第12話波及する奏者
蛍光灯の下スポットライトのように照らされた少女。そもそも地毛がかなり明るい黄色の髪だ。
ピアノに座っていた時は分からなかったが、女生徒にしては背が高い。だいたい160センチくらいだろうか。
「こんな時間まで、アイスゲームの実行委員かしら?」
首を少し傾げる彼女の表情は、不思議そうでもあり、どこかあえてとぼけているようにも感じる。
「いや、音が聴こえたもんでな」
前に音楽室から聴こえてきたのはハープの音色だったが、今日はピアノだ。他の部員もまだ何人か残っているのだろうか。
「――お前も、アイスゲームに参加するのか?」
少なくとも、こいつは3年生じゃない。今日、校内のクラスは一通り見て回ったからな。だったら、本人に直感的に聞いてみる方が早い。
「お前だなんて、失礼だわ! 私は出場者ではなく、奏者としてよ」
――あなたが本戦に残っていれば、間近で聴けますわ。
そう言って、彼女は高らかにクスクスと笑った。典型的なお嬢様のようだ。今にも「おーっほっほ」とか言い出しそうな気品と少しの尊大さがある。
「それではご機嫌あそばせ――」
すれ違いざま、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
ヴィアやディヴィも相当な美形だと思ったが、彼女はどこかアイドルっぽい華やかな可愛らしさを持っている。学校じゃさぞかし男子人気が高いに違いない。
◇
夜。俺はいつも通り、アーサーの家にいた。
まだ家主は帰っていない。代わりに帰り道の路地裏で『白』を拾ってきた。
「にゃーあ」
「なぁ白、俺たち命を狙われてるんだぜ?」
当の白に問いかけても、気の抜けた「にゃあ」しか返ってこない。仕方がないので、俺の頭の中にいる『妄想白』と脳内会話をすることにした。
『ご主人、ゲームの勝率は半分もないんじゃないかにゃ?』
『ヴィアやアーサーがいるとは言え、優勝は人頼みじゃにゃぁか』
――こいつ、猫のくせに言いづらいことをズバズバと……!
「うるせぇ! 最悪3人の内誰かが勝てばいいんだよ!」
『あまいにゃ!』
ボコっ!!
妄想の中で強烈な一撃を喰らって吹っ飛ばされた。猫パンチって威力じゃねえぞ。
『そもそも不老薬が本当にあるのかにゃ。交渉が決裂した場合、ご主人も含め皆殺しにゃ!』
「怖えーこと言うな! どうせ金持ちばっかり来るんだからよ、いざとなったらヘリを奪えばいいんだよ、ヘリを!」
『あまいにゃ!!』
今度は視界がホワイトアウトした。妄想白、恐るべし。
「――何やってんのよ。ついにあんたの本性が出たわね」
気がつくと、キッチンから冷ややかな視線を送るヴィアが歩いてきていた。
白にボコボコにされる妄想をしながら、床にひっくり返って一人でジタバタとじゃれ合っていただけだ。失礼なこと言うんじゃねえ。
「いやらしい」
「妄想を飛躍させるんじゃねえ!」
むしろこの状況から変なコトを連想して考えているお前の方が、よっぽどいやらしいだろうが!
しかし、アーサーの奴は一体どこで何をやっているんだ。しゃーない、ちょうどいいからヴィアに明日の練習相手になってもらうか。
「お前をボコす戦術を練ってたんだよ。白と一緒にな!」
「私相手じゃ一生無理よ」
ヴィアはふっと不敵に微笑む。
「――心でも読めない限りね」と、小さく付け加えた。
何が言いたいんだろう……? 俺がヴィアの気持ちを読めてないってことか?
そういやこいつ、前にイルテって奴に負けてたな。
「非公式戦でアーサーが無敗、お前が1敗、俺が50敗……」
改めて数字にしてみると、こいつらの強さはやばすぎる。ほんとにゲームは初めてか? と疑いたくなるレベルだぞ。
「私たちの勝率を上げる為よ。協力してあげる」
「なんだ手伝ってくれるのか」
「命がかかっているもの。……私の分もね」
ヴィアはカードを分けながら、容赦のない条件を突きつけてきた。
「0時までに私から3勝できなければ、校内戦は徹夜で臨みなさい」
「むちゃ言うな!」
「ここで私に勝てないなら、アイスゲーム本番の優勝なんて無理よ」
チッ、ぐうの音も出ない正論を言いやがって……! 分かってるよ。
「よし、改めて再戦と行こうじゃないか!」
◇
「ただいまっ」
深夜、アーサーがどこか軽快なトーンで帰ってきた。
外で運動でもしてきたのだろうか、心なしか少しスッキリした顔をしている。
結局の所ヴィアとの勝負は深夜遅くまでかかってしまった。
時間切れという形にはなったが……ギリギリ3勝した。今回は最低限の睡眠時間は確保できそうだ。
「フン――最低限度ね」
ヴィアはそう言い捨てると、そっぽを向いて部屋を出て行ってしまった。どうやらシャワーを浴びるらしい。
「おい、家主のアーサーが帰ってきたぞ!」
「まぁまぁ」
不満を漏らす俺を、アーサーが苦笑しながら宥める。
「明日の校内戦、楽しみだね」
「お前は余裕だろ」
「本番はそんな事関係ないさ」
相変わらず、どこまでも爽やかな男だ。
「どこ行ってたんだ? 心配したぜ」
「仲間を増やしにね。――おや、いい勝負をしてるじゃないか」
アーサーは机の上に残された戦績表を見て、楽しそうにニコニコしている。
本番は俺たちの命がかかっているってのに、やっぱりこいつもどこかネジが飛んでるというか、イカれてるな。
アーサーはそれで満足したのか、持ってきた資料を読みながら、いつの間にかソファで眠りについていた。
……よし、俺も寝るか。
まず明日――いや、もう今日か。校内戦、絶対に勝つ。
根拠はないが、この戦いが、俺たちの未来を大きく変えるような気がしてならなかった。




