第3話悪魔の蜃気楼
ブランカ村の朝は遅い。
氷の表層に囲まれた寒村は、太陽が生み出す渓谷の影と重なっているからだ。しかし、布団の中だけはぬくぬくと暖かい。そんな世界で、朝を迎える――。
ピピピッッ……
「んあぁ……?」
雪に反射する朝日を眺めながら髪を掻き上げ、自然と身体を伸ばす。いつのまにやら、夜の内に自宅に帰っていたようだ。
「さっさと出るか、ふぁーあ……」
依頼は……30件か。最近観光客が増えてきた。今日は帰りが遅くなるな……
ケータイの画面を眺めながら、どんよりした気分で洗面所へ向かった。
◇
「おい、俺の前をさえぎるんじゃねえ!!」
「「「ふしゃー!!!!」」」
仕事中、野良猫3匹が俺の前に立ちふさがる。
「そうかよ!そんなに邪魔したいんなら俺と競争しようぜ!勝ったら、ねこまんまくれてやらぁー!!」
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「……くそッ!!!!」
砂埃が凍える風に流され、白く宙を舞う。くそ……なかなかやるじゃねえか、野良猫の分際で。
「「にゃあ」」
「お?一匹いねえ。まっ、どっかで会えるだろ。悪ぃな!仕事仕事。」
◇
「お届けに上がりました、お待ちどおさまです!」
「ごくろうさま」
ふぅっ……あと1件か。げっ!
「げっ。とはなんだい?」
「アーサー」
やぁ、とにこやかに手を上げる。相変わらずのヤローだ。
「悪いな、まだ仕事がある。」
「ああ別に構わない。それより荷物の件だよ。」
「?」
「その配達先、住所も名前も書いてないんじゃないかな。」
なんで分かる?
「君が最後に残して、会うのを嫌がってる人物。」
「すげーなお前、探偵でもやってたのか」
「チップも預かってる。それじゃ。」
「ああ」
配達の終了間際に、スキマ時間ができた。
「しゃーない、さっきの猫一匹探してやるか」
◇
「くそっ!!!いねえっ!!!」
まったく時間ばかりかかりやがるぜ。
「「にゃあ」」
あと一匹。
みけ、ぶち、白の三匹のうち――やっぱり白がいねえ……そういえば、どこで別れたっけ……?
迷ったぞ。おかしいな、この辺りは仕事で普段から通ってる道なんだが、気付けば酒場の前に立っていた。
「「にゃあーん」」
「やあ、やっときたね!」
勢いよくドアを開け、迎え入れる明るい金髪が見える。
「アーサー!ってことは――」
「あら、ずいぶんな言い草ね。」
座っているだけで場の空気が凍る。カウンターに腰を下ろしていた少女がツカツカ……とこちらに歩を進める。
氷を模した衣装が店内の光を受けてきらりと瞬いた。透き通った肌に整った顔立ち。その上で、目のやり場に困るほど自己主張の激しい胸元。
長い青髪が肩を滑り落ちた。
一瞬だけ心臓が止まった。
――ヴィア。
あのクソ研究所を出て思い知ったが、ヴィアなんて名前は別に珍しくもなかった。
名前も、青い髪も。俺が探し続けている母さんと同じだ。
だが、性格は母さんとは似ても似つかず、超最悪女だった。
ガスッ――ドカッ、バキッ!!
「……っつう」
見た目に騙された。
気付いた時には地面とキスをしていた。身体中から鈍い音がした。
「あら、全部命中したわね。」
「何しやがるッ!!!」
「あんたが届けるのが遅いんでしょ。次はもう少しマシな言い訳考えてから来ることね。」
「看板娘たぁ笑わせんな!客を呼び込むどころか、気に入らねえ奴を全員あの世へ送り込みそうな面構えだ。」
「にゃーん」
あいつの足元にいた白猫が、のそのそと俺に近づいてきた。
「ヴィアが主人かよ……」
【主人公】
◇ロット(20):10歳まで雪の村で母ヴィアと暮らす。その後、研究所に9年囚われた末に脱出。後遺症で髪が黒くなった。ブランカ村でアルバイト配達員として生計を立てる傍ら、母ヴィアの手掛かりを探す。
【友人たち】
◇アーサー(20):職場で出会った金髪の優しい親友。ヴィアのことになると、過保護になるのが玉に瑕。アイス家に対して良いイメージを持っていない。
◇ヴィア(18):ヴァロン酒場の美人看板娘、ロットの母と同じ名前を持つ謎の少女。容姿端麗と裏腹に超毒舌で、ロットとよくケンカをしている。




