第4話アイスゲーム
ヴァロン酒場で話し合う、いつもの友人。
頭がいてぇ……。そうだ。あのクソ女に吹っ飛ばされたんだった。
ダンッ!!!
俺は渾身の怒りを込めてカウンターを叩いた。
「今ここに宣言する!俺、世界会議の名のもとに、ヴィアに追加料金を請求する!」
「そんなお金、ヘドロには勿体ないわ」
「へ……?」
一体どういう教育を受けたら、こんな女が生まれるのか。
「アーサー、なんとか言ってくれ」
「ヴィア、言い過ぎだよ。ヘドロだって水を浄化する微生物の棲み家になるよ」
「おい金髪。一歩前に出ろ。ぶっ飛ばしてやる」
「にゃーあ」
足元で白猫まで馬鹿にしたように鳴きやがった。
絶対に許さねぇ。
「ご注文は?」
厨房の奥からマスターがぬっと姿を現した。
「いつものよ」
ヴィアのやつ、店員のくせに当たり前みたいに客席に座ってやがる……。
「俺もいつもの」
指を一本立てると、マスターは無言で頷いた。
「ヴィア、昨日どこにいたんだ。お前は受付だろうが!」
「私がどこにいようと私の勝手だわ」
そう。こいつはヴァロン酒場の看板娘だ。性格さえまともなら、文句なく美女なんだが。
「まさかサボり魔――」
「いててててっ!」
言い終わる前に腕をつねられた。ガキかこいつは!
「ロット、ヴィアの悪口はよくないよ」
「てめーはヴィアに過保護すぎるんだよ!」
「ふん。アイスゲーム前だからって、はしゃぎすぎよ」
アイスゲーム?なんだそりゃ。
「あら、知らないのね。知能もゴミクズ並みかしら」
「なんでそうなる」
「アイスゲームっていうのはね、アイス家が主催するお祭りだよ」
「ふーん?」
そういえば昨日も酒場でそんな話を聞いた気がする。
「お待ちどう」
マスターが三人分の料理を片手で運んできた。やっぱりこの人、ただのマスターじゃねえな。
「ほら、きたわよ。ロット」
「お前は働け!」
ヴィアにツッコミを入れながら料理を口に運ぶ。
「――まあ、ここもアイス家の領地だしね」
アーサーがぽつりと呟いた。
「アイス家?」
「ああ。世界会議の開催地にも選ばれるほどの影響力を持つ一族だよ」
「国王様ってことか?」
「違う。国家でも企業でもない。ただの家系だ」
「は?」
思わず間抜けな声が漏れた。
国家でも企業でもない、ただの『家族』が世界会議を招致する?
そんな馬鹿な話があるか。
「今から八十年前、領土も後ろ盾も持たなかった一人の男がいた。彼は医療、資源開発、物流事業で莫大な富を築き上げたんだ」
「たった八十年でそこまで?」
「今では世界中に病院、物流網、研究施設を持っている。国家予算を上回る資産を持つとも言われているね」
「研究施設……?」
俺はその言葉に思わず反応した。胸の奥が、嫌な音を立てて疼く。思い出したくもない記憶が脳裏をかすめる。
「そう。特に先進医療研究は有名だ」
「噂じゃ北極と南極の氷を全部溶かして、底に眠る資源を掘り出した――なんて話まであるわ」
ヴィアが長い青髪の先を指で弄びながら言う。
「環境保全団体が聞いたら卒倒しそうだな」
やっぱり大富豪ってのはロクなもんじゃねぇ。一人で頷いていると、アーサーが少しだけ声を落とした。
いつもの笑顔。
だけど、その瞳の奥だけがすっと冷たくなった。まるで別人みたいに。
「それより、二人とも祭りの時は気を付けた方がいい」
「ただの田舎祭りだろ?」
「アイスゲームの優勝賞品目当ての連中が集まってきている」
「優勝賞品?」
「何よ、それ」
俺とヴィアは顔を見合わせた。アーサーは一瞬だけ周囲を見回し、静かに言った。
「不老薬だよ」
【主人公】
◇ロット(20):10歳まで雪の村で母ヴィアと暮らす。その後、研究所に9年囚われた末に脱出。後遺症で髪が黒くなり性格も変わった。ブランカ村でアルバイト配達員として生計を立てる傍ら、母ヴィアの手掛かりを探す。
◇アーサー(20):職場で出会った金髪の優しい親友。ヴィアのことになると過保護になるのが玉に瑕。アイス家に対して良いイメージを持っていないようだ。
◇ヴィア(18):ヴァロン酒場の美人看板娘。ロットの母と同じ名前を持つ謎の少女。容姿端麗と裏腹に超毒舌。ロットとよくケンカをしている。
アイス家:世界総帥を名乗る名家。一代でできたと言われる。
アイスゲーム:ブランカ村で開かれるお祭り。




