女は静かに言葉を重ねる。


「父は昔から、何かを知っていた。でも、私たちにはずっと何も言わなかった。それが――娘たちのためだと思っていたんでしょうね……」

「……俺から見ると、逆に見えるけどな」

「え?」

「何も知らない方が、危ない場合もある」


 脳裏に、俺の中の『母の記憶』がかすめて消えた。何も知らされず、ある日突然引き裂かれたあの日の光景が。


 フルールはしばらく黙っていた。それから、俺の言葉を噛みしめるようにゆっくりと頷いた。


「……そう、かもしれませんね……」

「一人で抱えて辛かったろうが、よく耐えたな」

「……っ」


 フルールの肩が、小さく震えた。

 俯いたまま、白く細い指先がスカートの生地をぎゅっと握りしめる。


「……そんなこと、言われたの……初めてです……」


 今にも消え入りそうな声だった。

 部屋には、古い柱時計が刻む規則正しい針の音だけが響いている。


「別に格好つけてるわけじゃない。本心だ」

「ふふ……はい……」


 フルールが、ほんの少しだけ口元を緩めた。だが、その薄氷のような笑顔はすぐに陰ってしまう。


「きっと……ヴィア姉様も、自分が死ぬことを分かっていたんだと思います」

「どういう意味だ?」

「校内戦の日……酒場に寄った姉様、どこか変だったんです」

「変?」

「ずっと、窓から学院の方を気にしていて……まるで、誰かを待っているみたいでした」


 ピリッ、と室内の空気が張り詰めた気がした。


 ヴィアはあの日、俺より早くアーサーの家を出たはずだ。


 学院とは方向が違うヴァロン酒場で、そいつと会う約束でもしていたのか?


「それで、会えたのか?」

「……そこまでは分かりません。でも、たぶん――男の人です」


 フルールが嘘を言っているようには見えなかった。姉妹だからこそ気づく直感というやつだろう。


「話してくれてありがとう。ディヴィも、他の姉妹も、あんたも――全員、俺が守る」


 口にしてから、急に恥ずかしさが込み上げてきた。ガラじゃない。

 フルールは目を丸くして俺を見つめていたが、やがてそっと長い睫毛を伏せた。


「……ロットさんは……」

「なんだよ」

「変な人ですね」

「悪かったな」

「ええ……」


 フルールは照れ隠しのように、毛布をそっと顔の半分まで引き上げた。


「ディヴィも、そう言っていましたよ。あなたのこと……」

「ディヴィが?」

「『好きな男が出来た』って」


「……っ」


 喉の奥が、カッと熱くなった。視界が急に歪みそうになるのを、奥歯を噛み締めて必死にこらえる。


「……そうか」


 絞り出せたのは、それだけだった。それ以上は何も言えなかった。

 もしあの時、俺がもっと傍についていれば――。胸の奥で、黒い後悔がじわりと滲んでいく。


「最後に、一つだけ聞かせてくれ」

「はい」

「ラグネルって姉は、今も生きてるのか?」


 フルールの動きが、ピタリと止まった。


 一秒。

 二秒。


「……生きています。」


 フルールは悲痛な面持ちで、俺を真っ直ぐに見つめ返した。その瞳に、曇りはない。


「ただ――」

「ただ?」

「ラグネル姉様は……ヴィア姉様より、もっと深い所に居ると思います」

「深い所?」

「アイス家の――核心に、一番近い場所」


 俺は深く息を吐き出し、黙って立ち上がった。


「ロットさん……」

「なんだ?」


 フルールは膝の上で細い手を組み、すがるような、けれど真剣な目で俺を見上げた。


「本当に――私たちを守れますか?」


 俺は少し考えた。嘘の気休めは言いたくない。


「確約はできない。……でも、死んでも守ってみせる。それだけは言える」


 フルールは、今度こそ心からの小さな笑顔を見せた。


「……信じます」


(母さん、ヴィア、アーサー、そしてディヴィ――俺は、もう二度と誰も殺させはしない。)


 その瞬間。


 ――コンコン。


 静寂を破り、部屋のドアが硬い音を立てて叩かれた。


 フルールがびくりと肩を震わせ、顔から血の気が引いていく。


「……誰……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。