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四半期3位!!アイスマジック 死んだ少年が母の肉体で蘇り真相を追う!?  作者: 薬屋がいる限り1位無理!tanakatakusi
第2章 4女ディヴィアの誓い 学園ラブコメカードバトル編

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第19話地獄絵図

「2人の時であっても、その名前を呼ぶのは控えてもらいたい。どこで誰が聞き耳を立てているか分かったもんじゃないからな……」


 それがアンタ自身のリスクにもなるとスタンは忌々しげに身を竦めた。


「不老薬が手に入るのだ、これしきの事で浮かれて何が悪い! カハハハ……!!」


 図に乗り続けるウサは手元の分厚いカタログを眺め、この後に控えている夜の女たちの選別に早くも鼻の下を伸ばしている。その醜悪な姿にスタンは冷徹な一瞥をくれた。


「……次に会うのは大会本番だ」


 これ以上、この部屋に長居する理由はない。フードを被り直すことすら煩わしいと言わんばかりに、スタンはそのまま闇の奥へと足早に去っていった。

 残されたウサは、遠ざかる足音を聞きながら濁った瞳で小さく鼻で笑う。


「ふん……まだまだ青いのう」


 ◇ヴァロン酒場


 ――時は変わり、ロットが店にやってきてからしばらく経った夕方。


「――なんだと?」


 俺はカウンターの隅で、自分の耳を疑っていた。

 イルテがふん!とドヤ顔で語るには、学院で俺が披露した女装姿が、一部の女子生徒の間で悪目立ちの末に、妙なウケ方をしてしまっていたらしい。それをこの酒場の客寄せパンダとして今ここで再現しろというのだ。


「だ・か・ら! わたくしの類稀なる美貌には遠く及びませんが、一瞬だけでも店内で人気者になれるチャンスを差し上げているのですから、大人しく乗ってくださいまし!」


 おーっほほほ!と、彼女はいつもの高笑いを店内に響かせる。


「やるか! あんな恥晒し2度とゴメンじゃ!」


 全力で拒絶する俺の横でそれまで静観していたフルールが「そういえば……」と、カウンターの奥でガサゴソと何かを真剣に探し始めた。


「……? フルール、何を探して――」

「あ、ありました……。これ、ロットさんの未払いのツケです……」


「────────────────────────────────」


 突きつけられた現実の数字を前に、俺の思考は完全に停止した。


「い、いらっしゃいませぇー! お客さまぁーっ……!!」


 地獄。そこは紛れもない地獄の釜の底だった。

 フリルのついたメイド服に身を包まされ、引きつった笑顔でホールに立たされる。


「繁忙期ですので、とっても助かります……」


 語尾の消え入りそうな小さな声だが、キッチンから覗くフルールは心底嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。悪意の欠片も感じられないその表情を見るに、彼女は計算ではなく、純粋無垢な天然なのだろう。


「あら、そこの冴えない貴方。ロッテさんでしたかしら? 随分と笑顔が引きつっていますわよ! おーっほほほ!」


 『ロッテ』というのは、今回限定でイルテに勝手に命名された俺の源氏名だ。


 ニィーと楽しそうに俺の口角を指で強制的に釣り上げてくるイルテの手を、俺は必死に振り払う。おい! やめろバカ、接客中だぞ!!


「皆様、お客様っ!! 見苦しいところをお見せして申し訳ありませんですわー!! この子は今日入ったばかりの新人のロッテちゃんですの! 後でわたくしが、身も心もよーく教育しておきますの・で! おーっほほほ!」


 じゃじゃ馬なヴィアとはまたベクトルの違う恐るべき厄介さだ。おっと、今はロッテとしてお店のツケを返すための笑顔を絶やすな……!


 散々俺をオモチャにしたイルテは、今度は床に転がっている妹にターゲットを移した。

「ちょっとケイ、いつまで眠っていますの! 美しいわたくしの働きぶりを見習いなさいな!」

「……ん。イルテうるさい。……声、響く。あっちいって……」


 いつにも増して、めちゃくちゃ邪険にされている。ざまぁないなイルテめ!


「なんですって!? このわたくしが、わざわざ声をかけて差し上げているんですわよ! ほら、ロッテさん! 貴方もこの根暗な妹さんに何か言って差し上げたらどうかしら? ずっと部屋の隅っこにいるせいで、そこだけ空気が淀んでいますわ!」


 妹相手とはいえ、毒舌を吐く奴だ。さすがのケイも傷つくだろうが。


「まあまあ、イルテ。ケイはいつも通りだろ。……ほらケイ、チョコ食べるか?」


 俺は懐に忍ばせていたダークチョコレートを颯爽と手渡した。


「……ロット。……チョコ、出すの遅い。モグモグ……」


 文句を言いながらも、小さな口を動かしてしっかり完食している姿が微笑ましい。


「……それにしても、イルテ」

 チョコを咀嚼しながら、ケイはジト目を姉に向けた。

「……ロッテの顔、じっと見すぎ。……きもい」


「な、ななな何を言っていますの!? わたくしはただ、この方の着ている服があまりにも安っぽくて、わたくしの高い美意識に障るから見ていただけですわ! おーっほほほ! 変な勘違いをしないでくださる!?」


「……ふん。……嘘つき。ロット逃げて。この人目が全然笑ってない。……おやすみ」


「ちょっと、寝るんじゃありませんわよ! ロッテさんも、ニヤニヤしていないでさっさとキッチンから次の料理を取ってきなさいな!」

「へいへーい」


 イルテの怒声から逃れるように、俺は逃げるようにキッチンへと避難した。背後から「なな、なんなんですのー! その緊張感のない返事は!」という金切り声が聞こえる。


「フルール、次はいけるか?」


 食器を下げ、新たな配膳のために戦場のようなキッチンへ戻ると、そこにはせかせかと手を動かす銀髪の影があった。

 酒場のメニューだから簡単な冷凍ものかと思いきや、彼女はすべて一から手作りで調理を進めている。


「体力勝負だと思うが、大丈夫か?」


 声をかけたが、無言でフライパンを振る彼女の姿に圧倒された。普段の儚げで穏やかな雰囲気はどこへやら、今の彼女の佇まいは、さながら一徹な職人のそれだ。凄まじいギャップに、俺はただ驚かされるばかりだった。


「お待ち遠さま。これ、3番テーブルのね……」

「サンキュー」


 この凄まじい賑わいを見るに、今月いっぱいは大繁盛が続くだろう。幸い、俺の方は本業が休校措置でしばらく休みだ。ディヴィが戦線離脱した分の負担を少しでも減らすためにも、しばらくはこの酒場の裏方として手伝いに来るとしよう。


 ――フロアに戻ると、再びイルテの独壇場が始まっていた。


「おーっほほほ! 見なさいケイ、この溢れんばかりの気高き貴族の輝きを! さあ、この『豊穣の女神イルテ』の御前に跪きなさいな!」

「……イル、これ邪魔……」


 確かに、イルテのプロポーションは完璧と言う他なかった。この店の人気No.1看板娘という肩書きは伊達ではない。しかし、床に寝そべるケイの頭の上に覆い被さるように主張する二つの豊かな弾力をケイは鬱陶しそうに両手でむぎゅっと押し返した。


「この圧倒的な発育の差を! この豊かな曲線美こそ、わたくしの心の余裕と気品さの証ですわ! それに引き換え、貴方ときたら……どこを見ても真っ平ら。まるで冬の寒さで完全に凍りついたアリビオ湖のようですわね!」


「……うるさい。……それ、ただの、脂肪。……無駄な、質量。……歩く、肉の塊。……重そう、肩でも凝ればいい」


 普段は言葉数の少ないケイにしては、随分と饒舌に言い返している。イルテの煽りが相当にムカついたらしい。

 だがその瞬間だった。


 プチッ。


 ケイが苛立ち紛れにイルテのメイド服の裾を引っ張った拍子に、彼女の豊かな胸元を留めていた真ん中のボタンが、その圧倒的な母性に耐えかねて弾け飛んだ。


「ケイーーーー!?!?  このお馬ぁ鹿さんーーーー!!」


 顔を真っ赤に染め、まるで捏ねる前のパン生地のように双貌を振り回しながら、イルテはドタバタとケイを追いかけ回し始める。

 そのあまりにもコミカルな姉妹喧嘩に、店内の荒くれ客たちは大爆笑の渦に包まれた。


 ディヴィを襲ったあの恐ろしい慘劇や、自分のすぐ後ろにまで迫っている命の危機。そんな重苦しい現実をほんの一瞬だけでも忘れさせてくれるかのような知っちゃかめっちゃかな狂騒のなか、ヴァロン酒場は賑やかに、けれど確実に夜も更けていくのだった。

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