第2話遅れてきた男
さらに、1年後――。
ガチャ……
「お届け物です、お待ちどおさまです!」
気温は10度——10月も下旬に入り、雪を踏みしめながらの配達仕事だ。
俺はお客様を前に今日もにこやかに笑顔であいさつする!
「あら、いつもありがとうね」
バタン……
ふぅ、今日の分の配達が終わった。俺はロット。3か月前に、ここ"ブランカ村"にきた男だ。ヴィアの手掛かりはまだ見つからない。
だが諦める理由もなかった。
白銀の秘境と称される、標高2000メートルの山奥。人口600人程の観光集落。外界との移動手段はロープウェイしかない。……俺が生まれた村にどことなく似ている雰囲気。
俺はこの村に呼ばれている……
そんな気がしていた。母さん——ヴィアの手がかりは、必ずここにある。
「今日は15件周った。3000Iの儲けだ!」
(この後も酒場へいくか――)
いつも癖で会社から支給された端末の時計を見る。時間はまだ14時過ぎだ。
カラン……
「いらっしゃい」
「いつもの席で」
銀髪をオールバックにした老紳士のマスターがやってるヴァロン酒場に着いた。
アーサーはまだ来てないか。いつもあいつの方が早いんだがな。あいつらが来るまで少し休もう。今日はいつもより妙に疲れていた。
「……だとよ」
カウンター越しにマスターへ視線を向ける。
「いつものアイスを」
「これだ」
店内の隅に座る男たちと、一瞬だけ視線が合った。
二人は俺を見るなり会話を止める。
深く被ったフードの奥から、こちらを窺うような気配だけが残った。
おいおい、頼むから寝かせてくれよ……
ぎしっ……
「?」
(なんだよおい、やっとウトウトしてきたのに起こすなよ……)
「あんたに客だ」
「やあ、ロット。」
「アーサー、今日は遅かったな!」
寝ている俺を気遣って優しい声を掛けてきたのは、アーサーだった。
明るい金髪に真っ直ぐな瞳。男性にしては雪のように白い肌。鍛え上げられた体つきからは荘厳な騎士を思わせる雰囲気が滲み出ている。その口元には常にどこか人を安心させる笑みが浮かんでいる。
「どこにでもいるいい奴」に見えて、こいつは俺が今まで出会った中で一番、底の読めない男だった。
「アクマのおもりは、いいのかよ」
「そんなこというと、またぶたれるよ。」
「そんときゃ、俺をかばって殴られてくれ」
「冗談。」
こいつとも腐れ縁だ……
ブランカ村に来て配達の仕事を見つけ、職場で出会ったのが、アーサーだ。
「騎士のかっこしてる、ボディーガードだもんなー」
「うん?」
「あ、口に出てた」
「飲みすぎだよ。」
「それ、僕は飲まないよ。」
「なんだ、つきあいわりーな」
アーサーが手を振った先、俺のグラスに満たされているのは"アイス"——青い結晶とも呼ばれる、この村の名水だ。ただの水だがここでは一番人気がある。
「この後ちょっとね。それより仕事慣れたかい?」
「あぁ、誰でも出来る簡単な仕事だ……」
仕事の合間にブランカ村の住民と色々話してみると、村には女性が多い事に気づく。
しかもなぜか美人ばかりときたもんだ!
ちなみにアーサーは職場の先輩でもある。歳が同じなんで自然とタメ口になって、仲良くなった。
「君なら良い見習いシーフになれる。」
「騎士じゃねーのかよ!」
(どうせなら、騎士じゃなくて王になってやるわ!)
ワイワイ――
「先にお暇するよ、あの子を探してくる。」
「あいつは一体どこでサボってんだ!」
「彼女はいつも聡明だよ、きっと訳がある。」
「――マスター、彼の分も。」
「なんだ、……いいのかよ」
付き合いが良いんだか悪いんだか。
「それより見習いの件考えておいてくれよ!」
「本気だったのかよ……」
アーサーの野郎は、最初から最後までマイペースだった。
【主人公】
◇ロット(20):10歳まで雪の村で母ヴィアと暮らす。その後研究所に9年囚われた末脱出。後遺症で髪が黒くなった。ブランカ村でアルバイト配達員として生計を立てる傍ら、母ヴィアの手掛かりを探す。
【友人たち】
◇アーサー(20):職場で出会った金髪の優しい親友。ヴィアのことになると過保護になるのが玉に瑕。アイス家に対して良いイメージを持っていない。
◇ヴィア(18) | 母親と同じ名前の青い髪の少女。




